第20話 MMT*MMF
「おはよぉ…」
昨日はお風呂のあとすぐに寝てしまって、ミナには会えなかったけど…朝食のために行動班で集まった時にミナの寝間着姿を拝見できた。
…女子のパジャマ萌える!
和泉さんは…別にそこまで、だけど。
「お、おはよ…」
「朝ご飯…?多すぎないかしら?」
「全部食べられないなら先に分けて寄越せ。勿体ない」
「ミナ!それドレッシング!ご飯に掛けちゃ駄目!」
ミナはゆっくり、ドレッシングを戻して、醤油をご飯に掛ける。確かに旅館の白米は醤油飯にあうしね…僕もあとでやろっと。
「ん…あぁ…寝ぼけてるみたいだぁ…」
そして、にへらぁ…と笑った。
かっ…可愛い…。なんだこの天使…。
「MMT…」
「ミナたんマジ天使の略か?」
「MMF…」
「ミナたんマジフェアリーの略か…」
…え?
「パイセン!?」
「アニメぐらい俺も見る」
「小銭と言えば!」
「ギザ十」
「魔法と言えば!」
「シャマク」
「ヒロインと言えば!」
「青髪メイドもしくは銀髪エルフ」
…同族だ…同じ人だ…。名前で呼ばないのではなく、尊すぎて言えないんだ…。
「あんたたち…煩いわね…」
「はいはい…っ!?ミナ!?」
竹川により親近感を抱いた瞬間、和泉さんの声で我に返る。そして、向かいに座るミナを見る…と、醤油をダバダバ注いでいた。
「ちょ!ストップ!」
「ふぇ…あ~やっちゃった~」
自分の白米が醤油の海に溺れているというのに、嬉しそうに笑うだけ。駄目だ、寝起きのミナは相手にならない!
「そう言えば和泉さんミナと同じ部屋だよね?どうやって来たの!?」
「私が引っ張ってきた…一回叩くと数秒はまともになるけどすぐこうなるわ。
昨日の夜寝る前に私に謝ってきてたけど、今分かったわ。こういう事ね…」
…仕方が無い。サラダを掻き込んでミナのお茶碗を取る。
「あぁ…お米…」
「ミナっ、こんなの食べたら病気になる!こっち食べて!」
自分の茶碗を差し出して、ミナの茶碗にどっぷり入った醤油をサラダの空皿に移す…醤油、全部抜いたらなんとか食べられるかな…?
「海斗…お前意外とそういう所も優しいんだな…」
「いや、流石にほっとけないでしょ」
「かいぃ…ありがと」
あどけない笑みを見ると、心がほっこりして、しょっぱすぎる醤油ご飯に甘みが増した。
「…すまない…寝起きは人格が違うんだ…カイもごめん、しょっぱいご飯食べさせてしまって…」
「いや、大丈夫だよ。辛くて死にそうだっただけだし。今日で京都にいかなきゃならないんだけどその前に平城京とか見に行かない?」
「いいな、平城京なら奈良駅…だからここか、ここからバスがでてるから簡単にいける」
さすがパイセン、調べものが早いな…ってあれ!?班のスマホがない!
ちいさな笑い声が聞こえて振り向くと、パイセンがスマホを持っていた。
「スリには気をつけるんだな、ほらよ」
「…パイセン怖…。えと…まぁその後で奈良公園行かない?」
「別に反対意見はないわ」
「僕もそれがいいな~」
「じゃ、決まりだ。バス停はこっちだ。ついてこい」
振り返ったまま歩いて喋る。
…なんかさ…。
「班長の雰囲気というか格というか、竹川パイセンに移ってない?」
「いいんじゃないか?竹川君で、頼り甲斐がありそうで安心するし」
「何それ!僕じゃ頼りないって事!?」
ミナが悪戯っぽく笑う。そこに和泉さんの追い打ち。
「そうね、それにあまり語弊はないわ」
「酷い!」
「…煩いよカイ。僕等制服着てるんだから学校の顔に泥を塗ることになるよ…」
「…そんな学校なんてクソ食らえ!」
「…担任に関してはどう思ってるの?」
そして突然、和泉さんが関係の無いことを話し出した。
「ぼ、僕は…いい先生かな~って思ってるよ」
「…俺は…まぁ上の中あたりだな」
「私は素晴らしい先生だと思うけど」
それぞれにすこし歯切れ悪く言う。
いきなりなんだ?お世辞大会か?じゃあ僕はめいいっぱいの皮肉を言おう。
「一杯課題を出してくれる面倒見がよすぎて少し頭オカシイって思うほど過保護な先生だね~」
その瞬間、ミナの顔が『あちゃ~』って顔に、和泉さんと竹川はにっこりと笑う。
お喋りしながら後ろ向きで歩いていた…せいで、誰かとぶつかった。
「あ、ごめんなさ……い」
「どうしたぁ?アカバネェ…随分と課題が大好きなようだな?」
「ギョエッ!なんで!?ここにあんたが!」
新人の女教師、B組の担任こと、小春。たったいま話題に上がっていた教師だ。
…もしかして和泉さんが担任の話題を出したのって…。
「そろそろチェックポイントに生徒がくると思って待ってただけだ。一班目、おめでとう…班長、赤羽海斗」
「…は、はい…」
「さて…課題か…」
「え、えと~みんなをおもしろがらせるためのブラックジョークで…」
「そうか…まぁ、そうだとしても、課題好きな事に変わらない、だろう?」
こ、これを否定した途端、きっと僕は死ぬ。死ぬ。
「は、はい…」
「じゃあ…課題好きのお前は夏休み明けに数学の問題集をもう一周して提出すること」
「…うぃ、ぅいっす…」
「いってよろしい」
…そそくさと逃げてすぐに建物の角に隠れる。
そしてゆっくり僕を追いかけてきたミナたちを睨んだ。
「なんで教えてくれなかったんだ!和泉さんも!分かっててあんなこと言い出したんでしょ!」
「さぁ?なんの話かしら。あら、あのバスじゃない?」
「そうだね…僕等が乗るのはあのバスだね」
「あぁ、あのバスだな。あのバスが平城京につれてってくれる」
遠くに見えた青いバスを睨むと、ボンネットに反射した太陽の光で目を痛めた。
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