第19話 新生代流、盗撮法




「人生は冒険や!生首はフライトや!」


 まずは飛鳥寺、班別にそれぞれ渡されたスマホで一応訪問したという証拠写真を撮っておく。

 そのあとで自分のスマホで写真を撮る。

 まぁスマホはホントは持って来ちゃいけないんだけど、みんな持ってきてるんだよなぁ…禁止するだけ無駄って言うか…なんというか…。


「いきなりどうしたんだい?」

「いやぁ…ここって蘇我入鹿の首が飛んできた場所なんだよね。ほら、あそこの奥に首塚が見えるでしょ?」

「ちなみに首は300m以上飛んでいる。プロゴルファーは300ヤード…つまり270m飛べば凄い方だ」

「…竹川パイセン…それ僕の台詞…取らないで…」


 竹川もこの話を知ってるのか…。

 すまんすまんと笑う顔は、いつもの鋭い眼光からは考えられない…あ、いつもの顔に戻った。

 まぁでも、この話のオチは付けられるしよかった。


「刀で首を切ってそのまま首を飛ばすためには中大兄皇子の腕の筋力はすさまじいものになるわ。

 もしくは、どれだけ入鹿の首が脆くて軽くて首の骨も切りやすかったのか…って所ね」

「…ねぇ!和泉さんまで美味しいところ持ってかないでよ!」

「あははははっ、そんな逸話ぐらい知ってるよ僕も。馬鹿にしてるのかい?」

「…折角なんかミナに対して優位に立てたと思ったのに…」

「そんなわけないだろ。それよりさ、せっかくだしおみくじ引かない?日本最古のお寺だしさ」

「そうなの!?日本最古なの!?」

「「知らない!?」」


 …みんなの視線が僕に集中する…けど、そんなの初めて知った…。

 じゃあ何!?


「僕はいきってピーチクパーチク喋る馬鹿だったって事!?」

「…さ、さぁ?」

「…先におみくじ引いてくる」

「安心しなさい、鳥じゃなくてサルだから」

「それ全然安心できない!酷いよ!」


 みんな苦笑しながら僕から離れておみくじの場所に移った。

 僕はその場で立ち尽くし、足の力が抜けると木陰の椅子に腰が降りていた。


「はい、君の分…いや、君と僕の分だね。250円払って?」

「え?」

「いいから」

「あ、はい…」


 しょんぼり木陰の石に座っていると、おみくじから帰ってきたミナが僕の隣に座って、折られたままの籤を見せびらかす。

 言われるがまま、きっかり250円渡す。


「じゃ、開こうか」


 なんか今日のミナは凄く優しい。

 少し体が近くてドキドキするけど…。


「おぉっ、中吉かぁ。いいね、何々?」

「…」


 ミナが何を読み上げようがどうでもよかった。ただ、目に映る、ソレが気になった。


 『吉、真摯に純な心を抱き続ければ結ばれる』みたいな意味のその言葉が、凄く、ドキリとした。

 それのせいで隣に座るミナにドキドキするようになってしまった。





「はい、と言う訳でやって参りました!橿原神宮!」

「…その動画クリエイターみたいな発言はなにさ」

「さぁ?だってねぇ…橿原神宮前駅に来たのに橿原神宮に来たのはその数時間後。おかしくない?」

「飛鳥寺とか古墳とか寄ってたからね~」


 暑そうにミナが手で顔を扇ぐ。

 ド、真夏だもんね。僕も汗まみれだ。

 この鳥居…めちゃくちゃ大きいな…。写真撮っとこ。


「よし、お菓子買うぞ」

「は…竹川…君?何を言い出してるのかしら?」

「パイセン!?」

「竹川君!?大丈夫かい!?」


 反応速度は僕よりも和泉さんの方が早かった。ってこの竹川が!?お菓子!?


「なにがだ?」

「これから橿原神宮だよ!?」

「あぁ、中に自販機があってお菓子が売ってある。買うぞ」

「…竹川君も悪ガキね…」

「さっきちゃっかりコンビニで昼飯買ったときにラムネ買ってた和泉さんが言うな!」

「あれはブドウ糖の摂取の為よ。あれは…そうね、プロテイン、サプリメントと同じ同列だと考えてくれて構わないわ」

「…ま、まぁいいんじゃないか?正直…僕も宿でお菓子食べたいし…」


 実は悪ガキはうちの班に三人、居たようだ。


「全く…優等生は僕だけだな。悪ガキめ」

「「さっきからずっと班のスマホじゃなくて自分のスマホ弄ってる君が言うな!」」


 一斉に怒られた。けどだって…。


「皆自分のスマホ持ってくるでしょ!宿で暇じゃん!やることないじゃん!」

「…部屋でトランプ」

「刀の図鑑」

「寝る」


 …やめておこう、『ミナ以外ぼっちじゃん!』って言おうとしたけどやめておこう。そしたら多分、僕は死ぬ。


「ちなみにトランプはソリティアだよ」


 …聞かなかったことにした。





「ふぅぅぅ…お風呂きもちい…」


 女湯にはいってようやく、皆が僕の事を女だと認めてくれた。

 水に浸かると髪の色が落ちるからプールには入りたくないんだけど、お風呂は衛生観念的に仕方ない。


 湯船にに髪の毛を付けなきゃいい話だし、今日に合わせて髪の毛も染め直してきた。

 コンタクト、ホントは外したいんだけど…面倒だし消灯してからにしよう。


「ミナちゃんヤバっ!神々しい!」

「可愛い!安心してる顔やばっ!」

「ちょっ、やめてくれよ!恥ずかしい…!変なことを言わないでくれ!」

「きゃ~!最高!」





「…なぁ、湯船の下から女湯に繋がってるってありそうじゃないか?」


 誰かがそう言った途端、雑音が消えて、静かになった。


「よし!潜るぞ!」

「探せ探せ!」


 …事前調査がなってないな…。一階の地図に湯船の位置が書いてあったけど女湯の湯船とは壁を挟んで真反対だ。

 と、いうかそもそも、湯船の底が共有されてるなんてそんなものがあるわけがない。


「研究旅行の事前調査は出来てもこういう事の事前調査はできないんだな」

「パイセン…」


 竹川が僕の隣に座る。ホント、竹川の言う通り。


「湯船が繋がってるなんてあり得ない。古典的で安易なんだよな…」

「そうっすね…。っ!水しぶき立てるなよ馬鹿共…」

「湯船のマナーがなってない」


 ただ…と竹川は続けた。そして湯船のタイルを見る。


「排水管を通して繋がっていたりはしそうだな」


 同じように、僕も網を見る。確かに…身体を洗う水路からたどれば女湯に入ればよさそうだ。

 でもきっと狭いだろうし、通れるかどうかなんてわからない。

 竹川は天井を見上げる。


「通風口が繋がってはいそうだけどな」

「っ…!ドローン持ってくればよかった…!」

「…ブラックジョークのつもりだったんだが…」


 呆れた声は聞こえないこととする…ちょっと本気で、ドローン持ってくればよかったって思ってしまった。

 でも…ナウい盗撮方法だろ?





PS:めちゃ久しぶりの更新、ごめんなさい。

 この作品の執筆に復帰しました。

 告知……タイトル変えますが、内容的には変わらないので多分大丈夫です。

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