家電

第11話 見せなかったのが悪い




「さてと…体育祭のせいで活動止まってたけど、これで完成だね」


 床に、スポンジ製の英語の書かれたマットを敷き詰め終わって、ミナが声を上げた。


「そうだな…中間試験のせいで体育祭のあとも出来なかったしな」


 六月、雨がかなり強く降っている。ようやく、ようやく部室の改造が終わった。


「じゃあジュース買ってくる。僕の奢りで」

「おっ、太っ腹だね。僕リンゴジュースでよろしく」

「分かった!」


 手を上げて応え、廊下を走る。

 何をする部活…というか同好会なのかは知らないけど、楽しみだ。

 ほとんど掃除して壁紙を貼って、マットを敷いただけだけれど。達成感がある。あと…秘密基地が出来たみたいなワクワクも、だ。





「「かんぱ~い」」


 ペットボトルを打ち合わせて炭酸水を傾ける。勿論、完成した部室の中だ。


「いや~完成したね」

「ホント、疲れた。で…そう言えば社会不適合者同好会って意味分かんねぇんだけど」

「こんな名前にしておけば誰も入りたがらないだろ?こんな住み心地のいい部屋僕等以外に使わせたくないね」


 六畳間、二人が寝転んでもかなり空きスペースがある。ミナはマットの上でごろごろして、伸びをした。


「いやぁ~ま、あとは冷蔵庫とテレビと遮光カーテンと冷却器とゲーム機と…」

「え?」

「いや、だから…」

「そんなことしたらもう部屋じゃん!」

「あぁそうだよ?僕等の部屋だ。いったろ?二日は籠城できるぐらいにしたいって」

「…そう言えばそうだけど…。本気だったのか?」


 確かに、断熱ペンキを塗っていたときに言っていた気もする。


「そうじゃなきゃ言わないよ」

「でもどうやってそんな機械そろえるんだ?」

「父さんが大手の家電屋の社員でね。家族価格で…」

「…よしっ。やめだやめ。今度の日曜日に日本橋集合」

「え?」

「お金は昼飯代と交通費だけで充分だからな?裏技があるから」

「はい?いきなりどうしたんだい?アテでもあるのか?」

「おう、楽しみにしておいて」


 正直、もっと他の事に使おうと思っていたけど…こういう事に使うのも悪くなさそうだ。

 珍しく不可解そうに首を傾げるミナを見れるのもいいしな。





「あにぃ…それで日曜日にデートと…」

「まぁな。僕のかなりのリア充になってきたぜっ」

「一人称『僕』なのがなぁ~。口調とあってない」

「うるせぇっ、お…おお俺の一人称は『ぼ…』違う『俺』だっ!」

「煩いのはあにぃだからね?」


 目の奥にイライラが見えたら黙れの合図。これ以上煩いと殺すという宣言だ。


「…はい。すいません…。琉生、そう言えばこのサバゲーの大会あるって。でなくていいのか?」

「釈迦に説法。僕それシード進出だよ?前回大会四位だったから。プロゲーマー舐めんな」

「…スポンサーついてるんだっけ…?」

「あぁ、そうだよ、そこら辺の会社員よりは稼いでるかな?通帳見せたらようやく母さんも許してくれたよ」

「…」


 僕の弟は…中1のクセに超人プロゲーマーだ。対して兄は何も特性がない…兄貴の肩身狭っ!





「よっ」

「やぁ…。日本橋って日曜も混んでるね…」

「だな。まぁ少し歩くぞ」

「うん…だけど…どこに?」

「そこ」


 指さしたのは道路を挟んで向かいの、一番高いビル。その名前は…『家電とくらす』

 なんで『くらす』を平仮名にしたのかは謎だ。


「知り合いが務めているのかい?」

「ん~…知り合いって言うと…うん、知り合いかな?う~緊張する~」


 会社内に入ってそのまま客人用の扉をくぐる。床がマットだから足音が全くしない。


「ホントに大丈夫?誰もいないけど…」

「大丈夫だって、僕には…」


 向こうからツカツカと歩いてきた女性の警備員とすれ違う。女性警備員カッケ~。

 そんなこと思ってたら肩を掴まれる。気付けば世界が反転する。身体が咄嗟に動いて受け身を取った。それでも、息が詰まる。

 これが…大外刈り…か。

 武道の授業…選択しててよかった…。


「カイ!?」

「子供がどうしてここにいる!」

「栄吠、なんかあっ…おい栄吠!」


 向こうからもう一人、警備員が走ってきた。

 はばい…って珍しい名字だな…。


「杉田さん、不審者確保しました」


 おいいきなり不審者扱いかよ…しかもなんか嬉しそうな声だし…。

 ひでぇなおい…。


「かっ…ゲホッ…ゲホッ…」


 詰まっていた息がようやく治って噎せる。

 スマホから手探りで堅いカードを取り出した。


「こ…これ…これこれ…」

「っ!?はぁ!?ブラックカード!?」


 状況が飲み込めてないのか目を白黒させていたミナがようやく口を開いた。


「ブラックカード?」

「あぁ…あ、ありがとうございます…。最上位の客人待遇のカード」


 杉田さんの手を借りて起き上がる。受け身取ったのにかなり痛いな…。


「いろいろ聞きたいけど…カイ…怪我は?」

「いや、受け身もとれたし床も布だから大丈夫…」

「本当!申し訳、ありませんでした!栄吠!お前も謝れ!」

「…ふんっ…」

「申し訳ありません!栄吠は後でちゃんと罰しますので!こいつ頑固なんです!」

「いえ…見事な大外刈りでしたしそれに免じますよ」


 冗談めかして言うけど…この栄吠って人、謝罪もそのそぶりも一切ないんだよな…。


「それにカードちゃんと見れる場所に持ってなかったですし…」

「ほら謝れ!」


 腕を組んでいた栄吠さんがようやく口を開く…が。

 予想外の言葉が、栄吠さんの口から出てくる。


「そうだ。カードをちゃんと見せなかったのが悪い」


 この人、ガキ…?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る