第49話
「水希、ちょっといい?」
「さわちん、何?」
「あっちに行こう」
やっと部活が終わり、私は帰る準備をしていた。走り終わった後は早く家に帰ってお風呂に入りたかったのに、引き止められ汗をタオルで拭きながら振り向く。
明日は部活が休みの日で、楽しみにしていた海に行く日だった。
さわちんが渋い顔をしながら私を呼び、付いて行ったのはいいけど、なかなか話をしてくれない。私に話があったはずなのに、なぜ困った顔をするの?
家に帰ったら明日の海に向けて準備をしたかった。早めに準備したらよかったけど、私の性格上ギリギリまでしないタイプで今に至る。
家に帰ったら水着を用意して、お菓子をバッグに詰めて、明日着る服の準備してとやることがいっぱいだ。
日焼け止めも持って行かないと。後はサンダルと・・・。
「水希」
「うーん?」
「水希って芽衣と付き合ってるの?」
「・・・はぁ?はぁ!?さわちん、何言ってるの///」
「付き合ってないんだ」
「当たり前でしょ」
この前、お姉ちゃんも同じこと聞いてくるし芽衣と付き合ってるはずがない。芽衣も私も女の子だよ。あり得ないよ…。
いくら学校内で、女の子同士で付き合ってる子がいたとしても、私と芽衣は友達だ。友達なんだよ。
みんな、私と芽衣の関係をそんな風に見ているのかな。女子校だから、仲が良いと付き合ってると思われたら芽衣が可哀想だ。
私と仲良くなったばかりにそんな風に見られるなんて、芽衣がこのこと知ったらショックを受けるよ。
「水希は芽衣のことどう思ってるの?」
「友達だよ…」
「ひかるのことは?」
「友達だけど」
「好きな人いないの?」
「いない…」
さわちんの尋問みたいな質問にドキドキしながら私は心を落ち着かせて答えた。
好きな人はいない。だって、出会いがない。だから、高校を卒業するまで好きな人はできないと思う。芽衣には出来るかもしれないけど、私は出来そうにない。
恋ってさ、いつの間にかしてるものって聞くけど…それっていつ気づくのかな。実は私も、すでに恋をしちゃってたりして。
ふと、果物のタイトルの曲を思い出した。こんな風に思える恋をできたらいいのにって共感した曲。「恋しちゃったんだ」・・・私には似合わないね。
恋に無縁だ。胸がキュンと痛くなる恋をしたいけど叶いそうにない。
「水希はキスしたことある?」
「・・・」
「えっ、あるの?」
「それは…」
「相手は芽衣?」
言えるはずない。あの時のキスは私の身勝手なキスだった。ここで、芽衣の名前を出して迷惑をかけたくない。でも、さわちんはため息をつきながら「芽衣か…」ってまた何かを考え始めた。
勝手に心を読まないでほしい。相手は芽衣だけど芽衣は関係ない。あんなのキスにカウントしたらいけない。
考えないようにしていたのに、また思い出して苦しくなってきた。
「水希は何で芽衣とキスしたの?」
「別に…あれは、、」
「遊びで?」
「違う!あれは…」
「本気のキスなの?」
「あれは…」
さわちんの尋問みたいな質問が嫌だ。何で、こんなこと話さないといけないの。
私は誰にも話すつもりなかったし、芽衣に迷惑かけたくないから心の奥底に仕舞い込むと決めていた。
なのに、さわちんはズケズケと聞いてくる。誰だって話したくないこと一つや二つあるよ。それにキスだよ。話したくないに決まってる。
だから、私は逃げた。まだ、話の途中だけどこれ以上話したくなくて私はさわちんを置いて部室に向かった。
これでホッとできると思ったのに、さっきまで話しに上がっていた芽衣がいてしどろもどろになってしまう。
「あっ、水希。どこに行ってたの?」
「さわちんと話してた…」
「早く着替えて帰ろう」
「うん」
芽衣を巻き込んではいけない。もし、私のせいで噂が立ち芽衣を悲しまるようなことが起きたから私は芽衣の側に入れない。
だから、明日さわちんにちゃんと言わないと。芽衣は関係ないからって。
芽衣、ごめんね。いくら初めてではないからって、同性の友達にキスされるなんて嫌だったよね。
こんな私を許してくれてありがとう。でも、私は優しい芽衣のために何ができるかな。
「水希?どうしたの?」
「何でもないよ」
「また嘘ついてる…」
「本当だよ…」
「私じゃ…そんなに頼りない?」
「違う!そんなんじゃない」
違うよ、違うんだよ。ただ、芽衣に迷惑をかけたくなくてどうしたらいいのか分からない。芽衣を失いたくない、それぐらい大事な人なんだよ。
芽衣が悲しそうな顔しちゃった。また、私のせいで…もう芽衣を悲しませないと決めたのにな。最低だよ。
どうしたらいい?抱きしめていいのかな?
前までだったら普通に抱きしめていた。でも、今は躊躇してしまう。あのキス以来、私は芽衣を意識している。
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