第278話

チクチクと胸が痛む。ベッドに横になり、目を瞑ると泣いている晴菜さんを思い出し強烈な痛みに襲われる。

こんな平凡で取り柄もない私が晴菜さんに想いを寄せられていたなんて、まさかでしかなく何度かもしもとは思ったことがあるけどありえないが根底にあった。


ここまま晴菜さんとは距離を置かないといけないのかな。きっと前みたいには戻れない。

私はどうしたらいいのか分からない。悔しい、何も出来ない自分が情けなくて。

もうすぐ芽衣からバイトが終わったと電話が掛かってくるはずだ。今日は私が休みだから本当は家まで送りたかったのに、何も出来ていない。



「水希、入るわよ」


「お姉ちゃん…」


「風邪薬、一応飲んだ方がいいわよ。もしもがあるから」


「ありがとう…助かる」



夕食を食べた後、少しだけ体のだるさを感じていた。今は熱はないけど、明日になったとき熱が出ているかもしれないから早めの予防は大事だ。

お姉ちゃんから風邪薬を貰い水で流し込んだ。錠剤じゃないから苦く、舌に残る。



「私ね、家庭教師の件を今度晴菜さんと話そうと思っている」


「えっ、何を」


「私が晴菜さんの家で勉強するの。晴菜さん、きっと家に来ずらいと思うから私が通ったらいいかなって」


「ごめんなさい…私のせいで」


「恋は仕方ないわよ…晴菜さんも水希に恋人がいるのを分かってて恋をしてしまったんだから。100%、水希が悪いけどね」


「はい…」



もし、お姉ちゃんが晴菜さんの家に通うことになったら私は晴菜さんに会うことがなくなるだろう。

きっと、図書館にも来ないだろうし私と晴菜さんの縁は切れることになる。



「水希って何でモテるんだろうね」


「分からないよ…」


「一年生に手を出したら怒るからね」


「出さないよ!」



私に魅力なんてないし、運良く生徒会長になり奇跡で芽衣と付き合えた。私は運が良かっただけだ。



「明日、芽衣ちゃんとデートでしょ。顔に出さないようにね。今日のことは絶対に言ったらダメよ」


「うん…気をつける」



お姉ちゃんが部屋から出ていき、私はまたベッドに横になった。自分のインスタを開き思い出の写真を見る。

最初の頃の写真は芽衣と距離を置いていた時の写真で切ない気持ちに陥る。もう、芽衣と距離を取りたくない。


写真を見ながら芽衣のことを考えている時、電話が掛かってきた。一瞬、芽衣!と思ったけど相手は真里ちゃんだった。

何だろうと電話に出ると真里ちゃんは泣いていて朱音ちゃんと喧嘩したと相談された。

仲がいい2人なのに、何があったのだろうと話を聞いていると…真里ちゃんが幼馴染とキスしたことがバレたらしい。


私がひかるにキスをされ、芽衣にバレた時と同じパターンだ。きっと、朱音ちゃんは真里ちゃんが既にキスの経験があるのを知りショックを受けたに違いない。

真里ちゃん的には不可抗力でも、きっと朱音ちゃんからしたら辛いはずだ。芽衣も泣いていた…それに私は晴菜さんの件もあるから胸が痛む。芽衣を苦しめてばかりだ。



「朱音が電話に出てくれなくて…」


「明日、会いに行った方がいい。会ってくれなくても、会ってくれるまで頑張るしかないよ。それに直接話し合った方がいいし」


「分かりました…」


「きっと今ね、朱音ちゃんはパニックになっていると思う。だから、ちゃんと説明して許してもらうしかないよ」


「はい…急に電話してすみません」


「いいよ。気にしないで」



私の周りでも色んなことが起きている。一体どういう経緯で真里ちゃんのキスの件がバレたのか分からないけどこれからが大変だ。

ずっと朱音ちゃんは不安になるし、幼馴染の志穂ちゃんを敵対視するだろう。

お遊びのキスなのか分からないけど、好きな人のファーストキスを奪われた。


真里ちゃんとの電話が終わり、大きく溜息を吐く。相談されて、モテる真里ちゃんの恋人の朱音ちゃんの心情がよく分かる。

芽衣もモテるから私もいつも不安だ。だけど、問題を起こしているのはいつも私で芽衣を泣かせている。泣かせたくないのに…。

晴菜さんのことを考えると苦しいし、芽衣のことを考えると苦しい。


ずっと苦しいが消えなくて、めちゃくちゃ辛い。私は芽衣を幸せに出来るのかな。

芽衣は私よりもっと良い人がいるのに、私の恋人でいてくれる。こんな不甲斐ない恋人で申し訳ない。未来に向けて頑張ると決めたのにずっとウジウジしている。

全て話すことがいいわけじゃないと姉ちゃんは言った。きっと、それは私だけがスッキリして芽衣が苦しむだけだからだ。


懺悔は言った方は楽になる。でも、された方はずっと心にしこりを残し悩み続ける。

だから私も苦しみ続けないといけない。晴菜さんや芽衣の分までずっと。

二度と同じ過ちを犯さないように、私は晴菜さんとのキスを心にしまい鍵をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る