第15話 悪ガキ優等生
「じゃあ部屋割りはこれで終わったから行動班を決める…が、研究目的が似ている人で組むこと。
好きに組んでたら行動予定がキツキツになるから、注意するように。各々の研究テーマは後ろの掲示板に貼っておいたからそれを参考にするよう。では」
「煙草煙草、みんなの空気、歩く公害喫煙者」
政治家のワンフレーズが頭から離れない。都内、喫煙室以外全面禁煙の条例を作ろうとしてる政治家のフレーズだ。
こんなフレーズ作られたら頭から離れないよ。
研究旅行とかホント、酷い。部屋割りは陰キャ同士で組ませてもらった。
僕は陰キャの群れに所属しない一匹狼だが、同族の陰キャには寛容な群れでよかった。が…行動班とか…マジかよ。
「ねぇクラリスくん、その…組まない?」
「私と組もうよ~」
…ふっ、馬鹿め。研究テーマは…。
部室にて。
「歩く公害喫煙者~…ねぇカイ、研究旅行どうする?」
「え?」
「行動班一緒になろうよ」
「あ…いいけど…でも研究テーマが似ていないと」
「うん、だからさ。似たような研究テーマ考えようぜ。そしたら班組めるし」
…そう、ミナは優等生な様でかなりの悪ガキだ。
研究テーマは京都と奈良の街を散策できるようなテーマにした。まるでこれは、研究旅行デート!
…なんて言えたらよかったんだけど、デートとは思えないんだよな~。一緒に歩いて楽しみたいとは思うけど。
と、言うことで…。
「ごめん、やっぱりテーマが似てる方がいいから。その方が皆の為にも効率的だしね。なぁ赤羽くん、僕と組まないか?」
「ん…いいよ」
これは僕の提案…というかお願いだったのだが、教室ではあまり親しげにしないで欲しい。
別にツンデレじゃなくて、変に絡まれるのが面倒なだけだ。僕をルートにミナと親しげに話されると『寝取られた感』がして胸くそ悪いから。
まぁだから少人数の前なら『カイ』って呼ばれてもいいんだけど。
「え~…」
「ごめんね、あと君らは竹川くんとかと似たテーマだった気がするから彼と組んだらどうかな?」
「え…ぁ、ありがと…聞いてみる」
竹川はクール系イケメン野郎。でも、日本刀オタク。
だからか、あんまり人気が無い。オタクのデバフ効果強くない?
「ねぇ赤羽君、街散策なら私も一緒だから組まない?」
あと三人、和泉さんが話しかけてくる。…まぁ和泉さんならいいか。
「和泉さんはなんのテーマ?」
「平安京の測量…」
「…なんともまぁ地味なテーマか…」
「カイっ、そんな事言うなよっ」
「赤羽君も十分地味。測量のデータ貸してあげようかと思ったけどやめようかしら…」
「いやっ!お願いします!和泉さん!是非うちらの班にカモン!」
僕のテーマは平安京の出勤にかかる時間。調査に測量は必須だ。
和泉さんが測量するなら僕は何もしなくて済むし。
「いいね、和泉さん組もうよ」
「えぇ、よろしく」
これであと二人…教室を見回すと竹川の鋭い目と視線が合った。
「随分とキャラの濃い人員で固められたね」
「僕っ娘、陰キャ、刀オタクに毒舌ツンデ…げっ」
つ、つま先が…和泉さんに踏まれてい…イタイイタイイタイ!
「でもって四人班って言うのもこれまた異色だね」
僕の足が踏まれているのを知っているのか知らないのか、呆れた目でこちらを見ながらミナがそう言う。
「よろしく」
「あぁ、よろしく竹川君」
研究旅行は夏休みで、まだ先のことなのに、何かが起こるかもと不安で仕方が無かった。
「…うわ~勉強とかマジ面倒…」
…されど、天国なる夏休みに行かんと志せば、試練踏破すべし。
それ、期末試験なれり。
「それ文法間違ってない?」
「え?」
「いや、口にでてたよ。されどなんたらかんたらって」
「マジかすまん、どこ間違ってた?」
「雰囲気、なんかソレっぽいだけで間違え多そう。
あと僕残り三問だけど?ちゃんとやってる?のこり20分だよ?」
「嘘マジか!僕あと一問!」
ちなみに今は数学の問題を競争して解いてる。天井に付けた疑似クーラーが無かったら部室で出来なかったな…あれ買ったら意外とお値段高いらしい…。
にしても…数学の解くスピードは僕の方がミナよりも早いみたいだな…へへっ。
少し驚いたフリをして煽る。調子に乗るとすぐ煽るのが僕の悪いクセだ。
「嘘!不正だろ!」
「実力で~す。ここを微分して…」
よゆーよゆー。ミナより僕、数学得意なんだ、よかったぁ~。
最後の問題も簡単で、機械的に問題を解くだけで充分だ。
「おわった!」
「早くない!?ちょ、五分くれ!終わらせる!」
その瞬間、ミナの手が光速を越えて動き出した。そんな訳無いけど、指先なんかは残像でハッキリ見えなかったんだ。
「っし!終わった!さて答え合わせをしようじゃないか」
「…もしかしてミナ手抜いてた?」
「いや…確実性を求めてただけさ。これぐらいの問題、やろうと思えばものの1分で解けるさ」
「クソッ…腹が立つ…」
模範解答を開いて赤ペンを構えた。まぁでも…間違えなきゃ僕の勝ちだ。
「さ、採点を始めようか、ノート交換しようぜ」
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