第110話

ひかるに新しい絆創膏を貼ってもらうのは問題なかった。でも、ひかるの指に同じ絆創膏を貼ってしまったのはダメだった。

柄物のピンクの絆創膏は目立つ上にお揃いだと、元々あった噂に勝手に尾鰭がつく。


私とひかるがお揃いの絆創膏を付けたことで、部員と見学に来ていた人達が騒ついた。

ひかるは私との噂を知らない。さわちんがひかるに噂が伝わらないよう頑張っていた(知ってしまうとひかるは芽衣のことを気するから…さわちんの優しさだった)


次の日、大きくなった噂がひかるにも伝わった。せっかく、さわちんが守ってくれたのに…ひかるは私と距離を取りはじめる。

噂を知って以来、ひかるが私を避け…部活などで話すことがなくなった。なんでだよ…こんなのおかしいよ!


どうせ、私のなんて一過性の対象でしょ!何でほっといてくれないの!何で、周囲に気を使って私とひかるの距離が遠くなるの?

こんな形で振り回されるなんて嫌だ。ふざけるなよ!って思ってしまう。



「水希、ひかるを見過ぎ。また、誤解されるよ」


「さわちん…」


「しばらくしたら、噂も落ち着くよ」


「何でこんなことになっちゃったのかな…」


「水希がひかるをお姫様抱っこしたから」



さわちんの言葉に胸にグサッと大きな矢が刺さる。私のせいか、私のせいで…ひかると距離を取ることになってしまった。



「水希、落ち込むな」


「だって…」


「少しの我慢だって」


「うん…分かってる」



噂さえ落ち着けば元に戻るはずだ。きっと、ひかると話せる日が来るはず…じゃないと怒る。ひかると話せなくなるの嫌だよ。

大丈夫、大丈夫と言い聞かせ私は我慢すると決めた。強くならなきゃ、、



「さわちん、ありがとう」


「水希。芽衣にもう、キスマーク付けるなよって言っといて」


「さわちんー、、」


「ラブラブなのは良いことだけど、噂の種を作ってるからね」


「はい…ごめんなさい」



ひかるは完璧に巻き込まれ事故で、何も悪くないのに周囲に気を使う。私はひかるに何をしてあげられるのかな。自分が無力すぎて嫌になる。



「ひかるには私が付いているから大丈夫」


「うん」



頼もしい友達がいて良かった。さわちんがひかるを守ってくれ、安心して任せられる。

私は陰ながらひかるを見守ろう。でも、何かあった時は飛んでいくと決めた。


私は、はぁーと大きく深呼吸し空を見上げた。もうすぐ11月になる。私の誕生日が刻々と近づいてきている。

私の悩みの種は高校に入ってからずっと尽きない。芽衣に対する想いに悩み、今は周囲に悩まされ中学の時とは大違いだ。


これが大人になっていくってことなのかな。悩みを乗り越えて成長する。芽衣と結ばれたら愛が深まり、人としてもひと回り成長したい。いつも泣かせちゃうから…。



「水希。何、黄昏てるのよ」


「恭子先輩」


「まだ部活中よ。私と走り込みするわよ!」


「はい…」


「走ったらスッキリするから、今日はとことん走るわよー」


「はい!」



恭子先輩はやっぱり先輩だ。私にヘッドロック掛けてきたりするけど、年上で私を心配してくれて助けてくれる。

恭子先輩がいて良かった。さわちんと恭子先輩のお陰で少しモヤモヤが消え走り出せた。


走って、走って、スッキリさせてやる。もう、周りなんか気にしない。私は私だ。

はぁはぁ、それにしても恭子先輩…足が早いー!体力もあるし、、くそ!意地でも張り付いてやる。負けない!乗り越えてやる。







この学校には生徒会のファンクラブがある。非公式で、いつのまにか本人達が知らない所で出来ていたファンクラブ。

応援されるのは嬉しいけど、生徒会長でもあるお姉ちゃんも迷惑している。だって、お姉ちゃんと恭子先輩の噂を流したのが生徒会のファンクラブだからだ。


そして、私とひかるの噂を流したのも生徒会ファンクラブだ。何がしたいのかな、私には分からないよ。何で、ファンクラブだったら応援だけをしてくれないの?

ずっと疑問だった…お姉ちゃんには彼氏がいるし、ファンだったら知ってるよね?だったら、何で恭子先輩との噂を…ってなる。



答えは簡単だった。次の日、生徒会の集まりの日で会議が終わった後、みんなで談笑していた。その時に、副会長でもあるバスケ部の佐藤先輩が悩みを打ち明けた。

バスケ部は学校の中で一番ファンが多く、見学者も多い。人気が絶大で苦労も多い。


佐藤先輩も仲の良いクラスメイトと噂になっており、一緒にいるだけで視線やコソコソ話をされる。それが嫌で友達と一度距離を置いたそうだ。

私とひかると一緒だ…最悪すぎる。でも、今は気にしないと決め普通に仲良くしてるけど苦労はしている。


佐藤先輩が教えてくれたカップリングって言う言葉。基本、漫画のキャラや芸能人でこの2人のコンビが好きとかで使うけど、好きすぎると妄想に走ってしまう。

この2人が引っ付けば良いのにとか、ドラマみたいにこの2人に結ばれて欲しいって想像するんだ。



生徒会はその対象になっている。だから、お姉ちゃんも願望で恭子先輩と噂になり、佐藤先輩も友達と噂になった。

私達を楽しませて欲しい…気持ちは分かるけど(私も恋愛ドラマや漫画を見たとき思うから)けど、私や先輩達はリアルを生きてる。


願望を押し付けられると息苦しくなるからやめて欲しい。普通にしていたことが出来なくなり、全ての行動に意味ができてしまう。

人間、そこまで考えて生きてはいない。ふとしたことや、ふとした優しさも違う意味に取られてしまうなんて面倒くさいよ…。

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