第36話

正式に陸上部のマネージャーになったひかるの自己紹介の時、芽衣の顔色が少し悪いことに気づいていた。梅雨があけ、炎天下の下で毎日のように日光を浴び、紫外線を浴びて芽衣は体調を崩したのかもしれない。

分かっていたのに、芽衣の体調が悪いの気付いていたのに私は見ているだけだった。



「芽衣!」



あと少し、あと少し早く動いていたら芽衣を早めに保健室に連れて行けた。倒れてからじゃ遅いのに…最低だよ。

芽衣の体が熱く熱中症かもしれない。私は芽衣をおんぶして急いで保健室に連れて行く。

今日は養護教諭の先生が研修でいない日で仕方なく私が芽衣の看病をした。先生がいたら、もっと手際良くできるのに…芽衣、情けない私でごめん。


まずはアイスノンでおでこを冷やしてあとは何をしたらいいのかな、、

あっ、体温を測らなきゃ。だけど、体温計を芽衣の脇に挟もうとするとずれ落ちる。

腕に力が入ってないから仕方ないけど、これじゃ体温を測れない。私が後ろから支えて、腕を押さえるしかないみたいだ。



「芽衣、ちょっと体を起こすよ」


「うん…」



芽衣の体の下に私の体を入れて、後ろから抱きしめる。でも、こんな風にしなくても体温計を脇に挟んで私が腕を持てばよかった。

頭が動転してまともに動いていない。芽衣…体温測る間だけ許して。必死にやってるけどパニックになり上手くいかないよ。


芽衣を後ろから抱きしめながら体温を測る。芽衣の体が熱く、風邪かもしれない…夏風邪ってキツいし早めに薬飲まないと熱が上がり寝込むことが多い。

額に汗をかいている…無理しすぎだよ。ひかるがマネージャーとして入ってくれて良かった、これで芽衣の負担が分散される。



「うわぁ、37.8℃じゃん」



完璧な夏風邪だ、薬を飲ませたいけど芽衣はキツそうにしてて飲めるか分からない。一度、声掛けをして飲めるようだったら飲ませてみよう。

風邪薬を探すために棚に行くと、薬品棚に鍵がかかっていた。薬が目の前にあるのに、私は取り出すことが出来ない。


仕方ないと諦め、せめて飲み物だけでも買いにいこう。スポーツドリンクを2・3本買って熱を発散させなきゃ。

お金は部室のロッカーだから一度取りに行って、ついでに芽衣の荷物も持ってこよう。

芽衣の体調が少しでもよくなったら、着替えさせて家まで送らなきゃ。



「芽衣、飲み物を買ってくるね」


「やだ…行かないで」


「すぐに帰ってくるよ」


「側にいて」



芽衣が風邪を引いて心が弱っている。私はベッドに座り、芽衣の頭を撫でながらここにいるよと伝えた。

顔が赤い。恭子先輩、飲み物を持ってきてくれないかな?弱っている芽衣を置いて飲み物を買いに行けない。


体温の高い手で服をギュッと握られているし、寂しそうな顔をしている。芽衣の風邪が私に移ればいいのに、そしたら芽衣の風邪が早く治る。

芽衣の体が震えている。寒いのかな…体は熱いのに、震えってことはきっと悪寒だ。

毛布!は…流石にない。悔しい、保健室にあるのは薄い布団しかない。



「芽衣、寒いの?」


「うん…」



必死に頑張って考えた結果、この方法しかなかった。人肌が一番温かいっていうし、服は脱がないけど私が芽衣を抱きしめれば暖かくなるはずだ。

保健室で芽衣を抱きしめるのは恥ずかしいけど、そんなことは言ってられない。


私はお布団の中に入り腕枕をし、芽衣を腕の中に包み込んだ。早く、芽衣の震えが治まって私に風邪を移して欲しい。

芽衣が苦しんでいる姿を見るのは嫌だよ。私は芽衣のナイトなのに何も出来ていない。



「水希、移っちゃうよ…」


「いいよ、移して」


「やだ…」


「体を鍛えているから大丈夫」


「馬鹿…」


「ごめんね、芽衣が具合悪そうなの気付いていたのに」


「そうなの?」


「いつも芽衣を見てるからね」



芽衣の体温がまた上昇した。熱が悪化したのかも、、それとも私の体温じゃ低すぎるの?

どうやったら、芽衣の体調は良くなるのかな。薬を飲まないとやっぱりダメだ。

悔しいけど、私は芽衣に何も出来ない。悔しくて情けなくて自分が嫌になる。


恭子先輩・さわちん、せめて飲み物を持ってきて。でも、この状況を見られるのも辛い。

お布団の中で芽衣を抱きしめてるのって、誤解をされそうで怖い。

恭子先輩に見られたら、ずっとからかわれそうだし…ニヤニヤされるのが分かっている。



「水希、ごめんね。昨日寝れなくて、ずっと夜更かししてたの」


「そうなの?」


「でも、今日は寝れそう」


「良かった」


「水希、ありがとう」



潤んだ目で笑う芽衣は、私の胸からドキドキと音を出させる。自然と私の手が動いていた。芽衣の顔を撫で、唇を指で触る。

唇が柔らかくて、キスしたら芽衣の風邪が私に移るかなって思ったんだ。



「水希…」


「芽衣、私に風邪を移して」


「えっ」



一瞬だった。ほんの一秒のキス。一秒だけ唇が重なり、私は芽衣を抱きしめる。

顔を見られたくなかった…たぶん、私の顔はとてつもなく赤いと思う。

ファーストキスだけど、これでいい。芽衣を風邪から守りたい、私は芽衣のナイトだ。

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