部室

第2話 陰キャのフリした肉食聖槍爆裂野郎




「ねぇクラリスさん!」

「はぁ…なんだい?」

「キャーッ!カッコイーっ!」


 ミナめ…スカートではなくズボンを制服として選択しやがって…。

 周りの女子からキャーキャー言われてる。…クソッ…僕が言われたい…。

 僕の機嫌が悪い理由はただ1つ、返してもらったジャージから、ミナの匂いがプンプンするんだ。

 同じ洗剤だから仕方ないんだろうけど…変に気になってしまう。


 あと…何より、ミナが僕の隣と言うことで、僕の席が誰かにぶんどられているんだ。

 僅かトイレに行く1分の間に…。

 教室の隅の席?そんなもの、約10分前に奪われた。





「席替えするぞ~!」

「やった!マジか!」

「よっしゃ!」

「キャ~!」

「〇〇君の隣なれるかなぁ…」


 別に席替えなんて?どうでもいいし?

 とか言ってクールぶってるイキリ陰キャが(自分も)いない訳ではないが、圧倒的に喜んでる生徒の数の方が多い。


 入学早々、なんでこんなに騒げるんだろ…恥ずかしいし…少しは猫被ろうと思わないの?

 ※『陽キャ』だからです。


「じゃあ籤引きで決めていくぞ~!赤羽あかばね

「は、はいっ!?」

「…と、和泉わいずみ!じゃんけんしろ」

「え…?」

「いや、籤引く順番を決めるだけだ」


 えぇ…?これが出席番号一番の運命か…。


「おい赤羽、絶対勝てよ?」

「和泉!勝て勝て!」

「残り物には福があるだろ?和泉?勝っても籤引くの最後を選べよ?」


 教室の対角線の和泉さんと目を合わせると、面倒臭そうに手をこちらにむけた。


「勝て勝て勝て!」

「じゃ~んけん…ぽい」


 手を振ってテキトウに指を出す。

 相手はパー。…自分は…チョキか。


「よっしゃ!赤羽ナイス!」

「うわぁぁぁ…いや、残り物には福があるんだ!大丈夫だ…」


 これってさ…クラスの半分を敵に回すんだよなぁ…。やだな…。


「よしっ、じゃあ赤羽どっちがいい?」

「じゃあ…先で」

「よしっ、引きに来いっ」


 差し出された手作りの割り箸の籤束から1本引き抜く…と、20。


「20です」

「分かった、番号の所に名前書けよ」


 …えぇっと…202020…っ!?

 ド真ん中…太陽、向日葵のタネの黄金比列、時計、全ての物に中心があり、それは全てを支える役目を担うことが多い…。


 つまり…僕はクラスのリーダーにならなきゃ駄目って事!?

 ※そんなことありません。


 むりむりむり!陰キャ専用の隅っこの席が…。


「何ボーッとしてんだ、さっさと書け」


 とぼとぼと自分の引き出しの中や、横に掛けてあったリュックを持って、20の席に行く。と、元々座っていた陽キャが立ち上がって、僕と席を早々に変わってくれた。





 あ~…僕はなんて不運なんだ…。真ん中の席なんて…もし中のいいグループに囲まれたらどうしよう。

 僕が邪魔柱になってしまう…。


「うわぁぁぁ!27かぁ…クッソ…席が変わってなければ…」

「34!34来い!」


 クラスが一際色めきだつ。はぁ…27…?僕の隣か…クラスのメインヒロインでも僕の隣に…っ!


「やぁ、カイ。よろしくぅ」

「…ミナ…てめぇ…」

「不正なんてしてないよ?まぁこれから夏休みまで、よろしく~」

「ねぇ!今なんて言った!?名前呼び!?クラリスさんの事!?」

「やべぇ…あいつ女たらしだ。陰キャのフリした肉食聖槍野郎だ…」


 …不名誉な事。ってなんで"名字"呼びだとそんな事いわれなきゃいけないんだよ!

 "名前"呼びしてる君らが女たらしじゃないか!何が『クラリスさん』だよっ。

 ミナ・クラリスなら"ミナ"を最初に呼ぶべきでしょ!何も間違っちゃいないよ!

 ミナが名字…。あ"…?


「あ…あの~さ?クラリスさん」

「おっ、なんだい?そんな改まって。求婚でもする気かい?」

「茶化さないで聞いてもらえる?…もしかしてアメリカって日本で言う下の名前が最初の名前?

 つまり…クラリスさんって日本で言う下の名前はミナ…さんって事?」

「…ふっ…」


 恐る恐る聞く。と、ミナは口角を上げて息を漏らした。


「ふふふふふっ、ふははははっ、あははははっ!カイは何言ってるんだ?当然だろっ?

 あはははははっ…あ~お腹痛い…」


 爆笑してお腹を抱える。そして低い声で、『お腹いたい』そう呟いたのがクラスを、特に女子を色めかせた。


「日本らしく言うなら僕の名前はクラリス・ミナ、だよ?

 ファミリーネームがクラリス。ファーストネームがミナ。

 それも知らずにミナミナって呼んでたのかい?」


 …血の気が失せるのが自分でも分かった。なんてことだ…。


「く、クラリス!てめぇぇぇ!」

「あらら、ミナ、って呼んでくれないのかい?呼んでくれないなら…仕方が無い。

 僕は君の事をこのクラスのカースト最下位まで落とすことだって出来るんだぜ?」

「…」


 クラスの…カースト?

 ※クラスのカーストとは!名の通りカーストである!…が、しかし…。

 陰キャはそのカーストにすら入らないことでその地位を獲得してきた。クラスの一員ではない、別の部類として、他者からの干渉を許さない、ある意味最強な地位なのである!


 だけど僕は…ミナに逆らうと、そのカーストの一員になってしまうかもしれない。

 そしたら虐められる…。


「ミナ…さん…」

「ダメダメ、ミナって呼び捨てにしてよ」


 ニヤニヤ笑っている。凄く憎たらしい。

 けど、従うしかない。


「…ミナ…」

「うむよろしい。じゃあ改めて、よろしく、カイ」

「…うん…よろしく…み、ミナ…」


 恥ずかしい。

 ミナは意地悪く、一日中顔を覗き込んできた。そして、目が合うとふふっ、と笑った。

 いや、嗤われてるのかな?




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