第6話 ラブレターが送らレター
「おかえりー、どうやら勝ってきたみたいだね。顔を見ればわかるよ」
もといた公園で、花香さんからそう話しかけられる。花香さんの傍には食べ終わったカップ麺がいくつも積み重なっていた。いったい何杯食べたんだろう?
「花香さん、質問なんですけど、人をゆるキャラにする変能力者とか、あるいはそういったステージとか知ってますか?」
「ゆるキャラ?自身の体を変化させる変能とかは知ってるけど、ゆるキャラかぁ、うーん。能力にもステージにも心当たりはないなぁ」
ランカーの花香さんでも知らないのか、あるいは知ってて隠してるかも知れないが、花香さんに限ってそんなことはしないと信じたい。
「そういや翔ちゃん、高校どこ?」
「この近くの空山高校ですけど……花香さんもしかして卒業生だったり?」
「うん、あと従姉妹の子がそこに通ってるから、会ったら仲良くしてあげてねー」
……同じ高校に花香さんの従姉妹がいるのか。同じクラスに大和田姓の人はいないが、従姉妹なら姓は違うってこともあるか。もしかしてその子も『ぽンヌるぶカ・げーむ』の参加者だったり?
「花香さん、帰りの準備ができたのでいきましょう」
マイモアさんが空間に穴を開けながら言う。そういや花香さんは別のところからこの公園に来たんだった。花香さんがアイモアに呼ばれて帰ろうとする。そのまえに俺は花香さんに疑問を一つぶつけた。
「そういや、先ほどの対戦者とはここの現実世界で顔を合わせていないんですけど、『ぽンヌるぶカ・げーむ』内で顔を合わせてもいいのに、花香さんはなんでわざわざ俺のいる公園までマイモアさんに連れてきてもらったんです?」
「……実はねー。君の顔、私すでに知ってたんだよね」
花香さんの言葉を聞いて俺の体がわずかにこわばる。それはどういうことだろうか、まさか花香さんも霧吹きジャックさんのように親父のげーむ仲間なのか?あるいは、親父をゆるキャラに変えたプレイヤーの可能性も。
「そこでアイモアから君の顔を見せてもらった時に、直接会って君の性格やらなんやらを知りたいと思ってね。でも君の真摯さやひたむきさが知れて一安心ってとこかな」
「あの、なんで俺の顔を知って」
「あーーーーーー!!!!いけない!ラーメンが伸びちゃう!それじゃあね翔ちゃん!」
そういって花香さんはマイモアさんと共に消えてしまった。結局なんで俺の顔を知っていたんだろうか。俺も荷物をまとめて家に帰ろうと立ち上がる、すると俺の服の裾を誰かが引っ張った。
「……もしかしてミイモアさん?」
「は、はい。あの、なにか体調が悪いなんてことはありますか?げーむ内で切断された部分が痺れたり、部位破壊をみて気分が悪くなったりといった事例が過去にありましてですね。げーむ中の状態異常はげーむが終わり次第治るんですけど」
「いえ、大丈夫ですよ。なんともありません。心配していただきありがとうございます」
「それならよかったです!痺れてる部位があったらマッサージをして差し上げようかと思ってたんですが」
「あーーーーーー!!!!痛い!爆発したからかなーーーー!!!全身が痛く感じる!!!!!!!」
「ええ!?それは大変です!マッサージするのですぐそこのベンチに寝っ転がってください!」
すみません。嘘ついてすみません。心の中で謝りながらベンチに仰向けに寝転がる。でもしょうがないじゃない。ミイモアさんみたいな美人にマッサージしてもらえるチャンスなんだから。
「ところでミイモアさん、マッサージはどんな?」
「指圧マッサージです!大丈夫!ジョーカーさんの今感じている痛みと比べたら微々たるものですよ!」
「……え?」
青空の下に、俺の絶叫がこだました。
*
「ただいまー」
家に帰って玄関を開ける。親父のゆるキャラ化が『ぽンヌるぶカ・げーむ』にあったと、親父自身の口から尋ねたい。
「おかえりー、また公園でダジャレ作り?」
帰ってきた俺をすみれ母さんが出迎えた。ゆるキャラ化して帰ってきた父を大笑いして受け入れた豪胆なひとだ。
「うん、それで父さん今日はいつ帰って」
「父さんねー、急に出張が入ったみたいで長いこと家に帰れないんだって、まああの体だから営業に役立つのかも」
まさか、タイミングがぴったり過ぎる。俺はすぐに自室に駆け込むと父さんに電話をかけた。数コールの後、父が電話にでた。
「電話にでんわ、なんてベタなダジャレは言わせねぇから安心しな」
