第3話 彼の名はジョーカー

「能力名は……『凍るど冗句コールド・ジョーク』」


 俺は彼女に向かって能力名を宣言する。すると彼女は口角を釣り上げて俺の顔をジッと見つめた。


「チュートリアルだから適当にやって終わらせようと思ってたんだけど、君の力も見たくなってきちゃったな」

「ええ、見せますよ俺の実力、だから花香さんも見せてください」

「それじゃあ……ホイッ!見せた!」


 ?俺は真正面に目を凝らす。すると、空中にかやくが同時にも投げられていた。


「んなっ!?」


『おおっと!これは花香選手の手品投擲マジックスローだ!』

『相手に気づかせずかやくを投げる技ですね。手品の本をいっぱい読んで身に着けたそうですよ』


 いったいいつ投げられたのか、まったくわからなかった。しかも爆弾は三つ、両手を使って凍らせても一つは爆発してしまう。口でくわえるか?いやそれではダジャレを言えなくなってしまう。


 ならば。


「利き手のー!」


 まず右腕でかやくを一つ握る。そして残りの二つは……


「左手も使うのー!」


 左手の甲で触れながらかやくを弾き飛ばす。そして弾いたかやくをもう一つのかやくにぶつける!そして叫ぶ!


「俺の手を傷つけるのはやめ!」


 すると、二つのかやくは一緒になって凍り始めた。


「しゃあ!」


『翔選手、ナイスプレーで爆弾を回避しました!』

凍るど冗句コールド・ジョークの特性が新たに判明しましたね。凍ったものが凍ってないものに触れたときに、またダジャレを言えば直接触れていなくても凍らせられるみたいです』


 へーそうなんだ。自分でやっておいてなんだが自分も知らなかった。この能力はまだ研究の余地がありそうだ。


「なるほど……翔ちゃんの肉体と、変能で凍ったものが能力の効果範囲になるんだね、近づかなければ安全かと思ったけど、認識を改めたほうがよさそうだ」


 たしかに今握っているかやくをぶつければ、彼女に近づかずに凍らせることができる。勝利の目が見えてきた。


「だから私も……を使うね」


 すると彼女は開封したカップ麺から粉末スープを取り出した。そして次々に切り開いていく。


「これをやるとQOR(クオリティ・オブ・ラーメン)が下がるから嫌なんだけど……君が本気でぶつかってくるなら私も本気で答えないとね」


『これは!みんな大好きなが見られそうです!』

『いうほどみんな好きですかね?』


 アレ?アレってなんだ?そう考えていると花香さんが粉末スープの中身を一気にぶちまけた。あたり一面をが包み込む。


「……まさか!」

「形ないものを凍らせることはできないでしょ?」


 花香さんが小さなネギのかやくを指ではじいて、舞い散る粉の中に投げ入れる。


「点火」


 その言葉と共に、


 ──粉末スープが爆炎へと変わった。


「これは、ふ……粉塵爆発!」


『出ました!具だけでなくスープまで犠牲にして繰り出す花香選手の必殺技!』

『このために液体スープのカップ麺を買うのを我慢しているそうです』


 目の前の危機に対し、再度、時間の流れが遅く感じる。規模は違うがダジャレを考えているときの思考と同じだ、脳内のネットワークをつなぎ合わせて、求める答えを見つけ出す。考えるんだ。この状況を覆す一手を。


 そのときふと思いつく。俺は凍らせたものを、再び解凍させることはできるのか?両手には花香さんの投げたかやく、そのかやくは爆発する寸前であった。ならば。


「これが俺の……だ!」


 迫りくる猛火に右手のかやくを投げつける。そして炎の寸前でさせる。すると起こるのは当然、


 爆発だ。


「うぐぅうううううううううう!!!!!!!!!」


 衝撃波が全身を襲う。痛みは感じないが自分の耐力がゴリゴリ削られていく感覚がする。大ダメージだ。だがその代わりに、爆破が。そしてその先には、驚いてこちらを見つめる花香さんの姿が見えた。


『どういうことでしょうか!?翔選手、ボロボロになりながらもいまだ健在だー!』

『これは……爆風消火!翔選手は花香選手のかやくを利用し、爆風で粉塵ごと炎を吹き飛ばしたようです!』

 

 なんとか、攻撃をいなすことはできた。あとはいかにして攻めていくかだが……


「すごいなぁ、まさか私のとっておきを、それも私の変能を利用して退けるなんて、アイモアが言ってた素質あるってのは本当だったみたいだ。でもその体じゃあもう戦えないんじゃないかな。いろんな部分の耐力がないでしょ」


 たしかに、もう自力で体を動かすことはできない。。だが俺には、最後の手段が残されている!


