第267話
黙々と仕事をし、時々二階を見上げ芽衣と目があったら手を振り合う。私のバイト先まで来てもらうのは申し訳ないけど、俄然仕事にやる気が出るから嬉しい。
「水希ちゃん、こんにちわ」
「あっ、岩本さん。こんにちわ」
岩本さんは4歳も年下の私にいつもフレンドリーに声を掛けてくれる。いつもニコニコしてて…あれ、今日はなんだか暗く感じる。
だけど、「仕事、頑張ってね」と言って下さった後スタスタと本棚の所へ行ってしまった。
図書館だから普通の行動なんだけど、なぜか違和感を感じた。だけど、岩本さんの心の内を知ることなく私は仕事を再開させる。
また黙々と本を戻す作業を開始した。コツコツする仕事が好きでこのバイトが楽しい。
「水希、何ボッーとしてるの」
「えっ、あっ、、何でもないよ」
いつのまにか動かしていた手が止まり、思考も停止していた。お姉ちゃんに声を掛けられ、ハッとしたあと手の動きを再開させる。
早くやらないと仕事が終わらない。しっかりバイトを頑張らなきゃ。
だけど、岩本さんの態度に違和感を抱き気になって仕方なかった。今度は岩本さんに見えない壁と距離感を感じる。晴菜さんと一緒だ。
痛っ!手から落ちた分厚い本が足の上に落ちた。モヤモヤした気持ちが私の心を曇らせる。本が重く、足と心までもが痛い。
◇
今日のバイトが終わり、私はエプロンを外し伸びをする。芽衣はもう入り口の所で待っているから急いで行かなきゃいけない。
私はスタッフさんに挨拶をし、裏口から自転車を押しながら急いで芽衣と合流した。
芽衣とは明日、晴菜さんに教えてもらったカフェと夏に行った海に行く予定で楽しみなんだ。思い出の場所に行くってワクワクする。
去年の懐かしい思い出を回想しながら、芽衣とのんびり海辺を歩きたい。
夏に行った海は芽衣とはまだ付き合う前の場所で、、初めて晴菜さんに出会った場所。
何となく、微かな記憶だけど今より少しだけ派手なイメージがある。黒の水着だったし、20歳の大学生が凄く大人に見えた。
「水希?」
「えっ?何?」
「話…聞いてなかったんだ」
「あっ…ごめん」
あー、やっちゃった。芽衣と話をしていたはずなのにいつのまにか私の思考は去年の夏の思い出に飛んでいた。
「明日…時間は朝の8時でいいの?」
「うん、芽衣の家に迎えに行く」
「遅刻厳禁だからね」
「分かってる」
明日は6時半に起きて準備する予定で、今日は自主勉強と筋トレをしたらすぐに寝なきゃ。芽衣にも遅刻厳禁って言われたし。
春の海が楽しみだ、夏の海とは違った景色が見られそうで出来れば春夏秋冬で行きたい。
「芽衣、いっぱい思い出の場所を作ろうね」
「うん、いつか旅行にも行きたい!」
「温泉行きたいな」
「2人で露天風呂に入りたいね」
花咲く未来は眩しい。私にはやりたいことが沢山あり、一つ一つ叶えていきたい。
お揃いのネックレスを買えたし、次は芽衣と旅行に行かないと。あっ、大学構内にある桜がだいぶ散っている。
そうだよね、もう5月だ。桜のシーズンは終わっている。微かに花びらが残る桜が春の季節の終わりを告げ、季節が変わる。
もうすぐ梅雨になり、夏が来る。季節は変わるのが早い。特に春と秋は短く、あっという間に過ぎて行く。
「桜、だいぶ散ってるね」
「うん、なんか寂しい気持ちになる」
「水希は好きな花とかある?」
「そうだな、ピンクの花が好き」
「そうなの?でも、何でピンク?」
「うーん、よく分からないけど惹かれる色なのかも」
ピンクの花は可愛さと美しさを兼ね備えている。私には似合わない色で、だから憧れがあるのかもしれない。
桜の花びらが私の方に飛んできた。服に付いた花びらを取り、ポケットに入れる。後で、押し花にしようと思ったんだ。
「あっ…ごんちゃんからLINEが来た」
「どうしたのかな?」
「えっ…好きな人からキスされて、、悩んでるって書いてある」
ごんちゃんから来たLINEの内容は衝撃的な話で芽衣も驚いている。
ごんちゃんの好きな人には恋人がいる。だから、ごんちゃんは失恋をした。今日、悩んでいた恋をやっと認めたことを話してくれて、失恋したって苦しそうにしていたのに。
何でこんなことになったの?恋人がいる人にキスされたってどういうこと?
浮気では無さそうだから、衝動的にされたってことなのかもしれない。もしかしたら、ごんちゃんの好きな人に悩みがあって、、2人の間で何かがあったのかも。
人は弱っている時、優しくされたりすると時々間違いが起きたり思ってもみなかった方向にいくときがある。
私は未来ちゃんのことでお姉ちゃんに怒られた。さわちんのことで悩んでいる未来ちゃんにあんな風に優しくしたら勘違いすると。
私には芽衣がいるから間違いは起きないけど、もし優しくしてくれた人が自分を思ってくれている人だったら何かが起きるかも。
それは愛か、、過ちなのか。キスをされたごんちゃんはめちゃくちゃ戸惑っている。だって、諦めた恋がいきなり方向を失い彷徨う。
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