第4話 付き合ってあげなくもないぜ!




「さ、昨日の続きだ!掃除するよ。うわ…ジメッとしてる…まぁ虫が入ってくると嫌だから窓開けたくないしね…」


 …連れられるがまま部室棟。

 ホント困る、なんで青春ぶちかまし中の高校生が部室の掃除しなきゃならないんだよ。

 ※『陰キャ』に青春?


「さてと…」


 息をついたかと思えば、突然、ベルトを緩め、ズボンを脱ぎ出すミナ。


「え!ちょっ、僕いるよ!ねぇ!」

「…。きゃ~、見ないでエッチ~」


 気の抜けた声に目を隠していた手が落ちる。

 …Yシャツも脱ぎ終えたミナは…下着、なぁんて事は無かった。体操服だ。


「なんだい?僕の下着姿に興味でもあるのか?」

「…性的対象としてみていいなら興味津々だね。貧乳は貧乳でそれはそれで…ゴッ…ボッ…グゲェ…」


 ゴリッ。


 頬に衝撃を感じる。次の瞬間、僕は地面と熱いキスを交わしていた。

 顔を上げると…ミナの目が赤く見える。骨パキパキをしている。

 怖い怖い怖い!


「人を怒らせるセンス最高だね…」

「いやっ!別に貧乳が悪いなんて言ってない!世の貧乳に謝れ!」

「…死ぬ?社会的に、最終的には物理的に」

「…ヤダ…」


 身体が勝手に後ずさりしようとする…本能がそうしている。このままだと死んでしまう。


「な、なぁ…。ミナ…」

「なんだい?」

「少なくともこの高校生活…ミナに全て捧げます…どうか…殺すのは…」

「…はぁ、仕方が無い。許してやるよ。だけど…言質は取ったからね」


 …もしかして僕今、凄い重要な物を代償に命を守ったんじゃないか?


「さ、時間もないんだ。昨日ので壁と天井の掃除は終わったから今日は床掃除だね、ほら、着替えて」

「…あ、着替え持ってくるの忘れた…と、言うことで役に立てなさそうだから僕帰るね!…ガッ…」


 走り去ろうとした瞬間、Yシャツの首根っこを掴まれて息が止まる。動けないままでいると、そのまま耳に口を近づけてきた。

 そしてミナは囁く。


「…さっきの言質はなんだったんだい?…あと、今日は体育があったよね…?」

「…はいっ!わたくし赤羽海斗!全身全霊を持ってミナ・クラリス様に仕えさせて頂きます!」

「あぁ、よろしく。ブラシと洗剤は置いておくから、着替えたら汚れてるところ入念に擦って」

「…分かった」


 言う通りにするほか、僕の生存する方法はなさそうだ。





「ふんふんふふ~ん♪」

「…ねぇミナ」

「なんだい?あ、そこまだ汚れ残ってるよ」


 意外にもミナは厳しい。言われた所の汚れを完全に拭い取る。


「あのさ…隠してることわざわざ聞くのもなんだけど、ミナの日本人名って何?」

「…」


 やっぱり聞かない方がよかったか…。

 黙りこくったミナを見て後悔する。


「ごめん、今の無しで。あのさ、この部室掃除して何がしたいの?」

「ありがと…」

「へ?」

「いや、名前、追求しないでくれた事。まぁいつか教えるかもね。

 で…まぁ掃除したら~…秘密基地ってわけじゃないけど家をここに作りたい。君と一緒に過ごせるね」

「は…?はぁ!?」


 何!プロポーズ!?いや、なんで?まさか覚えてないだけで小さい頃一緒にいたのか!?

 あるあるのラノベのテンプレ幼馴染み展開!?


「カイを選んだ理由。教えてあげるよ」

「…あ、あぁ…」

「掃除の手は止めちゃ駄目だよ?えっとね、僕青春に憧れててさ」

「はぁ…」

「この人となら付き合ってもいいな~ってあるじゃん?」

「…そうだね」


 世の『告白されて交際する』の構図は大体がソレで成り立っている。

 両思いじゃないけど、この人なら付き合ってもいいか、みたいな。


「みんな僕に興味津々じゃん?まず最初に自然体で接してくれる人がいいなってこと」

「だじゃれ?ミナだけに皆、ミナに興味津々ってこと?」

「気にしてることだからやめて。

 まぁそれで…別に僕に興味持ってくれて構わないんだけど…やっぱ付き合う相ぐらい自然体がいいなって。

 僕のタイプって大事な所は気配りが出来て、意外に脆くて、かなり格好悪いけど年に一回ぐらい格好いいみたいな人なんだよ」


 ゴシゴシと、強く壁を擦る。

 今までの知り合いを思い浮かべるが、あまりいない。いや、知り合いが少ないわけではない。


「…結構当てはまらなく無い?」

「そうだね。まぁ…中学の頃そう言う人探してたらさ、俗に言う陰キャが多いって気付いたんだよね。

 特に小さい気配りとかは意外と上手いんだよね。コミュ障な分、心読めるのかな?」

「グサッとくるからやめて」

「ふふっ、いつも自分で『陰キャ』とか言ってそうだけど?

 まぁ…それでさ。見つけたのが君なだけ」

「…へぇ…じゃあミナは僕とつ…つ…付き合いたい訳だ」


 …その瞬間、ミナの動きが固まる。図星?


「…ぃ、いや…そんなことはないよ?『付き合う』ってのは『交際』じゃなくて友達の意味で使っただけだよ」


 …顔が赤く見えたのは気のせいかも知れないが…それでも、陰キャの僕の前にある一縷の望みにかけた。


「ねぇ、それは恥ずかしいから言い訳してる?それとも解釈間違えた僕に引いて言葉が詰まった?」

「…ごめん後者。ま、まぁ大丈夫だよ。ドン引きした訳じゃないし、僕の言い方が悪かっただけだから」


 …何?じゃあ僕って勘違いしためちゃめちゃイタい奴?

 ショックで倒れそう…。


「カイ!?」

「ハッ…え?」


 ミナに呼ばれて我に返る。

 身体が斜めに、ホントに倒れかけていた。慌てて体勢を立て直す。

 その時に気付いたけど、ミナが僕の事を支えてくれていた。


「あ、ありがと…」

「いや、いいよ。でも突然倒れたら、危ないだろ?大丈夫か?風邪なら言ってくれよ?」


 ミナが心配そうに、声を掛けてくれる。その声に、少しだけときめいた。陰キャの僕でも平静を装ってられる程だけど。


「ねぇミナ」

「何?」

「…僕さ、ミナとなら付き合ってあげなくもないぜ!」


 洗剤で泡塗れになった親指を立ててミナにむけると、同じく泡まみれの手でそれを弾かれた。


「バーカ。告白なら逃げ道作らずハッキリ言うんだね。さ、時間も無い、仕事して」


 別に告白じゃないし…。ちょっと言うの恥ずかしかったのに…。

 ミナが何かを呟いた。



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