第2話 コールド・ジョーク
俺の目の前でカップ麺のかやくが爆発した。ダジャレじゃあない。現実だ。その証拠に、爆発の閃光と衝撃は、とっさに掲げた俺の右腕を吹き飛ばしてしまっていた。
「ぐっ!いったあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!……くはないわこれ」
痛みはまったくなかった。アドレナリンとかそういうのが分泌されてるのかなとも思ったが、吹き飛んだ腕の先からも、血ではなく白いモヤがでている。もしかしてこれが『ぽンヌるぶカ・げーむ』の特徴なのか?
「そう、この『ぽンヌるぶカ・げーむ』では誰も傷つくことはない。その代わり、各部位に『耐力』というものが設定されていて、それがなくなると君の右腕みたいに使えなくなるんだ」
俺の心を読んだかのように花香さんが答えた。
痛みはないといっても消えてしまった自分の右腕を見るのは精神的にクルものがある。そう思っていると、背後から誰かが俺の裾を引っ張ってきた。
「な、なんだぁ!?」
驚きながら振り向くと、アイモア、マイモアに似た容姿の少女がオドオドしながら救急箱をもって佇んでいた。背はアイモアより高く、マイモアより低い。だが胸が、胸が他二人よりも二回りほど大きかった。
胸が二回りほど大きかった。
「あ、あの、私、ユーモア三姉妹、末っ子のミイモアといいます。あの……これを」
アイモア様長女なのに一番背が低いのか……と思っていた俺にミイモアさんが何かを手渡してきた。
「これ……絆創膏?」
「はい、初参加の方にはバンドエイドを無償で提供してるんです」
「そのリバテープ、なくなった右腕にはってみて!」
呼称を統一しろよ!と思いながら半信半疑でモヤの漂う断面に張り付ける。するとなんということでしょう。吹き飛んだ右腕が一瞬にして再生したじゃありませんか。
「な、治った!」
「ステージにはこのような耐力回復アイテムがおいてあることがあるのでぜひ活用してみてくださいね」
そういうとミイモアさんはどこかへ消えてしまった。『ぽンヌるぶカ・げーむ』について大体のことは理解できたように思う。ようはなんかゆるいバトルなんだな。
「それじゃあ」
背後から花香さんが楽しそうな声で話しかけてくる。
「仕切り直しと行こうか」
「うおおおおおおお!!!!!!!!!!」
危機を察知した俺は全力で近くの通路に飛び込んだ。その直後、煙と衝撃が元居た通路を覆いつくす。
やはり間違いない、彼女は『加薬』を
……もしかして『ぽンヌるぶカ・げーむ』ってこんな能力者しかいないの?
俺はさらに通路の奥まで進む。あのかやく爆弾の威力はかなり危険だ。というかカップ麺一つのコストで爆弾をつかえるとか、ギャグみたいな能力にしては凶悪すぎる。
そんなことを思っていると『
『さあ始まりましたぽンヌるぶカ・げーむ!実況は私アイモアが!』
『……解説は私マイモアがお送りします』
なにやってんだあの人ら。どこでやってるんだよ。ていうか見えてるのか?
『花香さんは
『いや、これチュートリアルですから、いつも通りランカーの方が勝って終わりでしょうよ』
……なるほど、これはチュートリアルだったのか、俺に『ぽンヌるぶカ・げーむ』のの概要や回復の仕方を教えるための。通りで花香さんが強いわけだ。新人が負けるのが当たり前なんだったら、別に、俺も、負けたって──
いいはずがない。
ランカーが相手だからなんだ。俺が新人だからなんだ。そんなものは勝ちをあきらめる理由にはならない。自分がもらったこの能力が、どこまで通用するのか試さずにはいられない。
「勝利の
俺はさらに迷路の奥へ進む。あの爆弾の威力に対抗するには回復アイテムが大量にいる。彼女の攻撃に耐えつつ、隙を見て『変能』で彼女を凍らせるしかない。彼女から逃げながら回復アイテムを探して……
そう思った時だった。迷宮が
「な、なんだ!?」
動く地面にふらつきながら辺りを見渡す。迷路がのたうつように動き回って形を変えていく。ステージが変化する。
そのとき、あれは移り変わっていった通路の先に信じられないものを見た。そんなバナナ、俺は彼女から離れていたはずだというのに。
「こーゆー情報アドバンテージもないから、余計に新人さんは勝てないんだよねー」
『爆妃』が、大和田花香が、俺の目の前に立っていた。
『おお!これは柔軟迷宮のステージギミックが働いたみたいだー!』
『あんまり逃げ回られると試合展開が冗長になるので時間がたつとプレイヤー同士を引き合わせるようになっているんですね』
「くっ!」
すぐさま辺りを見渡して爆発を回避できそうな通路を探す。だが一番近い側路でも避けるにはあまりに遠い。花香さんは流れるような動きでカップ麺のかやくをこちらに向けて投げつけてきた。
「さあ、チュートリアルは終わりにしようか!」
時間がまるで走馬灯のようにゆっくりと流れている。おかしなものだ、『ぽンヌるぶカ・げーむ』では爆弾で吹き飛ばされても死ぬわけではないのに。
花香さんがかやくを投げてすぐ後ろに飛んでいる。なるほど、自身も爆発に巻き込まれないようにしているのか、こうして花香さんの一挙手一投足を細かく見ると、すべてが洗練されていてさすがはトップランカーだと惚れ惚れする。やはり俺じゃあ勝てないのかもしれない。
……まて、なんの思考だ?これは、さっきから自分が負ける要因ばかりに着目している。そうじゃないだろ。今俺が考えるべきことは、ここからどうやって勝つか、それだけのはずだ。
頭を冷やして考えろ!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
そのとたん、俺は足を前へと踏み出していた。
『おおっと翔選手!逃げるのでなく前にでた!これはどういうことでしょうか!』
『逃げても逃げられないので、花香選手と距離を縮めて爆発させないようにという考えでしょうか。しかし花香選手は先んじて十分に距離を取っているようですが』
花香さんはきっと俺が逃げると考えて起爆時間を設定しているはずだ。だったら俺が前に出れば、起爆より先に──俺の手が触れる。
「ダジャレを言うのは……だれじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大声と共に、俺はかやくを左手で握り掴んだ。
そして大声の後に静寂が訪れる。爆発は──起こらなかった。
火薬は俺の手の中で、カチコチに凍り付いていた。
『おおっとー!翔選手爆発を防いだー!さすが私が素質を見抜いた男ー!』
『自分の手柄のように話すな!……コホン、爆弾を超低温にすることで起爆を防いだようですね。これは面白くなってきました』
「……なるほど、それが翔ちゃんの『変能』なわけね。ダジャレをトリガーとした冷却能力……!」
花香さんが心底楽しそうな顔で俺を見ている。自分の能力発動を封じられたというのに、これがトップランカーの心構えというヤツなのかもしれない。
「ねえ、その『変能』名前とかある?」
「ええ、アイモアさんにもらった時から温めてたんですよ。冷やす能力ですけど」
「へえ、聞かせて聞かせて?」
俺はスーっと息を吸う。どうせならカッコよく決めて言いたい。
「能力名は……『
『……寒!』
能力名まで、ダジャレだ。
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