第191話

よし、今のうちならいけるかな。休憩中、ダッシュで教室まで走った。

チョコは無いと思っていたのに…朝より増えてる。マジか、、袋持ってきてないよ。

どうしよ、どうやって部室まで持っていこう。芽衣に見られるかもしれないから、剥き出しのまま持っていきたくない。


ジャージに包んで持っていくしかないか…寒いから脱ぎたくないけど仕方ない。

くしゅん、、寒い。ジャージを広げチョコを包み、脇に抱え歩くなんて変な人だ。

チョコは嬉しいけど、悲しい。うー、鳥肌が立ってきた。早くジャージを着ないと。



「水希、寒くないの?」


「えっ?ごんちゃん。あっ、しまった」


「凄い量のチョコだね…モテる人は羨ましいよ」


「最近のごんちゃん、言葉が冷たい…」



落としてしまったチョコを拾いながら、ごんちゃんにずっと思っていたことを伝えるとバツの悪そうな顔をする。

ごんちゃん自身も気づいていたのか。冷たい言葉を言っているって。



「最近、水希へのイライラと自分への不甲斐なさにムカついてる」


「何で?」


「カラオケに行った時、水希は陸上部で歌が上手くて…私は軽音部なのに歌が苦手なのが嫌だった。ずっと、私はギターを弾くから関係ないって思っていたけど、やっぱり歌って大事だなって感じた」


「早川先輩が関係してるの?」


「うん、憧れの先輩から褒められる水希に嫉妬した。バンドでも一番目立つのはボーカルだし、楽器担当はなかなか見てもらえない」


「そんなことないよ、バンドでもギターが上手くて人気な人とかいるよ」


「分かってるよ。私もギターが大好きだから気にしてなかったけど、早川先輩の笑顔を見たら虚しくなって」


「早川先輩が好きなの?」


「憧れ。入学して初めて見た時、あまりの綺麗さに驚いた。だから、憧れが強いの」



みんながみんなボーカルばかり見てるとは限らない。それに、ファンの子からバレンタインチョコを貰ってたじゃん。

見てくれる子はちゃんと見てるよ。早川先輩もギターや作曲を褒めてたし。先輩は私と親しいから、よく褒めてくれるだけだ。



「歌が上手くなりたいの?」


「別に…ギターが好きだから」


「私は歌が上手いなんて思ってないし、本当は人前で歌いたくないよ。でも、ごんちゃんに頼まれたから芽衣にカッコいいって言われたいから頑張ってる」


「そうだよね」


「早川先輩と話したいなら協力するよ」


「いいよ///。自分で頑張る」



やっと、笑顔が見れた。ごんちゃんと普通に話せないのはつまらない。

またねとバイバイして、軽い足取りで部室に向かう。モヤモヤが解消して、ホッとしたのに…タイミングが悪い。

さっき、チョコを落としたせいでジャージからチョコが完璧に見える形で持っていた。



「チョコ、取りに行ってたの?」


「芽衣…」


「ふーん、大量だね」


「いや、、これはハピチョコだから」


「ハピチョコって何…」


「ハピネスチョコ…お姉ちゃんが自己満足で自己完結のチョコって言ってた」


「そうなんだ…でも、そんなに貰ってお返しどうするの?」


「ハピチョコはお返し不要みたい…誰宛からか分からないし」



芽衣が悩んでハピチョコってぶつぶつ言ってるけど怒ってはないみたい。叩かれなくてよかった。



「芽衣も一緒に食べ、、ないよね」


「食べるはずないじゃん…失礼だよ」


「ごめん…」


「水希、私があげたチョコを一番最初に食べてね…」


「もちろん!」



今日は芽衣の手作りチョコレートケーキを食べれるって朝からウキウキしていた。

芽衣からのチョコレートケーキを堪能するつもりで走りまくってお腹を空かせているし、もう早く食べたくて仕方がない。



「今日が土曜日だったら良かったのにな」


「どうして?」


「だって、私の家でチョコレートケーキ食べてくれるでしょ。今日はもう遅いから持って帰るだけだし」


「食べて行こうか?」


「遅くなるからいい…外、暗くなるし」


「大切に食べるね。あと、お返しはホワイトデーにするから待ってて」


「うん、楽しみにしてる」



私は恋愛には気遣いが大事だと思っている。恋愛サイトに書いてあって感銘を受けたからだけど、自分のことばかりの人は最低だ。

人間は時に自己中になる時がある。仕方がない時もあるけど、自己中に気づけず相手を追い詰める人は最低で大馬鹿野郎だ。


バレンタインは恋のお祭りの日だ。男女の恋のイベントで勝手に周りが盛り上がる。盲目になり周りをちゃんと見ようとしない。

何で、芽衣が困っているのに周りは身勝手に囃し立て困らせるの?「良い奴なんだよ」とか知らないよ。


芽衣の前に立ち、頭を触っている男の人に言いたい。芽衣が困った顔をしてるの気づいてないの?周りに囃し立てられて、照れながら好きな人を困らせるな!

本気で好きなら気づくよね?ただ、恋愛がしたいだけでしょ。モジモジしながら「やっぱり諦めきれません」とか言うな。


相手を困らせる告白は愛の告白なんかじゃない。自己満足で相手を追い詰め、固まらせる厄介な輩でしかない。

だから、私の制服の袖を掴んで怯えている芽衣を後ろに隠した。告白のサポートのつもりで囃し立てていた人達がワーワー騒ぎ出す。

うるさい…マジでうざい。

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