「父さん!なんで急に出張なんて!」
「察しのいいお前だから手短かにつたえるぜ。俺はこれから自分のゆるキャラ化を治しにまたげーむに参加することにした。お前は俺のことは気にせず優勝目指して頑張りな。自分の尻は自分でふく」
「なるほど……
「最後に、同好会には気をつけな」
「えっ?なに?同好会?」
その詳細を訪ねようとした途端、電話は切られてしまった。
「まさか同好会とやらが親父にどうこうしたってことかい?まあどうだろうと俺は自分が後悔しない道をいくだけさ」
*
休みが明けて、俺は学校へ登校する。花香さんが言うにはこの空山高校に花香さんの従姉妹がいるらしい。そういやこの学校にも変能力者はいるのだろうか。そんなことを考えつつ自らの下駄箱を開ける。すると。
入っていたのだ。男なら誰もが夢見る、アレが。
「ここここここここここここれはララララブレター!?」
ろれちゅが完全に回りゃなくなりゅ。
とりあえず封を開けて中を覗き、文章を確認する。するとこのような文章が書かれていた。
「武田翔太郎様へ とても大切な話があります。よろしければ放課後体育館裏へお越し下さい」
誰からの手紙なのかはわからなかった。もしかしたらイタズラかもしれない。だが行くしかないだろう、男として。一人の人間として。
*
「
「先生、ではそれを用いた例文は『
「は、はははっ。まあ、そうなるね」
英語教師の乾いた笑いが教室に響く、ある生徒は苦笑いを浮かべ、またある生徒は面白い面白いと囃し立て、別の生徒は共感性羞恥を感じているのか耳まで赤く染めながら机に突っ伏している。そして当人はというと、言ってやったとしたり顔をしながらノートを取っていたのだ。
昼休み、俺は理科辞典を片手に弁当を頬張っていた。勉強しているのかというとちょっと違う、ダジャレのネタを集めるためだ。語彙を豊富にすればするほど考えつくダジャレの数は多くなる。
「武田くんなに読んでるの〜?」
ギャルっぽい雰囲気のクラスメイトの女子が話しかけてきた。たしかこの人はあかりさんだったか、自分は社交的な部類ではないのでどのように言葉を返せばいいのかわからない。
「ええと、これは主に化学の法則とかをまとめた本で、今読んでるページはネルンストの式っていう電極の電位を表す式を解説してるもので」
「ふ〜ん、なんか難しそうだね。そういや美亜、今日もお弁当お餅なの?」
あまり興味をもってもらえなかったようで、すぐに話題は別のものに移り変わった。今度は大人しめなクラスメイトの弁当の中身の話題になっている。
「え?ダメかな?私お餅大好きなんだけど」
「いやいやさすがに毎日お餅って。武田くんはどう思う?」
うわ、急にこっちに話題振らないでほしい。返答に困る。
「お餅も米の一種には変わりないので、まあ毎日おにぎり食べてると捉えれば、そんなにおかしくはないかと」
「お!美亜!武田くんは毎日お餅でもアリなんだって〜」
あかりさんが美亜さんを茶化すように言う。いじめとかじゃないよな?と美亜さんの方に目を向けると、ふと美亜さんと目があった。しかしすぐ目を逸らされた。そ、そこまで嫌がらなくても。
「美亜の従姉妹も偏食家だったよね。毎日三食カップ麺だっけ?」
……なんだって?
「う、うん。体に悪いよーって言ってもいっつもカップ麺食べてるんだよね。あと何故かそのカップ麺にチャーシューとか入ってなかったりするし、この前遊びに行ったらスープすらない麺をすすってたよ。ほんと偏食家だよねー」
「いやいや美亜も人のこと言えないでしょ!」
まさか、こんな近くにいたなんて、毎日三食カップ麺食べる人は俺の知る限り一人しかいない。美亜さん、辻本美亜さんが、大和田花香さんの従姉妹だ。
*
放課後、俺はラブレターをもって体育館裏へと足を運んだ。だが俺の予想する限りではこれはラブレターではない。そしてこの手紙を俺に出した人物も予想がつく。
「あっ、武田くん!は、早かったね!」
「ラブレターを貰っておいて、時間に
「……ぶっ!……ぷふふ、ぷふっ!」
え?今ので笑うの?沸点の低さに動揺しつつも気を取り直して彼女に向かい合う。
俺にラブレターを送った相手、それは、大和田花香の従姉妹にして、
「武田くん!私、あなたに大切な話があるの!」
俺のクラスメイト、お餅大好き辻本美亜さんだった。
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