第58話

「水希、ごめんね。急に泣いて」


「大丈夫だよ、涙を拭くからジッとして」



私はひかるの涙を拭こうと手を近づけると、ひかるに手を掴まれそっと下された。

そのまま手を握られ、ひかるの顔が私の顔に近づいてくる。えっ?と思いつつ、動けずにいるとひかるにキスをされた。頬にキスをされ身体中が赤くなりそうだ。


急なことと初めてのひかるからのキスに緊張と戸惑いが溢れ口だけがパクパクと鯉みたいに動いて言葉が出てこない。



「水希、キスしたことある?」


「へぇ?いや、その、、」


「あるんだ…相手は芽衣ちゃん?」


「あれは…キスにカウントしていいのか分からないから」


「芽衣ちゃんとキスしたんだ」


「違うよ!あれは芽衣の風邪を移して欲しくて…」



キスってお互いの同意があってするもので、勝手にしたキスはカウントしちゃいけない。

私の身勝手なキスだし、相手にとっては不愉快かもしれない。だから、あれは違う…。



「芽衣ちゃんが羨ましい」


「あれは、私が身勝手にしたやつだから」


「芽衣ちゃん、怒るかな?今から私が水希にキスしたら」


「えっ?キスって…お遊びでもダメだよ!ちゃんと、好きな人と…」


「水希は身勝手なキスを芽衣ちゃんにしたのに?」


「それは…」



ひかるが痛いところを突いてくる。ひかるは辛い恋をして自暴自棄になり暴走している。

心の痛みが苦しくて誰かに縋りたい…私も辛かった時、ひかるに縋った。

誰かの温もりが欲しくて、癒されたくて、気持ちが分かりすぎるから私まで涙が出てくる。



「水希まで泣かないで」


「ごめん…」


「一度だけだから…」


「うん…」



緊張する…今からキスされるって分かると体が強張り体から汗が吹き出しそうだ。

ジッとしてるとひかるの顔が近づいてきて、あと20センチ…あと10センチというところで私は目を瞑った。



「痛い!!!!」


「水希、何やってるの!」


「お姉ちゃん…ここで何してるの!?」


「夕ご飯が出来たから呼びに来たのよ」


「そうなんだ…」


「水希、ちょっと来なさい。ひかるちゃん、ごめんね」



お姉ちゃんに腕を引っ張られ、一階の和室にまで連れてこられた。

急に入ってきて私の頭を叩いたお姉ちゃんに憤慨する。せめてドアをノックして欲しかった。強引にひかるから引き離され、腕を引っ張られたから痛いし最悪だ。


私が心の中でぶつぶつと文句を言っていると、お姉ちゃんが振り向き思いっきり強い力で頭を叩かれた。

痛いーーーーーーー!!!!凄い音がした。絶対にたんこぶが出来てる!



「お姉ちゃん、何するの!」


「芽衣ちゃんを泣かせるようなことをしたら許さないって言ったわよね」


「芽衣は泣いてないじゃん。泣いているのは私だよ!」


「もし、さっきのこと芽衣ちゃんが知ったら泣くからよ。だから泣いたも同然なの」


「なんでよ!」


「水希は芽衣ちゃんのことどう思ってるの?」


「それは…」



お姉ちゃんがイライラしてずっと頭を掻いている。私も言葉が出てこなくて正直に言った方がいいのか分からなくてウジウジする。

芽衣は女の子なんだよ、友達なんだよ。私も女であー!!!どうしたらいいの!



「芽衣ちゃんのこと好きなの?」


「好きだよ…」


「友達として?好きな人として?」


「両方…」


「だったら、何でひかるちゃんとあんなことをしようとしたの!」


「あれは…」


「もし、芽衣ちゃんが同じ事したら水希はどう思う?」



嫌だ!絶対に嫌だ!誰ともキスして欲しくない。芽衣が私以外の人とキスするなんて絶対に嫌だし、苦しくて息ができなくなる。



「人にされて嫌なことはしちゃダメ」


「うん…」


「水希はひかるちゃんのこと好きなの?」


「ひかるは友達だよ」


「だったら何でキスしようとしたの…?」


「ひかるの気持ちが分かるから、苦しみを共有したかった」


「バカね…ちゃんと好きな人のことを第一に考えなさい」


「うん」



いくら片思いが苦しくて、誰かに縋りたくなっても越えてはいけない境界線がある。私達はそれを越えようとした。

結局、お互いが傷つくだけなのにね。好きな人がいるならこんなことしちゃダメだって、お姉ちゃんのお陰でやっと目が覚めた。


あとでひかるに謝ろう。そして、お互い頑張ろうって言いたい。後ろ向きの恋を少しでも前向きにできるように。

頭はめちゃめちゃ痛いけど、迷いが消えた。振られてもいいから、絶対に芽衣に気持ちを伝える。



「お姉ちゃん、ありがとう」


「ご飯できてるから食べよう」


「ひかる、呼んでくる」



普段は怖いお姉ちゃんだけど、やっぱり年上で私のお姉ちゃんなんだって思えた。姉妹っていいなって。

よし、ひかるに謝ったあとご飯食べてと、、



「・・・」


「・・・」


「ひかる…」


「ごめんね、好きになって、、」



ドアを開けたら、ひかるが立っていて…目が合った瞬間キスをされた。今度は頬ではなくちゃんと唇に唇が触れ、私はフリーズする。

それに、好きって…ひかるの好きな人は私なの?私がひかるを苦しめていたの?


ひかるは茫然としている私を抱きしめ、苦しそうに「水希が好き…」って言う。私はどうしたらいいの。

私は芽衣が好きだから、ひかるの気持ちに応えられない。でも、ひかるの泣き顔をこれ以上見たくない。胸が苦しいよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る