第3話 勝ち確のメロディ、負け確のメロディ
「じゃあお前ら、前回の授業でやり方とかは全部教えたし…好きに4人ペア組んで始めろ~。今日は休みが2人だから1つだけ3人グループ作れ~」
そのさ、好き組んでいいよ、って言うの止めない?
『皆と交流を』とか『時間掛かるから』とかそう言う理由を持って教師がペア決めるべきでしょ?
陰キャの存在を考える事も、教師の役目だと思うよ?
「ねぇクラリスさん!組まない?」
「私と私と!」
「おいクラリス!俺が勝ったら身体触らせろ!」
「ねぇ皆!この変態どうにかして!」
やっぱり、クラスのメインヒロインは君で決まりか、ミナ。
ミナは囲まれて困った顔をしながら周りをキョロキョロと見回していた。
「ねぇ、赤羽君」
「っ…!僕!?」
「そ、組まない?どうせ陰キャだし組む相手いないでしょ?」
辛辣な言葉と共に、ラケットを僕に渡したのは…。
「和泉さん?…それ、特大ブーメランって言っていい?」
「死ぬ?」
「いえ嘘です!組ませて下さいっ!」
「そ、よろしく」
…陰キャの僕に話しかけるなんて…まさか僕に気があるとか…?
「別に赤羽君が気になって声を掛けた訳じゃないから」
「っ、エスパー?」
「いいえ、全く?」
…ま、まぁ…ツンデレと言う可能性も無きにしも非ず…。
そう思っていると、和泉さんの呆れ半分のジト目と、目があった。
…く、クーデレという線も…汗。
「ごめん僕さ、他の人と組むつもりだったから、今回はごめん。なぁカイ!」
「…」
無視しよう。僕には和泉さんという相手がいる。無視だ無視。
「カイ!無視するなって…ば…?」
「へへんっ、ミナ。僕にはこの和泉さんという相棒がいるもんでね。悪いけど君とは組めないようだよ」
肩をすくめて、横の和泉さんの肩を叩こうとする。が、避けられた。その行き場を失った手をポケットに入れる。
やったぜ、ミナに勝った気がする。
別に勝負なんてしていないのに、勝ち確のメロディーが頭の中で流れた。
「…赤羽君。ペアは三人以上…」
…あれ?…これは負け確のメロディー?
「僕より先に他の女の子と組んでいた事に凄く憤慨するけど…まぁ今回は許してあげよう。
さて、さっさと3人で始めようぜ?」
「…クッ…」
頭の中を電気が走る。
僕は陰キャの中でもかなり、と言うか普通に運動の出来る陰キャだ。リレーは補欠の補欠。ドリフトでチーム決めするときは10~20番目に選ばれる。
つまり、少し自尊心がある訳だ。
ミナに負けるのは悔しい…が、まぁ和泉さんに勝てたらいいか。
和泉さんには悪いけど…陰キャのくせに二位、って立場は譲らない。
「あぁ、ミナ、よろしく。じゃあ始めようか。最初は僕とミナで」
「…失礼な人」
和泉さんが僕の後ろを通る瞬間、そう呟いた。気付いて振り向く。が、飄々と、体育館の壁にもたれていた。
まさかだけど心の中覗かれてた?
「どういう…」
「じゃあカイ、僕が先行でサーブさせてもらうよ?」
問いかけようとしたけど、ミナが既にピンポン球を宙に投げていた。
「あっ!待って!ちょっ!」
慌てて台の前でラケットを構える。
ミナが球を打つ。ミナの陣地で跳ねる。ネットを越える。僕の陣地で跳ねる…。
ここに立ったらいい感じにスマッシュが打てる!あとはボールが来るだ…?
だけど、球は急に軌道を変えて奥…つまりミナに向かって跳ね、ネットに当たって…僕の陣地で跳ねて止まった。
「え?」
「まず1点だね。次、本気で打つよ」
「え!いや!不正でしょ!」
「不正じゃない…よっ!と」
甲高い音と共にボールが僕に向かって飛ぶ。卓球って…確かボールの速さが最高で180km/時!こんなの当たったら死んじゃう!
怖くなってラケットで身体を守ろうとしゃがむ。
と、ラケットに衝撃…と呼べるほどのでもない力が加わり…軽い音で、ボールが僕の陣地に跳ねた。
「あはははっ、何逃げてるんだい?あと今のサーブノーバウンドだからラケットに当てなきゃカイの1点だったのに…ククククッ…」
「え…?」
「…無様」
「ちょ和泉さん!僕視点に立てば分かるよ!めちゃめちゃ怖いんだって!」
反論しようとしたら人を見下すような冷たい目で睨まれる。
まるで蛙を睨む蛇だ…うぅ…。
「たかがピンポン球、質量が凄く小さい…から最高速度…180km/時で当たっても少し痛い位…」
「和泉さんよく知ってるね。まぁ…バドミントンなら今の反応間違ってなかったよ?でもねぇ…卓球でねぇ…」
「煩い!どうせ怖がりびびりチキンですよ!僕は!」
「さ、そっちのサーブだよ?カイ、早くやりな」
「吠えてられるのもいまのうちだ!」
…結果、惨敗。
「和泉さん…変な回転掛けるの反則でしょ…」
勝てると思っていた和泉さんですら、強かった。
強打はしない、全く和泉さんらしい…ものの、ボールを返すときに変に回転を掛けるせいで思うように打てないのだ。
「いやぁ~和泉さん強いねぇ~。僕も危なかったよ。力でゴリ押しするしか無かったよ」
「…クソッ…」
ミナが寝転んでいる僕の横に座る。勝者の余裕の笑みってところか。
「ま、楽しかったよ。カイ、遊びで打たないかい?」
「…打ってやるもんか」
「強打はしないって、ラリーのために打つ感じだからさ」
「…わかったよ…」
別に、ミナともう少し打っていたい、なんて思った訳じゃない。
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