第235話

「水希ー!朝からうるさい!」



えっ、起きたばかりのお姉ちゃんがドアを開けて入ってきた。私は一気に血の気が引く。お姉ちゃんに部屋に入るなと言われていたことを忘れていた。

お姉ちゃんも晴菜さんが泊まっていることを忘れていて、更に私が出禁を破って晴菜さんとベッドの上で戯れあっている姿を見てフリーズした。



「あっ、菜穂ちゃん。おはよう」


「・・・はっ、、おはようございます!」


「お姉ちゃん、、おはよう」


「水希、、おはよう」



これはきっと正座させられて怒られるパターンだ。今は晴菜さんがいるから大丈夫だけど、学校から帰ってきてからが怖い。

2時間ほど正座させられて夕ご飯抜きを命じられるかも。だって、晴菜さんが携帯で時間を確認しているとき一瞬で私を見る顔が般若の顔になった。めちゃくちゃ怖い、、



「晴菜さん、洗面所を先に使って下さい」


「菜穂ちゃん、ありがとう」



嫌だ、晴菜さん行かないで…晴菜さんが下に降りて私はお姉ちゃんと2人きりになった。

一気に空気が暗く重く、部屋の中にいるのにお姉ちゃんの後ろには雷が落ちている。



「家に帰ってきたら分かってるわね」


「はい…」


「一応、これだけは聞くけど…何も、、」


「ないです!絶対にありません」



仁王立ちで立っているお姉ちゃんと何も言われなくても床に正座をしている私。何も悪いことはしてないはずだけど、約束を破ってしまったから仕方ない。

うぅ、頭が痛い。こめかみを拳でぐりぐりされ、涙が出そうだけど我慢する。

悪い子にはお仕置きを。お姉ちゃんが天誅!と言いながらするから逆らえなかった。


家に帰ったらどんなお仕置きが待ってるの?夕ご飯抜きだけは絶対に嫌だ。私、今日の夕ご飯を知ってる。昨日夜遅くに帰ってきたお父さんが、進級のお祝いを兼ねて久々にお寿司でも取るかと言ってくれた。

お寿司は絶対に食べたい!ずっとバイトも頑張って偉いと褒められ喜んだから。



「ふぅ、そろそろ用意しないと始業式なのに遅刻しちゃうわ」



やっとお姉ちゃんのお仕置きから解放された。こめかみをさすりながら立つと最後に「距離感を考えなさい」とキツく言われる。

確かに反省しなきゃ…私に男性の恋人がいたら晴菜さんとの戯れあいは可愛いものだった。でも、私が付き合ってるのは女の子だ。


お姉ちゃんも私が芽衣と付き合っていなかったらここまで言わない。芽衣と付き合ってるからこそ、芽衣以外の女の人との距離感を考えないといけないんだ。

頭では分かってるのに、気をつけているのに時々忘れて境界線を超えてしまう。



晴菜さんは可愛いくて綺麗な人だ。頭も良くて優しい人で、だからこそ幸せになってほしいといつも願う。

笑顔がね、可愛いくてつい見惚れてしまうこともあるし、、やっぱりこの笑顔を守りたいと思うのはダメなのかな…。


私が男だったら惚れていただろうな。アタックとかは出来なくて見てるだけの片思い。

私が女だから話せて仲良くさせてもらっている。だから、同性でよかった。

私の周りは何でこんなにも可愛くて綺麗な人が多いんだろう。前世の私の行いがとても良かったのかな?


中学までは普通の生活だったのに、高校生になって一変した。明後日は入学式で進級する私の周りはどう変わるかな?

2年生になっても変わらないとは思っているけど、未来なんて分からないし…とりあえず芽衣と変わらずラブラブだったらそれでいい。



「ほら、水希。早く着替えるわよ」


「うぃっす」


「陸上部辞めて柔道部にでも入る?身長あるから合うかもよ」


「やだ!まず、学校には柔道部ないし。女子力をこれ以上失いたくない」


「柔道部の人に失礼でしょ。それに女子力なんて本人次第なんだから、水希が無さすぎるだけよ」



痛いところを突かれ朝から私は撃沈する。全ては私次第なんだ。私は頬を叩き、頭を切り替える。昨日みたいな邪な考えを除去し、晴菜さんとの距離感考えなくっちゃ。



「あっ、お姉ちゃん…晴菜さんに好きな人がいるみたいなんだけど、、」


「晴菜さんに言われたの!?」


「違うよ、岩本さん」


「人の恋路は見守るのが一番よ…」


「そうだよね」



私が動いたところで晴菜さんの恋が上手くいく補償はない。寧ろ邪魔をしてしまうかもしれない。だったら陰ながら応援しよう。

上手くいくといいな。本当に好きな人がいるのかハッキリとは分からないけど、やっと辛い恋の思い出から脱却出来たら嬉しい。


晴菜さんの想い人が真面目で優しくて、クソ元彼野郎みたいな最低なタラシじゃなければいい。浮気する奴は最低だ。

でも、私もよくタラシと言われているから最低なのかな…自分では分からないし。

私のどの部分がダメなの?人に優しくしたらタラシになるの?私も恭子さんと同様普通の優しさが分からなくなりそうだ。

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