GWの逢瀬

第6話 女だなぁ〜と




「…てか今思ったけど僕JKとスマホ繋がってる!?」


 GWも半ばにして、未だ何もやりとりをしていないミナとのチャットルームを開いて思い至った。ぐーたらとベッドの上でだらだらしている朝だ。

 その間の進展、なし。


「あにぃ煩い」

「その呼び方やめろ!」


 まるでラノベの妹キャラのような呼び方と発言をしやがって…。

 呆れた目で僕を睨む琉生をにらみ返す。


「…あにぃが一番慣れてんだよっ」

「あのなぁ?今はまだ中1だから…いやもう普通は中1の時点でオワッてるんだが…。まだいいや、中学高校になってみろ!いや、学校に行ってみろ!

 お前は『あにぃ』って呼び方を絶対後悔する!」

「論点すり替えるな馬鹿兄貴。今はあにぃが煩いことについて論議している」

「ひぃっ…す、すいません…」


 琉生は凶暴だ。まるで獲物を狙うワニのようだ…。僕はさながら三葉虫…。


「で?JKとチャット?それぐらい普通じゃない?やかがそれ如きで喜んでんの?」

「お兄ちゃんは陰キャなんだよ!」

「怒った顔して自虐かつむなしい事叫ばないで。あと煩い」

「…はい…」

「貸してみな」


 抵抗する間もなくスマホを奪われる。

 この生意気なガキめ…自分のスマホすら持ってないのにJKとのチャットにおいて兄貴に説教垂れる気か?


「…はぁ?まだ1文字も打ってないじゃん」

「いや、まぁ向こうから送ってくるだろ。俺は別に連絡しなくても?ど、どうでもいいし?」

「ドモルあたり気にしてるじゃん。あのね、こう言うのって相手も同じ事考えてると思った方がいいよ?

 自分が七対子作ってるときは相手も作ってるのが多いのと一緒」

「いや、お兄ちゃん麻雀分からないんだ…って中学生のお前がなんでしっとんねん!」

「引きこもり舐めんな。まぁ…相手のミナさん?も同じ事じゃない?」


 お前もたいそうな自虐かつむなしくなるネタ言ってるぞ~、そんな事を頭の中で突っ込んでいたら琉生が勝手にスマホを触っていた。

 …まぁ隠したい物はないし別にいいか。

 高速の指裁きでスマホを触る琉生をそのままにトイレに向かった。





「…わっ…」


 決して、決して僕は空白虚無のチャットルームをこのGWの今日の今日まで開いていた訳ではない。

 なんて送ろうか、なんて会話しようか、こんなこと話したいな、って考えていた訳ではない。

 来た瞬間に、開いていただけだ。


「…えぇ?」


 送られてきたメッセージ。少しカイには似つかない文面。


「遊びにいかね?って…いきなりすぎるでしょ…」


 呟いたらそれに応えるかのように素早く追加で送られてくる。


「勿論デート、俺の奢り…?…ぷっ…いいよ。変なの、君の一人称は僕だろ?」


 気の抜けた声が出る。そしてカイの言葉を肯定していくだけで時間も待ち合わせ場所も決まっていく。

 …そして約束が決まってから、鼓動が少し速くなった。


「何カイにドキドキしてるんだか。僕は乙女かよ」


 ※乙女です。

 …ま、当日約束して遊びに行くって凄い青春っぽいしいいか。準備しよっと。





 トイレから戻ると既にそれは空白のチャットルームではなくなっていた。

 まさかとは思っていたが、琉生が勝手にミナとチャットをしていた。

 しかもデートの約束。ここから電車で20分の場所に、今から40分後。


「お前お兄ちゃんのハジメテを奪ったな?」

「キモ、高々チャットでデートの約束しただけじゃん」

「いや、人の休日をなんだと思ってるんだ!てかこの文面明らかに僕じゃねぇだろ!」

「さぁ?なんの事か…。あ、これから大会の予選始まるから静かにしててよ?」


 惚けて肩をすくめ、机の上を占領しているパソコンを睨み始めた。

 …この琉生、引きこもりのプロゲーマーである、とだけ言っておこう。





「…あ~…やっちまった…」


 服装、ジャージ、ジーンズ、斜めに掛けたウエストポーチ。完全に一昔前の流行を今頃やる陰キャだ。

 ※個人の主観です。

 いや、客観的に陰キャだろ。

 ※本体が陰キャですので。

 巫山戯んな!…って一体僕は何と対話しているんだろうか…天の声か?


 そろそろ約束の時間だけど…。

 あたりを見回すが…ミナらしい人はいない。と…。


「やぁ、カイ」


 呼ばれて振り向く。僕の後ろには…。

 …髪色は確かに黒だ、少し寝癖が立っている。だけど…ミナって青目だっけ…?


「え?…あ、お、おう…」


 触れない方がいいのかな?…あ、そう言えばハーフだし青目でもおかしくはないか。


「ん?どうかしたかい?」

「…いや…目。いや、別に僕はミナが何色でもいいんだけどさっ、その…い、いつもガラコンしてるんじゃないか?

 しなくていいのか?」

「ん?…あ、忘れてた。ごめんちょっと待って」


 ミナが後ろを向いて、ポケットから何か取り出す。

 …へぇ。


「お待たせ、ありがとう。いつも髪染めしてるんだけどコンタクトは焦って忘れちゃってたみたいだ」

「…へぇ…そうか…」


 ニヤニヤが止まらない。

 そう言えば…ミナも僕と似たような格好をしているが…陰キャっぽく見えない。天の声の言う通り、本体が重要なんだな。


「ん?何ニヤニヤしてるんだ?」

「ミナも女だなぁ~と、それだけだ」

「は?どういうことだい?」

「さぁ?あとごめんだけど…遊びに誘ったの僕の弟。悪ふざけでこんなことになった、休日に呼び出してごめん」


 怒られるかと少し不安だったけど、意外にもやれやれとため息をつくだけだった。


「いや、質問に答えてよ。あとカイじゃないのは薄々分かってたよ。女の子をデートに誘う度量も器量もカイには合ってなかったからね」

「…辛辣だな。まぁいいや、一応来る途中にで…で、ででっデートプランは考えてきたから。着いてきて」

「そこでドモるのがカッコ悪くて君らしいよ。

 ま、誘ってくれたのが君じゃなくても、キャンセルもせず、デートプラン考えてくれたしそれに免じて許してあげるよ。

 ありがと」


 っ…意外にもあざとい、そんな笑みに、少しドキリとした。



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