第206話

風邪が治って体調が回復したはずなのに、朝から憂鬱で体が重い。きっと、あの夢のせいだ。最低な夢を見て、私を気落ちさせる。

一向に上がらない気持ちのせいで、芽衣にまた心配をさせてしまっている。



「水希、まだキツいの?」


「大丈夫だよ、ほら病み上がりだから」


「今日は部活の見学もダメだからね。HRが終わったら、すぐに家に帰ってね」


「えー、見学ぐらいいいでしょ。芽衣と一緒に帰りたいし」


「ダメ!室内じゃないし、ジッとしていたらまた風邪を引いちゃう」


「ストレッチするし…」


「汗をかいた後は体が冷えるからダメだよ」



芽衣の意地っ張りめ。優しさだって分かっているけど、芽衣と一緒に入れる時間が減ってしまった。

ため息をつき、机に頭を乗せいじけていると芽衣が頭を撫でてくれる。手の温もりが気持ちよくて、幸せな気持ちになる。



「芽衣、部活が終わって家に着いたら連絡してね」


「うん、するね」



芽衣と一緒にいると時間が過ぎるのが早い。あっという間に帰りのHRになり、芽衣とお別れだ。私も部活に行きたかったな。

芽衣と靴箱で別れ、私は1人とぼとぼと歩く。校門を出て、このまま帰りたくなくて私は大学の図書館に向かった。


バイト以外で図書館に行ったことがなかったから本を借りに行ってみたかった。

この前の土曜日は結局、本を借りれなかったし。私はドキドキしながら図書館に入る。バイトで過ごす図書館とプライベートで来る図書館は感じる雰囲気が違う。


平日だけど大きい図書館だから人が多く、みんな真剣に本を読んでいる。私は二階から景色を見るため階段を上がり歩いていると、、晴菜さんがいて驚いた。そうだよね…ここは大学の図書館だ。

どうしよ、声を掛けた方がいいのか悩む。勉強しているみたいだし邪魔にならないかな。



「あの、、」


「えっ、水希ちゃん」


「こんにちは」


「水希ちゃんの制服姿、初めてみた。懐かしいな〜、この制服」


「あっ、晴菜さんは卒業生でしたね」



ニコニコとした顔で私の制服を見て、隣に座るよう促す。ドキドキする。芽衣とのキスのこともあるし、晴菜さんのこと、、夢のこと。

悩ましいことばかりで、ずっと心が重い。



「水希ちゃん、風邪が治ってよかったね」


「はい」


「あと、、ビックリしちゃった。見た方もドキドキするね」


「あの、、」


「水希ちゃんもあんな顔するんだ」


「あんな顔…?」


「大人っぽくて、セクシーな顔」



無理、恥ずかしい!晴菜さんが私の顔を覗き込みながら、悪戯っ子っぽい顔をする。

でも、「ラブラブで羨ましい」って一瞬切ない顔をしてまた笑顔になる。

私はどうしたらいいの?忘れて下さいって言っても見られたことには変わらない。


帰りたい、、朝、お姉ちゃんに文句を言い、今回は私が悪かったと謝ってくれたけど、また文句を言いたくなってきた。

これでは、晴菜さんと普通に接することが出来なくなる。色々なことが重なって、めちゃくちゃしんどい。お姉ちゃんのバカー。



「あの、、そろそろ帰りますね」


「えっ、あっ、、ごめん。水希ちゃんをからかってるつもりはないの」


「あの、、まだ、風邪が治ったばかりなので、、早く帰ろうと思っていたんです」


「分かった…気をつけてね」



少し気分が悪くなってきた。晴菜さんと話すと苦しくなる。このままだと、風邪がぶり返しそうで私は急いで家まで帰った。

ベッドで暫く眠ろうとしているとインターホンが鳴り、面倒くさいなって思いながら出ると晴菜さんがいた。



「ごめんね…急に来て」


「晴菜さん、、どうしたんですか?」


「ちゃんと謝りたくて…」


「大丈夫です。気にしないで下さい」



別に晴菜さんが謝ることなんてない。晴菜さんに悪気がなかったの分かっている。色々な物が重なって私の心が沈んでいるだけだ。



「あのね、、あっ・・・」



しまった、晴菜さんが私に触れようとして無意識に体が後ろに下がってしまった。何で下がっちゃったかな…晴菜さんがショックを受けた顔をする。



「やっぱり、、怒ってる…?」


「違います…」


「それとも、私のこと嫌いになった?だらしない女で、、好きでもない男の人に抱かれて最低な女だって思っているでしょ」



違う!そんなこと思ってない。私は悲しかった。可愛くて、優しくて、頭も良くて、、そんな晴菜さんが追い込まれ、どれだけ苦しかったのかなって、もう少し早く仲良くなっていれば守れたのにって。

実際、私達は夏に出会っている。あの時、仲良くなれていれば晴菜さんを手助けでき守れたかもしれない。



「今も思ってるよ…馬鹿なことしたって」


「馬鹿ですよ…大馬鹿です」


「夏の海で水希ちゃんと仲良くなれていたら…馬鹿なことなんてしなかったのに」


「私も…守りたかったです」



私はやっぱり晴菜さんのヒーローじゃない。大事な時に守れてないし気づけてない。

いつもお姉ちゃんに助けを求めて、私は見てるだけだ。傍観者なんて全く意味がない。



「水希ちゃんの方が年下なのに…守られたかったって変かな?」


「私の方が身長が高いから変じゃないです」



晴菜さんがやっと普通に笑ってくれた。ずっと、晴菜さんの笑顔がどこかぎこちなかったから嬉しい。

年上の人にこんなこと思っちゃいけないけど、猫みたいで何を考えているのか時々読めなくて、人を惹きつける魅力がある。



「晴菜さん、温かい紅茶を入れるので家に上がって下さい」


「えっ、帰るからいいよ。水希ちゃん病み上がりだし、ゆっくりした方が、、」


「手が冷たいです。温めてから帰りましょ」



晴菜さんの手に触れたら冷たくて、このまま帰したくなかった。晴菜さんの手を引き、家の中に入る。

私が出来ることは無いに等しいけど、少しでも冷たい体を温めてあげたかった。

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