第119話

疲れた…死ぬ。坂ダッシュの後にインターバルをこなし、みんな学校に帰ってきた瞬間長椅子の周りに倒れ込む。

吐きそう、、息切れが激しくてはぁはぁと呼吸するとウェってなる。キツい、キツすぎる。まだ、秋だからよかったけど夏だったら死んでいる。



「みんな、だらしないわよ」


「恭子先輩…もう無理です」


「こら、水希。バテるの早すぎ」


「ひかる…タオル取って」


「ひかるちゃんに甘えるな。自分で取りなさい」



恭子先輩が鬼化している。でも、もう一歩も動けない…心臓の鼓動が早いし、酸欠状態になっている。マジでヤバいかも、、



「水希、大丈夫…」


「大丈夫…少し休憩したら、、」


「汗…凄いよ。はい、タオル持ってきた」


「ひかる、ありがとう…」



目の前がフラフラする。こんなの初めてだ、人間は限界を超えるとこんな風になるんだね。呼吸がしづらいし、多分上手く酸素を摂取できていない。



「恭子先輩、水希を保健室に連れていきます」


「うん、、その方がいいかも…水希、大丈夫?」


「少し休憩したら、、大丈夫です」


「水希、肩につかまって」


「大丈夫…少し休憩したら」



今の状態だと足に力が入らないし、立つのもしんどい。でも、水が欲しい…喉がカラカラで唇も乾いてきて、脱水症状を起こしてるのかもしれない。

試験勉強での寝不足も重なって、今最悪な状態だ。今度は目眩がしてきた。



「水希、水飲んで、、」


「うん…体起こすの手伝って貰っていい?」


「私の肩を掴んで」



何とかひかるの肩を掴み、体を起こす。ひかるにもたれかかりながら、やっと水を飲めた。この尋常じゃない汗がヤバい。人間は水分を異常に奪わられると体に支障起こす。


水分をとったらだいぶ落ち着いてきた。本当は塩分を取った方がいいけど、スポーツドリンクが手元にないし自販機まで買いに行くのが面倒くさい。



「水希、保健室に行ってきた方がいい」


「恭子先輩、大丈夫です。落ち着いてきましたから」


「ダメ。ごめん、ひかるちゃん。水希を保健室に連れて行ってあげて」


「はい」



恭子先輩とひかるに無理やり立たされて、私はひかるの肩に腕を回しゆっくり歩き出す。

情けない、、他の部員は耐え切ったのに、私だけフラフラして体の作りが出来てない。

もっと頑張らないと、これじゃ来年の大会の予選の選出メンバーにも選ばれない。



「水希、もっと寄りかかっていいよ」


「ひかるが潰れちゃうよ」


「私はそんなにヤワじゃないよ」


「ひかるは強いね」



やっと保健室に着いた。先生に事情を話してベッドに横になる。ひかるはスポーツドリンクを買いに行ってくれた。

養護教諭の先生におでこにアイスノンを置かれ目を瞑る。火照っていた体が冷やされ気持ちいい。



「水希、買ってきたけど飲める?」


「うん、体起こすね」


「汗、やっと止まったね」


「滝のように出たよー」



陸上部に入って自動的に痩せ、ダイエット知らずだけど筋力と体力が追いついてないから限界を超えやすく体が悲鳴をあげてしまう。

スポーツドリンクがすごく甘く感じる。体の塩分が足りてない証拠だ。


久しぶりに地獄を見て、久しぶりに保健室のベッドに横になった。芽衣にここで告白し、キスをして、、よくよく考えたら、付き合ってもないのにキスして…もし、芽衣が私のこと好きじゃなかったらとんでもないことをしたんじゃないかと気づいた。



「水希、今日は部活が終わったら家に帰ろう。私が送るなら」


「ダメだよ、ひかるの家に行く約束だし」


「ガトーショコラはまた作るから、今日は寄り道しないで帰った方がいい」


「えー、、ガトーショコラが食べたい」



楽しみにしていたガトーショコラがお預けになってしまった。疲れた時こそ、甘い食べ物が体に染み疲れをとってくれるのに残念すぎる。今日1日の楽しみが消えてしまった。


ため息が出てしまう。ひかるの前でため息を吐きたくないのに、我慢できなくて凹んでいると頭を撫でられた。

ひかるが芽衣と被ってしまう。何となく芽衣に告白したあの日の光景に似ていて不思議な感覚になってしまいそうだ。



「ひかるの、、ファーストキスって私?」


「えっ…、、そうだよ」


「私で、ごめんね」


「何で水希が謝るの?あれは…私が勝手にしたキスだから私が謝らないといけないの」


「さわちんが聞いたら私、大変なことになるね」


「ふふ、確かに。水希が怪我しちゃう」



なぜだかひかるのファーストキスの相手が私だと分かって嬉しかった。こんな感情、お姉ちゃんにバレたら恐ろしいことになりそうだけど心の中でそっと思うのはいいよね。


別に恋愛感情とかじゃない。よく分からないけど、どこぞの男の人とキスをするひかるを想像すると嫌な気持ちになる。

だからこそ、嬉しかったのかもしれない。害虫から守れた感じがして…これってどんな感情なのだろう。ナイトでいいのかな。



「ひかるって私の理想の女の子なんだ」


「急にどうしたの?照れるよ///」


「なんとなく言いたく…、、お姉ちゃん!」


「ひかるちゃん、バトンタッチするね」



絶対におかしいって!何でいつもバッドタイミングの時にお姉ちゃんはいるの?それも今日は恭子先輩もいる。

一体、どこから話を聞かれたの?ひかるのファーストキスの話は聞かれてなければいいなって思ったけど、バッチリ聞かれていた。


私は1日で2度の地獄を体験する。私の目の前に鬼が二体いる。怖い…ひかるはグラウンドに戻ったし、私の後ろは白い壁だ。

逃げることも出来ず、私はまず怖い顔した鬼に事情聴取を受けキツいお仕置きを受ける。

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