第53話

えっーと、あと何本だろ。1人で6人分のジュースを買うとなると本数を数えつつ、腕の中に冷たい6本のペットボトルを持たないといけないから大変すぎる。

私はジャンケンに負けた。みんなで示し合わせたかのように私1人だけパーを出しストレート負け。何で私ばっかり…悔しい!


さっきから何度も腕の中からペットボトルが逃げ出そうとする。脱走するにしても砂まみれになるから勘弁して欲しい。

ペットボトルを入れる袋を持って来ればよかったと後悔し誰かついて来てくれたらいいのにと勝者に対して小言をぶつぶつと呟く。

芽衣やひかるが負けたら私は絶対に手伝うのに…お姉ちゃんが敗者に情けは無用よと言うから誰も手伝ってくれなかった。



「あっ!」


「大丈夫?」


「大丈夫です。私のせいで待っていますよね…すぐに買いますから」


「持つの手伝おうか?」


「大丈夫です!私は敗者なので」


「はいしゃ?」



あっ、敗者なんて言ったからクスクスと笑われた。こんな綺麗なお姉さんに私は何を言っているんだ。

恥ずかしい、、早く飲み物を買って戻らないと後がつかえてるし冷たさと重さでそろそろ腕が限界だ。



「重たそうだから持つよー」


「いえ、あっ、、すみません」


「1人で買うなんて大変だね」


「ジャンケンに負けて」



優しい綺麗なお姉さんがペットボトルを2本持ってくれた。お陰で最後の1本も楽々買え御礼にお姉さんの分も飲み物を買う。後でお礼に渡すつもりの分だ。



「高校生?」


「はい」


「私、大学生なんだ」


「大人だ…」


「大人って、私はまだ20歳だよ」



15歳の私からすれば5歳も年上の人は大人で、まず見た目が大人っぽい。パーカーの下の水着は黒のビキニでお洒落だ。



「あっ、ここに置いて頂ければ」


「うん、分かった」


「あの、これ御礼です」


「いいの?」


「はい」



みんながいる机にペットボトルを置き、私はお姉さんにミネラルウォーターを渡した。

お姉さんは笑顔で「ありがとう」って言ってくれて買って良かったとホッとする。

ただ、私はなぜか分からないけどお姉ちゃんと恭子先輩の逆鱗に触れ買ってきた私の分のジュースを取られた。あまりに酷すぎる。なぜ私の分のジュースを飲むの!?



「私のジュース!」


「さぁ、みんな泳ぎに行きましょ」


「お姉ちゃん!私、水分補給してない!」


「水希…これ飲む?」


「ひかる、行くよ」


「待ってよ、爽子」



さわちんまで怒ってる。芽衣も頬が膨れてるし私、誰にも御礼も言われてないよ。

ジャンケンに負けて買いに行ったけど、一言「ありがとう」ぐらいあってもいいと思う。

あっ、浮き輪をレンタルしなきゃ。ずっと芽衣を抱っこするわけにはいかないし、私も流石に恥ずかしい。



「芽衣、浮き輪をレンタルしに行こう」


「いらない…」


「沖まで行きたいじゃん」


「水希1人で行けばいいじゃん」


「頑固者」



芽衣を1人にできるはずないのに、頑なに浮き輪を嫌がる理由が分からない。浮き輪が嫌いなのか、それともカナヅチってバレたくないとか…理由を教えてくれない。

あっ、イルカの浮くやつ!小さな子供がイルカに乗ってるを見た私はこれだったらとピンっときた。芽衣が絶対に喜ぶ。



「芽衣、ちょっとここで待ってて」


「どこ行くの…」


「イルカ!レンタルしてくる」


「イルカ?何それ?」


「浮き輪の代わり、乗ると絶対楽しいよ」



荷物を預けた後イルカを借りてと思っていたら芽衣にTシャツを掴まれる。

振り向くと戸惑った顔をする芽衣にやっと浮き輪を嫌がる理由を教えてもらった。



「抱っこがいい…波が怖いから」


「そうなの?」


「うん」


「そっか、分かった」



芽衣は波が怖かったのか、、早く言って欲しかった。泳げない人からしたら、浮き輪より人間の方が安定を感じられ安心できるのかもしれない。

まさか芽衣がここまで波を怖がるなんて思わなかったから申し訳ない。海に誘わない方がよかったのかなって。



「じゃ、荷物預けて海に行こう」


「うん」


「抱っこして1回立ち泳ぎしてもいい?」


「出来るの?」


「初めてする」



芽衣は軽いし、浮力があるからいけそうな気がした。足をカエルのようにユラユラと揺らせばいいはず。映画で見た忍者がそんな風な泳ぎをしていたような気がするし。

とりあえずやってみよう。ダメだったら諦めて浅瀬でユラユラするのも悪くない。


あっ、さっきの大学生の女の人が手を振っている。あっちもお友達と来てるみたいだ。

綺麗な人が他に2人もいて、、芽衣ちゃん、腕を抓らないでほしい。

痛いよ!お姉さんに手を振り返していたら、芽衣に腕を抓られた。


私はそのうち恭子先輩やお姉ちゃん、芽衣からの暴力(暴力って言っていいと思う!)で青あざだらけのなるかもしれない。

私は何もしてないのに、、暴力反対!



「水希、行くよ」


「芽衣、何で抓ったのー」


「水希が鼻の下伸ばすから!」


「えー、そんなはずないじゃん」



普通にしてたはずだ。手を振られたから振り返しただけなのに、冤罪を食らった気分だ。

鼻の下なんて伸びてないし、相手は女の人だよ。確かに綺麗なお姉さんだけど。

最近、みんな気性が荒すぎる。もっと糖分を取った方がいいと思う。



「水希は大人っぽい人が好きなの?」


「大人っぽい人?別に」


「そっか」


「女の子だったら、芽衣みたいな可愛い子が好き」


「馬鹿///」



ただ1つ言いたいとことがある。芽衣の水着、もう少し露出が少ない方がいいと思う。

確かにお姉ちゃんや恭子先輩よりは布の面積あるけど男の人がチラチラ芽衣を見るから複雑な気持ちになる。


芽衣をいやらしい性の対象として見られるのが嫌だ。海に来たら出会いがあるかもって期待したけどそれどころじゃない。

いつなんどき、芽衣が変な人にナンパされないか不安になる。

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