第268話

私はごんちゃんに電話を掛け、話をした。電話に出てくれたごんちゃんの声は嬉しそうではなく、苦悩した声だった。



「ごんちゃん…」


「水希、、私、どうしたらいいのかな」


「何があったの…?」


「好きな人の彼氏が浮気をしたらしくて、それで慰めるために抱きしめた…。でも、下心とかなくて支えてあげたかっただけなの」


「そうなんだ。それで、、流れでキスされたってこと?」


「うん、ビックリした…だって、普通そんな流れにならないでしょ」



確かに、普通はそんな流れにならない。偏見とかではなく、異性とだったらよく漫画や恋愛映画であるシーンだけど同性の場合はないに等しい。

だからこそ、ごんちゃんは相手の意図が分からず戸惑っている。だって、相手はごんちゃんが好きって知らない。



「急にキスされたの?」


「うん…」


「相手の気持ちが分からないから難しいね」


「目が合ってさ…見つめ合ったら唇が近づいて来てって感じだった」



ごんちゃんの好きな人が仮名でリナさんとする。リナさんに彼氏がいるってことは恋愛対象は男性のはずだ。まぁ、でもそれは一度置いとく。私も芽衣も元々そうだし。

弾みでキスをしたのか、雰囲気に呑まれてしたのか…どっちとも微妙すぎる。だって、2人の間に恋愛関係はないし友達同士でのお遊びのキスでもない。


もしかして、リナさんはごんちゃんの気持ちに気づいていたの?だから、優しくしてくれたごんちゃんに縋ってしまった。

難しい、難しいよ。リナさんの気持ちが全然分からないからキスの意味が分からない。相談に乗りたいけど私には無理難題すぎる。



「深く考えない方がいいのかな…」


「どうだろう…難しすぎて」


「きっとさ、自暴自棄になっていたんだと思う。偶々、抱きしめたのが私だったってことだよね」


「ごんちゃん…」


「まさか、こんな形でファーストキスするなんて思わなかった。全く嬉しくないね…」



誰でもよかった訳ではないと思う。きっと、ごんちゃんだからだよ。だけど、私は言葉にしなかった。

憶測でしかないし、もし…リナさんに謝られたとき私の言葉がごんちゃんを傷つける。



「私も女だけど女心って難しいね」


「私も分からない」


「だから、水希はいつも芽衣に怒られるんだよ」


「くそ、言い返せない」



最後、ごんちゃんに明るい声で「ありがとう」って言われ私は電話を切った。隣で芽衣が心配そうな顔をする。私は説明をし、芽衣が辛そうな顔をする。

言葉が悪いけど、やっと決心したのに好きな人にごんちゃんは振り回された。

これで、上手くいけばいいけどきっとリナさんは彼氏と仲直りするか…ごんちゃんに謝り元の形に戻る可能性が高い。


だから、ごんちゃんは期待をしない。声が戸惑っているだけで明るくなかった。

誰でもよかった…って私には無理な考えだ。私は絶対に好きでもない人とキスもエッチもしたくない。

だけど、、犯してしまうこともある。晴菜さんのことを考えると辛いよ。



「芽衣…好きになってくれてありがとう」


「それは私もだよ」



花びらが散る。桜は春の季節が終わると花びらが散り、新たな年にまた満開の花が咲く。恋も一緒で、ごんちゃんの恋もきっと満開になる日が来るだろう。

出会いと別れがあり、、今日、ごんちゃんのリナさんを想う横顔が綺麗だと思った。今のごんちゃんはどんな想いでリナさんのことを考えているのかな。


儚く散った想いが悲しい結果にならないようにしてほしい。綺麗な思い出として想いを心に留められたらと思った…綺麗事かもしれないけど私の素直な気持ちだ。

こんな風に思っていた私はどこか人ごとで、もう少ししたら自分に返ってくる。ごんちゃんの辛そうな声を聞いたのに、私はリナさんと同じことをする。



試験が終わり、晴菜さんと・・・



まだもうちょっと先の話だ。明日は芽衣と海でデートをし、カフェに行く日。

芽衣を家まで送り、外から見えないようにそっと壁に隠れ芽衣にキスをする。

一度ギュッと抱きしめ、愛情を送った。その後、家に帰りお風呂に夕ご飯を食べる。筋トレをしてお風呂に入り私は勉強を頑張った。


明日は早く起きるから携帯にアラームを設定し、インスタを開く。Hさんのインスタは相変わらず更新してないって思っていたら、写真が全て消えていた。

アカウントはあるけど写真が一枚もない。桜の写真もデートしたってコメントが書いてあった空の写真も無くなっていた。



もうすぐ春から夏に季節が変わろうとする。私の心は急に不安の気持ちに陥る。晴菜さんと岩本さんの見えない壁を思い出し、、急速に私の周りが変わろうとする。

そろそろ寝ないといけない。だけど、電気を消し目を瞑るけど眠れない。

ずっと変わらない人生なんてない。必ず分岐点があり、その選択で人生は変わっていく。


そして、分岐点によって離れていく人もいる。晴菜さんと岩本さんは私より4歳も年上だ。恭子先輩や早川先輩達も高校を卒業したらきっと私との距離は遠くなる。

年齢差があるとずっと同じ時間を共有できない。でも、それは同じ年でも言える。分岐点がある限り関係ないのかもしれない。


分かってけど苦しい。考えが甘いって分かってる。だけど、すぐには大人にはなれない。

私は芽衣とは絶対に離れないつもりだ。だけど、ごんちゃんやさわちん、ひかるなどいつか分岐点で離れていくかもしれない。

だからこそ今を大事にしないといけないって、切ない気持ちになった。

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