第189話

「水希、ちゃんとお返しするんだよ」


「芽衣、名前がないから…誰にお返しすればいいか分からないよ」


「ふーん、お返ししないんだ」



箱をチラッと見たけど名前がなくて、、後でお姉ちゃんに相談しようかな…私にはどうしたらいいのか分からないよ。

うぅ…教室が寒すぎる。授業中、ずっと後ろから冷たい視線が来て背中が寒いよ。


はぁ、、やっと昼休みだ。芽衣が朝からずっと機嫌悪いし、目を合わせてくれない。

お弁当をモソモソ食べていると、今日は少しだけ機嫌がいいごんちゃんがファンの子から貰ったチョコを見せびらかす。



「やっぱり嬉しいよね〜」


「良かったね」


「水希も凄いじゃん」



ごんちゃん、いきなり地雷踏まないで。これじゃ、芽衣の機嫌が治らないよ。

ミニトマトに箸を突き刺した芽衣が怖すぎる。可愛いけど怖いって、どんな感情を持てばいいの?



「水希ー」


「あっ、早川先輩」


「お弁当食べてる最中にごめんね。これ、バレンタインのチョコ」


「いいんですか!?ありがとうございます」


「水希、チョコ好きだから」



早川先輩にまさかのバレンタインチョコを貰えて嬉しい。そして、相変わらずみんなの注目を集める先輩って凄い。

あっ、また芽衣の機嫌が、、ってごんちゃんまで機嫌が悪くなった!何でよ!さっきまでファンの子からチョコを貰ったって喜んでいたのに。



「モテる人はいいね」


「ごんちゃん…私なんてモテないよ。早川先輩は生徒会のよしみでくれただけで」


「水希、綺麗な年上の人、好きだから嬉しいでしょ」


「芽衣…勘弁してよ」



お姉ちゃんに言われた通り芽衣のケアをしたいけど私がどんどん落ち込んでくる。

疲れるし、2人の言葉の棘に辛くなってきた。会話がなくなるし、みんな暗いしお弁当を美味しく食べれないよ。1人になりたい…


私はお弁当を食べ終わり、トイレに行ってくるといい教室を出た。空気があまりにも重くてあの場に居づらかった。

はぁ、落ち着く。誰いない生徒会室は最高だ。生徒会役員の特権だよね。お陰で1人になりたいとき自由に出入りできる。



どうやったら芽衣の機嫌が治るかな。チョコを受け取らないのは流石に出来ないし…それに机の中に入っていたチョコを捨てるわけにもいかない。

正直な話、チョコを貰えるのは嬉しい。甘い物が好きだし、ちょっとだけ優越感がある。


でも、芽衣の立場だったら嫌な気持ちになるのも分かる。女子校だし、バレンタインってイベントの一つだから、みんな本気じゃないと思うけど悩ましいね。

そう言えば、去年…お姉ちゃんがチョコを沢山貰っていたな。食べきれないからっておこぼれ貰ったもん。


お姉ちゃんもこんな感じだったのか。あっ、思い出した。確か、義理チョコでも友チョコでもない《ハピチョコ》だ。

お姉ちゃんがハピネスチョコレートを略してハピチョコを貰ったって言っていた。

幸福チョコ?って何だ?意味あるのかな?



(コンコン)


「水希…いる?」


「あっ、芽衣」


「やっぱりここにいた…何で教室に戻ってこないの?」


「ごめん…空気が重たくて」


「バカ…置いていくな」



ソファに寝そべっていた私の上に勢いよく乗ってきた芽衣を抱きしめる。ギュッと抱きつかれ「寂しかった…」って言われ、またやってしまったと反省した。

ごめんね、なかなか大人になりきれなくて。芽衣を悲しませないって決めたのに。



「ヤキモチばかり焼いてごめん…」


「芽衣は悪くないよ」


「分かってたのに…きっと水希はチョコを貰うだろうなって。でも、予想より多くてかなり苛ついた」


「私も驚いてる」



芽衣が本当は誰のチョコも貰って欲しくなかったって、、でも無理なのも分かってるから気持ちがモヤモヤすると教えてくれた。

私は馬鹿だ、優越感に浸って嬉しいだなんて芽衣の気持ちを考えたら最低なのに。



「芽衣、ごめんね」


「水希は悪くない…私が勝手に拗ねてるだけだから」


「私が貰って一番嬉しいチョコは芽衣のチョコだけだから。これだけは分かって」


「うん」



早く芽衣からのチョコレートケーキ欲しい。持ってこれないから仕方ないけど、一番最初に食べるチョコは芽衣からのって決めている。

糖分欲しいな、チョコは食べれないから芽衣の唇を食べよう。芽衣との甘いキスはとろける甘さで私を癒してくれる。



「ねぇ、早川先輩にはお返しするの?」


「うん、チョコをくれた人が分かるやつは。後はどうしたらいいか、お姉ちゃんに聞く」


「お金、大丈夫?きっと、ひかるちゃんからも貰えると思うし」


「うん、、芽衣、私ねバイトしようと思ってる」


「何で!ホワイトデーの為…?」


「それもあるけど、私がしたいから。週一でバイトするつもり。だから、土曜日は部活終わったら芽衣と過ごせなくなる」


「そんな、、やっと試験が終わったのに」



芽衣がショックを受けている。やっと期末試験が終わり土曜日も普通に会えると期待していたと思う。

でも、私はいつも金欠で心に余裕が欲しかった。芽衣を美味しいスイーツのお店にも連れて行けるし、色々楽しみたいんだ。

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