第205話

私と芽衣は慌てて離れたけど、きっと見られた。だって、お姉ちゃんの目が大きく見開き口をポカンと開けている。

晴菜さんは芽衣をジッと見ている。そして、私を見て…目が合った瞬間、目を晒された。


最悪だ。最悪すぎる。何でドアのノックしないかな…ノックしてくれていたら芽衣とのキスを見られずに済んだのに。

芽衣はお姉ちゃんにキスを見られ、あまりの恥ずかしさに私に抱きつくように顔を隠す。


私も恥ずかしくて顔から火が出そうだ。時間を巻き戻したい。これは今後の関係に支障が出るって。

あっ、正気に戻ったお姉ちゃんが慌てて、私と芽衣とのキスを誤魔化そうとする。そう言えば、お姉ちゃんに言ってなかった。晴菜さんが私と芽衣の関係を知っていることを。



「晴菜さん、あのですね、、」


「菜穂ちゃん、大丈夫だよ。水希ちゃんに彼女いるの知ってるから」


「えっ、、知ってたんですか?」


「うん」



芽衣がお姉ちゃんと晴菜さんの会話を聞いてやっと顔をあげだ。2人をチラリと見て、晴菜さんをジッと見る。

芽衣は初めて、、ではないけど晴菜さんとやっと顔を合わせた。ずっと晴菜さんの存在を気にしていたから、気になるのかも。


辛いな、この状況。お姉ちゃんも今のこの状況に付いていけてないみたいで、ずっとオロオロしている。

私もさっきからドキドキが止まらないよ。恥ずかしいし、とにかく恥ずかしいし!



「あっ、あのね、晴菜さんが水希の好きなチョコレートをお見舞いも兼ねて持ってきてくれたの」


「ありがとうございます…」


「水希ちゃん、風邪が治ったみたいでよかった」



風邪は治ったけど、色々な意味でキツい。キスを見られるのってかなりキツいって。

未だに私と芽衣はベッドの上から動けないし、マジでベッドから降りたいよ。



「晴菜さん、そろそろ戻りましょう…私、紅茶を入れてきます!」


「菜穂ちゃん、ありがとう」



晴菜さんが何事もなかったように部屋から出て行く。まるでキスなんて見ていないかのように慌てる様子もなく、いつもと変わらない晴菜さんだ。

残された私と芽衣は一度大きく息を吐き、脱力する。しんどい、かなりしんどい。



「見られちゃったね…」


「うん…芽衣、ごめんね。まさか、お姉ちゃんがノックしないでドアを開けるとは思わなかった」


「ビックリした…。あと、晴菜さんって人、、やっぱり綺麗な人だね」


「芽衣、、晴菜さんはお姉ちゃんの家庭教師をしているだけだからね」


「うん、分かってる。ただ、どうしても一度会ってみたかったの」



はぁ、、疲れた。私は癒しを求めるため、芽衣を抱きしめた。後でお姉ちゃんに文句を言わないと…完璧にお姉ちゃんが悪いし。

チョコも結局、お姉ちゃんが持って行ったし私の部屋に何しに来たの…、、



「あっ、芽衣…」


「何?」


「芽衣は一度、晴菜さんに会ってるよ」


「えっ、どこで?」


「去年、海で会った大学生を覚えてる?」


「去年の海…あっ!水希がデレてた大学生」



何でそんな覚え方するかな。私は晴菜さんにデレてないし、、綺麗な人だな〜っとは思ったけど、デレてはない。

でも、芽衣はそんな風に思ってなくて困ったものだ。「デレデレしてたよね」って言い掛かりをつけるなんて酷い。


でも、芽衣がヤキモチより海で会ったことのある人がお姉ちゃんの家庭教師になったことに驚いている(叩かれなくてよかった)

やっぱり、みんな驚くよね。縁って本当にあるんだなって初めて思ったし。



「あっ、そろそろ帰るね」


「芽衣の家まで…送っちゃダメ?」


「ダメ!風邪がぶり返しちゃう」


「芽衣が心配で風邪が治らないよー」


「それでも、ダメ…」


「じゃ、バス停までは?」


「それだったら、、」



やった!私は急いで厚手のコートを着る。芽衣に貰ったマフラーを付け、晴菜さんから貰った手袋を付けた。

これで、もう外は寒くない。ちょっと、手袋を付けるのはドキドキしたけど。





芽衣がバスが来るまで甘えてくれて嬉しかった。日曜日はいっぱいイチャイチャしようねって約束して、幸せな気持ちで家に戻る。

ベッドの上で、幸せを噛み締めながら目を瞑った。早く、明日になって欲しい。芽衣に会いたくて仕方ない。


今日はお姉ちゃんが晴菜さんを家まで送ることになっている。気まずいからよかったよ。

流石に芽衣とのキスを見られ、晴菜さんのショッキングな話を未だに忘れられない。

きっと、ずっと黙り込んだまま送る羽目になっていた。でも、そんなの嫌だから、、


はぁ、、もう一眠りしよう。もう、ご飯は食べたし、、お風呂は明日の朝入る予定だし風邪薬も飲んだ。

芽衣が帰ったから薬の副作用の眠気が来て、私は目を閉じ夢の中に入る。





朝起きた時、私の心は汗だくだった。何でこんな夢を見るの…めちゃくちゃ最低な夢で、、誰にも言えない夢をみた。

私が晴菜さんとキスする夢。晴菜さんの腕が私の首に回り、、今もドキドキする。


くそ…めちゃくちゃ最低な夢だ。もし目覚ましで起きなかったら、、私は夢の中でずっと晴菜さんとキスをしていた。

夢は自分の願望だったりする。でも、きっと違う。ずっと、、消えて欲しい想像が消えなくて夢に間違えて現れただけだ。

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