第269話

昨日はほとんど寝れなくて、鏡を見たら目の下に薄っすらクマが出来ていた。私は心が落ち込むと眠れなくなる。

別に晴菜さんがインスタの写真を消しただけなのに落ち込みすぎだ。だけど、心が沈んで浮上することがなく気持ちが上がらない。



「水希、早いわね」


「今日は芽衣と海に行くんだ」


「気をつけていきなさいね」


「うん、行ってきます」



寝起きのお姉ちゃんに挨拶して靴を履き、玄関のドアを開ける。空は青空で眩しかった。だけど、今の私としてはもうちょっと暗いぐらいの空の方がいい。

気持ちが晴れ渡ってないから、青い空に気後れしてしまう。私の心もこんなに綺麗な青空だったらいいのにって。


朝から暗い思考にしかならない私はこんな考えじゃダメだと頬を叩き気合を入れ直し、急いでバス停まで向かった。今日を楽しみにしている芽衣が待っている。

バスに乗った後、休憩を兼ねて耳にイヤホンを挿しごんちゃんと聞いた曲を流す。


バスから見える空が丁度いい明るさで、バスの中から見える景色の流れを感じながら曲と歌詞と歌声に聞き入る。

ふと、「君が好き」って好きな人に言えることがどれだけ幸せなのかと考えた。

私の恋は上手くいき芽衣と付き合えた。だけど、ごんちゃんは言えずに歌で口ずさんだ。


諦めた恋…諦めるしかなかった恋は好きな人に「君が好き」って言葉が言えない。

秘められた想いは言葉にすると告白になり、保っていた関係が変わる。

秘めた恋心が消えるまで心を誤魔化し、空を見上げる。涙が落ちてこないように空を見上げ空の美しさに感動する。


恋心が消えるって言葉が寂しい。旅立って行くって言った方がいいかな。旅をして、スッキリとした新たな感情になれたら旅が終わり戻ってくる。そして、一回り成長した自分になり新たな恋をする。

こっちの方がいい。好きだった気持ちを消すのは寂しいし旅立ちの方が切なくなくなる。



一度、携帯で時間を確認する。あんまり早く来ちゃうと芽衣に迷惑を掛けてしまう。

約束の時間の5分前に着いたことを確認してインターホンを押した。すぐにドアが開き、芽衣が笑顔で向かい入れてくれる。

おはようと挨拶をし、芽衣と笑い合った。


幸せな1日の始まりだ。いつか思い出の場所に行き、あの頃はって話をしてみたかった。

あの頃の自分は今よりかなり幼い。私は芽衣と付き合い色々なことを体験してきた。

まだ、海に着いていないのに想像して楽しい気持ちになる。あの頃って懐かしめる思い出になれて良かったって。



「芽衣、海が見えてきたよー」


「本当だ。久しぶりだね」



電車の窓から去年来た海が見える。一気に懐かしい気持ちになり、芽衣と去年の思い出を話し合った。

芽衣の水着がビキニで派手だったと愚痴を言うと「あれは…水希に少しでも意識してもらう為に///」と恥ずかしそうに言われ一気に興奮に変わる。


そっか、私の為だったのか。へへ、確かにめちゃめちゃ意識したし海での抱っこはお胸をめちゃくちゃ感じれて照れたな。

よく考えたら、海で水着で抱っこって最高のシュチュエーションだ。顔が近いし、布の量は少ないし何よりエロい。よし、今年も海に行かなきゃ。



「海ー!」


「風が気持ちいい〜」


「芽衣、もっと海の近くに行こう」


「あっ、待ってよ。走るの禁止」



潮風の匂いが鼻腔を擽る。久しぶりに嗅いだ匂いは私の体をスッキリさせる。昨日から悩んでいたことが和らいで、晴菜さんは分岐点にいるのかもしれないと思った。もしかしたらリセット的な意味があるのかもって。

何をリセットしたのか分からないけど、私も悩みがなくなると心にリセットを掛ける。


新たな気持ちで前を向く。晴菜さんのインスタの写真がないのは寂しいけど、良い意味でのリセットだったらいいな。

私のインスタは徐々に写真が増え、芽衣といいねを付け合っている。私は空の写真が多く、芽衣は小物や景色の写真が多い。



「芽衣、写真撮ろう〜」


「海をバックにがいいよね」


「そうだね、こんな感じかな?」


「うん、良い感じ」



芽衣と思い出の写真がまた一枚生まれ、砂浜に向けてお互いピースしている手の写真をインスタに投稿した。

写真を見ながら幸せを噛み締める。芽衣も嬉しそうにしていて誰もいない海で芽衣を抱っこしメリーゴーランドのように回った。


青春って楽しい。恋って楽しい。高校入学したとき憧れ、思い描いていた人生を満喫できている。

この幸せなキスはきっと一生忘れられない思い出として残るだろう。だけど、もっともっと幸せな思い出を作りたい。

波の音がBGMとして最高の音楽になり、私は幸せに酔いしれた。



「芽衣、好きだよー」


「私も好きー」


「ずっと一緒にいてくれる?」


「絶対、離れてあげないー」


「約束だよー」



恋をいくつもして成長する人もいる。だけど、私は一つの恋でいい。

この一つの恋と一緒に成長していきたい。本気の恋を知ったとき私の世界に色が付いた。

ピンクは私の好きな色で似合わない色だけど私を夢中にさせる。芽衣はピンクのマーガレットみたいに可愛い女の子だ。

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