第1部 【春夏の光】
序章
第1話 ぁ…あああ呆れるよ!///
「へへん、これで僕の勝ちだね」
「ちょっ…待った…」
「おっとぉ?待ったの皇子様発動かい?」
その聞き飽きた称号にはがっくりと首を項垂れるしかない。
本当の事なんだから。
始業式が終わって、二年になってもすぐ、僕等は遊んでいた。
「…いや、待ったしても負ける局面だからもういいっ!負けましたっ」
「へぇ~。そ、ありがとうございました。じゃあ次は何する?」
僕が目の前の将棋の盤を片付けていると、ボードゲームの箱を取り出して眺め始める…。
なんとかして勝つゲームを…必勝ゲームを…。
そうだっ!
思いついたゲームをよく考えず、すぐ叫んでしまうのが僕の悪いクセだ。
「21ゲームやろう!」
「僕後手で、やらせてもらうね」
「酷いっ!じゃんけんで先後は決めよ…う…」
…自分の失言に気付く。なぜなら…。
「そぉ~お?じゃあジャ~ンケ~ン…」
「ぽ、ポンッ!」
…僕がグーで、目に映るのはパー。負けだ…。そろそろ負けた回数四桁超えたかな…?
「じゃあそっちからどうぞ?」
「…1,3…」
「そういう負けが分かってても騙して粘るところ嫌いじゃないよ?4」
「…5,6,5,4…」
「はぁ…あのねぇ。だからといってルール違反はよくないよ?負けず嫌いな子はメッ」
「…だって…」
僕ですら必勝法を知っているレベルなのに…普通に勝負したら、しかも先手盤で…勝てる訳がない。
「ねぇカイ、好きだよ」
「っ!…はいはいっ、もう騙されないよっ!人としてか霊長類としてかでしょっ、僕もす…っ、何でも無いっ!」
「あ、可愛い~。言い返そうと思って出来てない~」
「もう帰るっ!てか今日昼ご飯家で食べるんだった!マジで急がなきゃ!琉生に殺される!」
「あ、ちょっと待ちなよ」
「なにっ?」
「そ…その…今年も…よろしく…」
少し顔を赤らめつつ差し出された手を、僕は握り返した。
決め台詞か真面目な時の一人称は『俺』にする。
その約束がちょっとくすぐったい。
「あぁ、俺からも、よろしく。ミナ」
入学して初めてのGW…の前。クラスの隅で本を読んでいたら、話しかけられた。
その彼女の名前は…ミナ・クラリス。そのくせ黒目黒髪。
日本人とアメリカ人のハーフ。ホントは日本人名があるらしいんだけど、日本の方の名前は誰も知らない。
「僕と一緒に遊ぼうよ。これ、入らない?」
そう言いながら机の上に置かれたのは紙。
『社会不適合者同好会』…皮肉か?オイ。
同好会を入学一ヶ月で立ち上げるミナの行動力には、当時こそ感心してたけど今じゃほとほと呆れる。
入学早々、異彩を放って囲まれていた彼女…?に興味を一切示さなかったのが気に入られたみたいだ。
興味はあったけど表に出すと失礼かな?って思って興味ないフリしてただけなんだけど…。
「ふぅ~あちぃね。幸いにしてもコンセントはあるからいろいろ改造しちゃおっか」
初めて部室に入った瞬間、いきなりミナがそう言った。
部室…というか、部活の物置の方が正しいかな。部屋はすっからかんでテニスボールが二個転がっていた。
「へ?」
「いや、これから夏だよ?クーラーとか必要でしょ?」
このコンクリート打ちっぱなしの埃まみれの部屋に何を求めるんだ?
そんな僕の困惑をよそに、ミナはホースを引っ張ってきた。その元は…水道!?
「えっ、ちょっ!」
「じゃっ、ほーすいっ!」
「何やってるの!?」
「水掃除だよ?君の目は節穴かい?あははっ」
ミナの笑みが狂気的に見えた。
そしてミナは笑いながら部屋の中にいきなり水をぶちまけ出す。
ハッとコンセントを見ると、用意周到にちゃんとガムテープで厳重に保護していた。
「って、そこじゃない!そんな事していいの!?」
「いいのいいの。どうせ誰も使ってないし、これから僕等の部屋になる訳だ」
「そして有無を言わさずついてこさせられた僕の入会するか否かの答えは先に決まってるんだね」
「アレ?入らないのかい?…となると…また別の相棒となる人を探さないといけないねぇ…」
「いやっ、入るっ。僕入会する!」
胸の中に生まれた焦りはなんだ?こいつのすることを見てみたい?とか何馬鹿な事を僕は考えてるんだ。
「そ、それならよかった。じゃ、今度は洗剤ぶちまけるからはい。これ、テキトウに半分ぐらいまで使って。で、これで拭き掃除しようか」
渡されたそれは…お風呂掃除用の洗剤。一体何が始まるんだ…。
『え~、現在、午後6時を持って、全部活動の終了とする。校内に残っている生徒は速やかに片付けをし、6時半までに完全下校をするように』
そんな気の抜けた放送がブツッ、と途切れる。
…夕日が眩しくて、吹いた風が、びしょ濡れの僕等を冷やした。
「いや~。これでかなり綺麗になったね。びっしょびしょだけどね。寒いね…うぅ…」
「…っ…///…その…さ…こ、これ…着ていいから…」
ミナの服が透けて…西日が眩しすぎて見えにくいが、輪郭が少し見える。
目のやり場に困って、手摺りに掛けていたジャージを渡した。ミナが一瞬固まって、自分を見下ろして、ジャージを引ったくった。
「…っ!…///…と、とんだ!へっ、変態さんだなっ。君は!ぁ…あ、あああ呆れるよ!」
「貸してやったんだからいいでしょ!煩いっ!」
「つ~っ!明日洗って返すからっ、カイ!明日は着替えを持ってくるように!」
ミナもやっぱり恥ずかしいのか、ジャージで胸前を隠しながら叫んだ。
勝手にニックネームで呼ばれていることは気にしない。
「それじゃあ帰るよっ!」
そんな…忙しすぎる出会いだったのを、よく記憶している。
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