第118話

久しぶりに体を動かすと気持ちいい。汗をかくと嫌なことを忘れられる。頭がスッキリする。まだ、少しだけ痛かった頬が風にあたり痛みを和らげてくれた。

芽衣の力は強すぎるよ、小さな手なのに叩く力が強力すぎて耳もキーンと痛かった。


グラウンドを見渡すと芽衣はいない。いつも目が合うと笑ってくれた。マネジャーの仕事を頑張っていて、心配になる時もあるけど頑張っている姿を見るのが好きだった。

私も頑張ろうと思えるし、実際に力が漲るから芽衣は偉大だ。



「水希ー」


「はい」


「インターバル終わった?」


「終わりましたー」


「今日さ、短距離選手で坂ダッシュをしようと思ってるから移動するわよ」



恭子先輩に言われた坂ダッシュ、、夜はベッドに倒れているかもしれない。かなりキツいし足腰を鍛えるにはいいけど体全体がヘトヘトになる。

今の季節だからまだやれるけど、一度夏にやったとき坂ダッシュを終えた部員が死んだ顔をしていた(私も…死ぬかと思った)



「今のうちに水分とってね」


「はい」


「あと、水分補給したら一度ドリンクボトルに水を入れなさいね」


「分かりました」



急いで水分補給して水を入れ直さないといけない。他の部員はもう準備が終わっており、私は急いでドリンクボトルを取りに行った。

水を飲み一息つくと近くにいたひかるが私のドリンクボトルに水を入れてくれた。



「水希、坂ダッシュ頑張ってね」


「ヘトヘトになるよ」


「ガトーショコラが美味しく食べれるよ」


「確かに…」



ひかるのお陰で元気が出てきた。疲れた後の甘い物は最高の食べ物だ。疲れが一気に飛ぶぐらい幸せな気持ちになる。

それに部活に行く途中、ひかるに作ったガトーショコラの写真を見せてもらい、めちゃくちゃ美味しそうでヨダレが出そうだった。



「水希ー!行くわよー」


「はーい」


「水希、頑張ってね」


「うん、頑張る」



よし、元気が出てきた。坂ダッシュ頑張るぞーって気合いを入れていたのに、私達を見ていた恭子先輩が怖い顔をする。

言葉は発してないのに威圧感と目は口ほどに物を言うで私を縮こまらせる。何で怒ってるの…私、恭子先輩に何かした?



「芽衣ちゃんがお休みだからって、浮気したら承知しないわよ」


「しないですよ!」


「大体、水希とひかるちゃんは仲が良すぎ。噂にもなってるから気をつけなさい」


「はい…」



耳にタコが出来るぐらいに、同じことをお姉ちゃんとさわちんに言われた。分かっているけど、ひかると距離を置くのは違うと思う。

だって、ただの噂だしひかるに避けられて悲しかった。だから、噂を気にしないと決めたのに周りが噂を気にする。


どうしてもダメなのかな…生徒会の佐藤先輩も噂に悩んで友達と距離を取るぐらいだったらもう気にしないと決めた。

だから、私も気にしないと決めて噂なんて勝手に消えていくだろうと思っている。



「芽衣ちゃんのことを一番に考えなさい」



恭子先輩の言葉にハッとする。そうだよ…私はひかるに対して友達として仲良くしていきたいけど、キスのことや噂のせいで芽衣からしたら嫌な気持ちになる。

やっと、私の利己的な考えで芽衣を苦しめていると気づいた。情けないや、、結局、自分勝手になってる。



「ひかると距離を置いた方がいいのかな…」



つい、ぽろっと出た言葉に恭子先輩が慌てている。私が沈んだように言ったから、キツく言いすぎたと気にしたみたいだ。

恭子先輩はそこまではしなくてもいいから、芽衣のことを考えて行動しなさいと言う。


私とひかるの間にあるのは友情だけど、側から見たらそうは見えない。男女の間に友情はないみたいな感じなのかな。

お姉ちゃんや恭子先輩はひかるが私のこと好きだったの知ってるから特に気にしている。

未だに、さわちんは目を光らせてるし…。



「ほら、行くわよ」


「はい…」


「水希はひかるちゃんのこと、どう思ってるの?」


「好きですよ、友達として」


「言葉を逆に言いなさいよ!友達と好きを反対に言うからドキッとしたでしょ」



痛い…恭子先輩に腕を叩かれた。どっちでも意味は一緒なんだからいいと思うのに過剰反応しすぎだ。

私はつい意地悪したくて、丁度ひかると目が合ったから手を振った。それを見た恭子先輩に私は頭を叩かれることになる。


私のこの日、地獄を見た。恭子先輩のしごきが厳しく泣きそうだ。坂ダッシュをした後、ゼェゼェ言いながら休憩していたら帰り道はインターバルをしながら帰るわよと言われ、他の部員も地獄を見る。

みんな、ゴメン…私のせいだ。みんな、ヘトヘトの状態中、恭子先輩の「はい!ダッシュ!」と大きな声が響き渡る。

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