第57話

「お邪魔します」


「はい、どうぞ」



ひかるの誕生日なのに私が独り占めして申し訳ないけど、今日は朝まで一緒にいられることが嬉しくてワクワクしている。

まだ、夕ご飯まで時間あるから部屋に行ってのんびり話しをしたい。

あっ、まだ暑いけどミルマロを作って感想を聞いてみたい。みんなの意見を聞いてみたかったから丁度いいかもしれない。



「あっ、ひかるちゃん。いらっしゃい」


「先輩、お邪魔します」


「お姉ちゃん。今日ね、ひかる泊まるから」



あれ?お姉ちゃんが急にロダンの彫刻みたいな考える人になってる。また彼氏のことで悩んでいるのかもしれない。彫刻のように固まり、呻き声だけ聞こえてきた。

しばらく眺めていると、急に携帯を手に取り高速で指を動かし始めた。誰かにLINEをしながらぶつぶつと呟いている。



「ひかる、部屋に行こう」


「うん」


「あっ、、」


「お姉ちゃん、何?」


「いや、、うん、夕ご飯できたら呼ぶね」



やっぱり、お姉ちゃんがおかしい。ソワソワしてるし、クッショを抱き抱えソファに寝っ転がってしまった。

来年受験だし、もしかしたら志望校で悩んでいるのかも。頭がいいから偏差値の高い大学を目指してるかもしれないし。


私も再来年には受験だ。もう8月だし時が過ぎるのが早い。最近、高校に入学したと思ったら夏休みでもうすぐ秋が来る。

11月の私の誕生日は芽衣に祝ってほしい。ひかるに言われて少しだけ考えが変わった。

振られるかもしれないけど気持ちをちゃんと伝えるべきだと思えるようになったよ。


だから、誕生日が過ぎてから告白する。一人寂しい誕生日を迎えたくないから…。



「ひかる、飲み物を持ってくるね。ホットでも大丈夫?」


「うん」



私も初めてミルマロにチャレンジする。飲みきれなかった時は…ホットミルクを作ろう。マシュマロの数を減らたら甘さを抑えられ飲めるかもしれないと思ったんだ。

芽衣はマシュマロを4つ入れていたから、私は2つにする。飲める気がしてきた。もし、飲めたら芽衣に感想を言わなきゃ。



「水希。何、作ってるの?」


「ミルマロ」


「ミルマロ?」



台所でミルマロを作っているとお姉ちゃんが横から覗いてきた。ミルマロに興味津々らしく甘い良い香りに鼻をひくひくさせている。

せっかくだからお姉ちゃんの分も作る。さっき彼氏のことで悩んでいたっぽいし甘いミルマロで癒されてほしい。



「はい、お姉ちゃんの分」


「ありがとう〜」


「どう?」


「うん、美味しい。牛乳とマシュマロって合うね」


「芽衣が好きなんだ」


「そっか、芽衣ちゃんの好きな飲み物か〜」



お姉ちゃんが嬉しそうにミルマロを飲みながらソファに戻って行く。お姉ちゃんはミルマロを気に入ったみたいだ。

ミルマロの香りが好きだ。芽衣から感じる匂いと一緒で芽衣が側にいる感覚になる。

温かいうちにひかるに飲んでもらって感想を聞かなきゃ。芽衣が熱い方が美味しいって言っていた。



「ひかる、持ってきたよ」


「ありがとう。これって、牛乳とマシュマロ?」


「うん、ミルマロ」


「ミルマロか、可愛い名前だね」



うぷっ、、ダメだ。甘さを控えめにしたけどやっぱり私には甘い牛乳が苦手だ。

これだったら思いっきり甘くするかマシュマロを入れない方がいい。

中途半端に入れると微妙すぎて、一番苦手な甘さになっている。

ひかるはどうかな、、美味しそうに飲んでるみたいだけど大丈夫なのかな。



「ひかる、どう?」


「美味しい」


「そっか、ひかるは好きなんだね」


「水希は苦手なの?」


「牛乳が甘いのが嫌いで…でも、試してみたかったから」


「もしかして、芽衣ちゃんが好きな飲み物?」


「うん」



これにチョコソースを足したらココアみたいになるかもしれない。私は中途半端に牛乳の味を感じてしまうとダメみたいだ。

それに、もっと熱くした方がいい。マシュマロが溶けやすいように・・・



「ひかる…?」


「あっ、何?」


「泣いてるの…?」


「目にゴミが入って…」


「大丈夫?」



ティッシュをどこに置いたかな。早くティッシュを渡したいけど無くて、ひかるが涙が止まらないから下を向いてしまった。

あっ、見つけたけど空だ…タイミングが悪すぎる。下に取りに行き、新品の目薬があったらひかるに渡そう。辛そうにしている。



「ティッシュ取ってくるね」


「大丈夫だよ…」


「すぐに戻るから」


「お願い…側にいて」



ひかる、、どうしたの…服を掴まれ、またボロボロと泣き始めた。本当は目にゴミが入った訳ではなく嫌な事でも思い出したのかな。

今日はひかるの誕生日なのに、、私は何もしてあげれてない。どうやったら泣き止んでくれるか分からなくて戸惑ってるだけだ。



「ひかる、、どうしたの?」


「片思いって辛いなって」


「そっか…辛いよね」


「水希の優しさも辛いかも」


「えっ、私?」


「優しすぎて、甘えちゃうよ」


「甘えてよ、思いっきり甘えてほしい」



いきなりひかるに抱きつかれて危うく後ろに倒れるところだった。意外に力が強いひかるを抱きしめ頭を撫でると、甘えるようにギュッと抱きついてくる。

感情を隠しながら恋をするのって辛くて、好きな人にアプローチできる人が羨ましい。

私にはできない。私にできることは芽衣をこっそり見つめることぐらいだ。


きっと、ひかるもそんな恋をしているのかもしれない。私達は同じなんだね、見つめることしかできない恋をしている。

簡単に気持ちを伝えられたらいいのに。なかなか勇気が出なくて…多分、異性に告白するより同性に告白する方が100倍も緊張すると思うし怖い。振られた時、側いられなくなるのが嫌で足が動かなくなる。

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