「見ててください花香さん!これが武田翔太郎の……タイムです!」


 そして、俺は『凍るど冗句コールド・ジョーク』で凍らせる。俺の胴体を中心に放射状に凍りついていく。


『おや?翔選手、なぜか自分の体を凍らせ始めました』

『お前の技では死なん!みたいなやつでしょうか』


 実況解説の二人は気づいていないようだ。花香さんは俺の意図に気づいたのか、後ろ向きに飛んでその場から離れ始めた。だけどもう遅い。


 俺はまだ凍り付いていない左手を、花香さんの対角上に位置させると、握り締めていたかやくを解凍させた。


「うおらああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


 爆発と共に俺の体が飛んで行く、耐力0の肉体を凍らせてむりやり繋ぎとめる。脳と心臓の部位の耐力がなくならない限りは負けにならないようだ。俺の体は弾丸と化し、すさまじい速さで花香さんに向かっていく。


「花香さんのかやく!に立ちますねぇ!」

「……ギャグだね!」


 俺の右肩が、花香さんのお腹に激突した。


 *



「いやぁ~翔君!『ぽンヌるぶカ・げーむ』初勝利おめでとう!さすが私のみこんだ男!」

「チュートリアルの試合でランカー相手に勝つなんて、いやぁ初めてみました。ていうかチュートリアルはレート変動がないので、適当にやって新人が降参サレンダーして終わっていくんですけどね」


「……え!?あの試合勝っても負けてもなにもないんですか!?」


 試合が終わり、俺たちは元居た公園に戻された。爆発したり、凍りついたりいろいろ起こったが、こちらに戻ると何事もなかったかのように健康体になっている。だが、あの世界で消費したモノは無くなるようで、花香さんがかやくもスープもない麺だけの容器を持ってうなだれていた。


「私としては翔ちゃんの勝ちっぷりが見事だったからなにかプレゼントをあげたいんだけどね~」


 今回の試合は、俺の勝ちとして終わったが、俺自身はあの勝利は花香さんにものだととらえている。


 激突した直後、花香さんのお腹から徐々に凍り付いていき、全身が凍るのは時間の問題であった。しかし、俺の耐力の減りも酷く、先に俺が負けるのが明白だったのだ。しかし、


「このままただ凍り付いていくのは、かな」


 と、口に含んであったチャーシューを見せながら自爆したのである。「お前の技では死なん!」とか言いながら。最悪でも口の中のかやくによる自爆で相打ちにまで持っていけたというのだから恐ろしい。


「花香さん」

「ん?」

「次の勝負でも、俺が勝ちますよ」


 今度は、花香さんの手加減なしで。


「言うねぇ、


 花香さんは不敵な笑みを浮かべながら返した。……ん?ジョーカー?


「あの、ジョーカーって?俺のことですか?」

「プレイヤーネームだよ、私の爆妃ダイナマイトエンプレスみたいにね。『凍るど冗句コールド・ジョーク』を使うからジョーカー、どう?」

「自分で言うのは気恥ずかしく感じますが……いいと思います!ありがとうございます!」


 なんだかカッコイイ名前を貰ってしまった。これからの『ぽンヌるぶカ・げーむ』へのモチベーションがすごく高まった。これが花香さんのプレゼントということだろうか。


「ところで、翔さんに渡したいものがあります」


 そういってマイモアさんが俺にスマホのようなものを渡してきた。ていうかほぼスマホだ。


「これは『ぽンヌるぶカ・げーむ』に参加する際に使うデバイスです。他にもプレイヤー同士の交流やレートの確認などにも利用できます」

「あ、フレンド申請しておくねー」


 花香さんがデバイスを操作して俺にフレンド申請をしてくれた。『爆妃』という名のアカウントが表示されている。なるほど、これがプレイヤーネームか。ジョーカーって名前を貰っておいてなんだけど他の人に見られたらこいつすげぇ中二病だなって思われそう。花香さんのプレイヤーネームは誰かに名付けてもらったのだろうか、それとも自分で……?


 フレンド承認をして、他の機能も確認しようとしたその時、ブルブルっと、デバイスが振動し、通知欄にメッセージが表示された。それを見て、俺は武者震いする。まさかこんなに早く来るとは。


「いやー、翔君の本番が楽しみだねー。今回の試合なんてワクワクドキドキしたもん!」

「アイモア様、その願い、案外早く叶いそうですよ」


 俺は自分のデバイスの表示を周りに見せる。



『霧吹きジャックさんが対戦を希望しています』



 ジョーカーとしてのデビュー戦が、始まる。


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