第190話

そろそろ教室に戻らないとチャイムが鳴ってしまう。でも、芽衣が私に抱きついたまま離れようとしない。



「芽衣、教室に戻ろう」


「うん…」


「私がバイトするのそんなに嫌?」


「嫌…だけど、我慢する」


「日曜日は芽衣から離れないから」


「うん。私も、、土曜日バイトしようかな」


「ダメ!私が稼ぐの」



もし、芽衣が男の人が沢山いるバイト先だったらって考えただけで恐ろしい。こんな可愛い子、速攻声を掛けられデートに誘われる。

きっと恋人がいると言ってもお構いなしに奪おうとする輩がいるはずだ。


それにデート代や旅行代は私が出したかった。誕生日プレゼントも良いやつをあげたいし、恋人としてのプライドかな。

私は体力もあるし、芽衣のためなら何でもできる。あと、バイトに興味があった。



「水希、フラフラしないでね…」


「するはずないじゃん」


「あんまり周りの人に優しくしちゃダメだよ」


「しないよ。それに週一のバイトだし」



心配性の芽衣をもう一度抱きしめる。大丈夫だよって思いを込めて、頭を撫でた。

私が芽衣を裏切るはずないじゃん。好きすぎていつも不安になっているのは私も同じだ。


週一のバイトだからどれだけお金を稼げるか分からないけど、頑張りたい。

どんなバイトがいいかな、週一のバイトだとなかなか見つかりにくそうだよ。



「芽衣、頑張るね」


「うん…」


「バイト終わったら必ず電話するから」


「絶対だよ…」


「うん、絶対に電話する」



このまま、ここで芽衣を抱きしめたまま寝むりたいな。心も体も温かくて、幸せだ。

だけど、授業をサボるにもいかず私達は教室に戻った。聖バレンタインはカップルの愛の誓いの日。愛を確かめ合う日でやっと愛を確かめられた。










痛い、痛い。お姉ちゃんとストレッチすると、体の硬い私はいつも体が悲鳴をあげる。

どうやったら体が柔らかくなるかな、、バネが欲しいから柔らかくなりたいのに。



「水希、体硬すぎ」


「分かってるよー」


「筋トレするのはいいけど、ちゃんとストレッチもやりなさい」


「だよね…」



背中が痛い、即席のストレッチを教わっているけど体がぎゃーと悲鳴をあげている。

早く体を柔らかくしなきゃ、体がもたない。背中をさすりながら、やっと一息ついた。



「あっ、お姉ちゃん。チョコを貰った?」


「去年より増えてたわ」


「マジか。お返しとかどうしてるの?」


「名前がないから出来ないわよ。去年は直接渡されたチョコは一応お返ししたけど」


「そうだよね…」


「いくつ貰ったの?」


「数えてない…芽衣の目が怖かったから」


「今日は仕方ないわよ。女子校のバレンタインはお祭りみたいなものだし」



お祭り、そうだよね。周りの人達は楽しんでいる感じがする。友チョコを配ったり、チョコの食べ比べをしたりなど、チョコをあげてる本人が楽しんでいる。



「ハピチョコってあげる方は楽しそうだけど貰った方は戸惑うのよね。名前が分からないからお返しもできないし」


「ねぇ、ハピチョコってさハピネスチョコの略でしょ。何でハピネスチョコなの?最初、聞いた時ハッピーチョコの略だと思ったし」


「自己満足のチョコだから。happyは形容詞の幸せなで、happinessは名詞の幸せなの。名前も書かずにお返しなんて要りませんのチョコは自己完結しているチョコなのよ」



納得。確かに自己完結のチョコだよね。貰った人はどうすることもできないし、自己満足であげた人だけが幸せだ。

でも、少しだけ気が楽になった。お返しに悩んでたし、気にしなくてよくなった。


これで名前が書かれていないもチョコを思う存分食べられる。楽しみだな〜、大好きなチョコが毎日食べれる。

今日は芽衣の手作りチョコレートケーキも食べれるし最高の日じゃん。よし、今日は走って走ってお腹を空かせるぞ。



「ねぇ…遠藤さんからは貰ってないよね?」


「貰ってないよ…」


「そっか。でも、貰ったらダメよ。期待させちゃうから」


「分かってるよ」



しばらくは遠藤さんの手作りお菓子は食べれないね。いつかはと思っていたけど、友達になれるまで無理みたいだ。

友達になれないかな…このままだと嫌だよ。怒られそうな願いだけど、、



「水希、帰る前に一度教室に行きなさい」


「何で〜?」


「チョコがあるかもしれないから」


「えー、流石にないと思うよ。それにあるとしたら靴箱じゃない?」


「それはないわね。靴箱に入ってたチョコ食べたい?」


「やだ…」



どうしよ、、芽衣と一緒にチョコがあるかをわざわざ見にいくために教室に行けないよ。きっと、芽衣がまた拗ねるし。

後で休憩の時、教室に行って見てこようかな。もし、あったら急いで部室に行き鞄に入れなきゃ。


ふぅ、今日は朝から疲れることばかりだ。お姉ちゃんの言った通りだった。

問題はごんちゃんなんだよな。早川先輩にチョコを貰ったのを怒っているのかな?

もしかして本気なの?それか憧れを拗らせているか。早川先輩と話したいならアシストするのに、、ずっと機嫌が悪いと気を遣って疲れるよ。

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