第54話
海に来たから思いっきり泳ぎたい。でも、芽衣を抱っこしたままじゃ沖に出れないし、足がつかない場所はさっき立ち泳ぎを試した結果無理だと分かった。
いくら浮力があっても2人だと沈む。足を必死にバタバタしたけど逆に溺れそうになったから諦めた。
でも、お姉ちゃん達やさわちん達が私と芽衣を気にして近くにいてくれるから有難い。
みんなでプカプカと海に浸かり、みんなには申し訳ないけど、温泉に来た気分で楽しい。
海なのに誰1人泳いでないから海に来た意味になるのは置いといて。
「ねぇ、ねぇ、みんな高校生?」
「はぁ?何か!」
お姉ちゃん、強い!強いすぎる。ナンパで近づいて来た男の人達に睨み付け、犬が威嚇するようにグルルと言っている。
まるで家を守る番犬だ。恭子先輩も鋭い眼差しで睨んでいるし、最強のコンビだね。
「みんな恋人いますから!」
お姉ちゃんが堂々と嘘をついている…お姉ちゃん以外みんな彼氏なんていないのに。
でも、お姉ちゃんの威圧感と嘘にナンパ野郎が消えてくれたから良かった。
やっぱり高校生にもなるとナンパとかあるんだね。中学生の時、友達と海に来ても無邪気に遊んで終わった。
「私達の可愛い後輩にナンパなんてさせない」
「でも、恭子先輩。彼氏が欲しいって」
「ナンパする男なんて嫌よ」
確かに海でナンパする男なんて軽くて遊び人ばかりだと思う。さっき、芽衣をニヤニヤ見る男の人にイライラしたし。どうせ体目的だろって言いたい。
芽衣は性格も良い子で、そんな風に外見だけで判断されるのが一番ムカつく。
今度は山に行きたい。キャンプして、みんなでワイワイ騒ぎたい。海は面倒くさいことが多すぎる。まさか、こんなに邪な考えの人が多いなんて思わなかった。
この世からナンパ野郎なんて消え去れ!
「あっ、さっきのナンパ野郎、もう次のナンパしてる…最低。水希より最低だわ」
「お姉ちゃん、何で私の名前を出すの!あっ…大学生のお姉さん達だ」
あいつら、お姉さん達が嫌がっているのに周りをうろちょして必死に声を掛けている。
お姉さん達の顔が迷惑だって表しているのに何で分からないの?
お姉さんの腕を掴んで他の所へ行かせないようにしてるしマジで最低だ。
「お姉ちゃん、手伝って」
「えー、行くの?」
「人助けだよ」
「はぁ…分かったわよ」
芽衣を恭子先輩に預けて、泳いでお姉さん達の所へ向かう。普段、怖い鬼軍曹だけどこういう時は頼りになる。
お姉ちゃんはナンパ野郎の近くに行き低い声で「私の彼女に手を出すんじゃねぇ」って予想外のことを言うから驚いた。
お姉ちゃんの背中から殺気を感じたナンパ野郎達は一言「レズかよ」って吐き捨てるように去って行った。
お姉ちゃん、もっと他の言葉はなかったの、、お姉さん達が驚いて口を開けてるよ。
「あの…ありがとうございます」
「いえいえ」
「あっ、さっきの子。ありがとう」
「大丈夫ですか?」
「うん、助かった」
「さっきのは、あの、、守るためですから…」
「大丈夫、分かってるよ」
良かった、誤解されずに済んだ。状況が状況だったけど、頭の良いお姉ちゃんの考えはついていけない。まさか、こんな手でいくなんて誰も思わない。
ただ、大学生のお姉さんから「彼女ちゃん、心配そうに見てるよ」ってなぜか別の方向で誤解された!
きっと、芽衣を抱っこしてる姿を見られていたからだ。恥ずかしい…芽衣が泳げないから抱っこしていただけで誤解なんです。
お願いだから、耳元で「可愛い子だね」って言わないで下さい。
「よし、水希。戻るわよ」
「うん…」
ため息しか出ない。こうやって誤解は生まれ、弁解もできず終わるのかな。せめて、誤解です!って言いたかったのにお姉さん達は帰るのか浜辺に行ってしまった。
遠くから見ていた恭子先輩は呑気に「早かったね〜」って言いながら芽衣を渡してくるし、さっきの言葉が耳に残り顔が赤くなりそうだ。
芽衣は彼女じゃないし…。でも、人目がある所で抱っこなんてしたら誤解される。
おんぶならまだしも、抱っこって…いくら仲良くても友達の範疇を超えている。
「菜穂、そろそろ帰る?また、ナンパ野郎が来たら嫌だし」
「そうね。じゃ、シャワー浴びたら帰りましょ」
最近、これの繰り返しだ。芽衣との距離感に悩んで、離れようと試すけど出来なくて…結局、私もこの距離感を望んでいる。
もし、芽衣が離れたら寂しい。慣れてしまった距離感を失いたくない。
「シャワー室が3つしかないから2人で1つのシャワー室を使いましょ」
「えー、狭いよ。お姉ちゃんとなんて絶対嫌だからね!」
「時間かかるでしょ。それに私も水希となんて嫌よ」
良かった。どう考えても振り分けは私と芽衣だよね。お姉ちゃん達はさっさっとシャワー室に入ったし、ひかるとさわちんも私達の方をチラッと見ながら入っていった。
「ほら、水希。入ろう」
「うん」
「髪の毛に海水が付いてるからちゃんと落とさないとね」
「髪が長い人は大変だよね」
水がちゃんと芽衣に当たるように調整しながら私達もシャワーを浴びる。
広くないシャワー室だから芽衣との距離が近く、どう考えても1人づつシャワーを浴びた方が効率いいと思った。
芽衣にちゃんとシャワーを浴びて欲しくて、芽衣に「やっぱり、後で浴びるね」と言うと急に腕を掴まれ驚く。
寂しそうな顔をした芽衣を見て、ドアノブから手を離した。芽衣の言葉に心臓が激しい運動をした後のように動き出す。
「水希の馬鹿…行くな」
「分かった…」
「早くシャワー浴びよう」
「うん、そうだね」
髪が濡れた芽衣は可愛くて、少しだけ大人っぽい。心が破裂しそうだ。
芽衣の気持ちが分かればいいのに。人間は言葉にしないと相手の心が分からず彷徨ってしまう。そして、彷徨い続けると限界が来て爆発するか疲れるかのどちらかになる。
私は苦しくて、苦しくて、苦しいよ。
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