こんな異能バトルで"いーのー"ですか!?
ヒトデマン
第1話 ぽンヌるぶカ・げーむ
「コーラを凍らす」
俺がそう呟くと、手に持っていた500mlペットボトルコーラの中身が急激に凍り始めた。
タネも仕掛けも見当たらない。コーラも近くの自販機で買ったものだ。
「うおお!?本当に凍った!すげぇ!」
「すごいでしょすごいでしょ!これが君に与えられた『
横で『アイモア・ユーモア』と名乗った異国風の服装の少女が自分と一緒に歓喜してくれている。彼女は褐色の肌と銀髪のポニーテールの容姿で、背丈は小学校高学年ほどである。
話は少し前に遡る。
*
「空がなんで青いかって?そらあおいからよ」
休日の昼間、俺、高校生の武田翔太郎は公園のベンチに座りながら、誰が聞くわけでもないのに下らないギャグを呟いていた。なんで公園にいるのかというと、公園なら誰も寒がらせることなくダジャレを連発できるからだ。家はとある事情で少し居づらい。
俺はダジャレが好きだ。この世ので一番ダジャレが好きな男だと自負するくらい好きだ。
だがこのダジャレを活かすことができるような仕事なんてこの世のどこにもない。お笑い芸人になってもこのダジャレで笑う人間などいないだろう。寒いギャグでクーラー代わりにはなるかもしれない。
「……まあ好きなものを仕事にしても嫌いになるだけとも言うしな」
そうやって自分に言い聞かせながらベンチから立つ。その時であった。
「誰が助けてー!ヘルプミー!ヘルプミー!」
声の聞こえる方を振り向く、なんと少女がたくさんのハトに襲われていたのだ。怒り狂うハトにつつかれながら、涙目の少女は逃げ回っている。
「嘘ぉ!?」
これまで生きてきてハトに襲われていた人間など見たことない。その光景に目を疑いながらも、少女に駆け寄って手でハトを追い払う。
「だ、大丈夫か?」
困惑しながら少女に話しかける。すると少女は涙目からキリッとした顔に表情を変えて呟いた。
「素質あるよ」
瞬間、視界を眩い光が覆った。視界が元に戻ると、凄まじくドヤ顔をした少女が自分を見つめていた。心なしか体が熱を帯びているような気がする。
「君の私を助けた勇気と度胸!力を持つにふさわしい!よって君に『
……いや、ハトから人を助けるのにそんな大仰な勇気は必要ないと思います。
*
そして今に至る。
「それにしてもいったい君はどういう存在なんだ?俺にこんな力を与えることが出来るなんて……宇宙人?神さま?人にその身に余る力を与えておいてその後破滅していく様を楽しむ存在?」
「最後の何それ……うーん。私たちは別次元の人間なんだけど……まあ神様みたいなもんかな?気軽にアイモア様と呼んでくれて構わないよ!」
アイモア様がそんなことをおっしゃられていると、
「あまり調子に乗ってると痛い目を見ますよ、姉さん」
と女性の声が響いた。
「うわ!マイモア!いたの?」
「いたの?……って『ぽンヌるぶカ・げーむ』に参加する人がいると聞いたから準備を済ませてきたんですよ!」
マイモアと呼ばれた女性は、背の高くスラッとした長髪であった。どこか抜けている感のあるアイモア様と比べて隙の無い印象を受ける。それよりも印象に残ったことが、
「え?姉さん?」
アイモアとマイモアの身長を見てそんな疑問を口にする。
「どうも、アイモアの妹のマイモアと申します。姉が迷惑をかけていませんでしたか?」
「かけてないし!ハトに襲われてるところを助けてもらっただけだし!」
「かけてるじゃないですか……おおかたハトのエサの味が気になって横取りしようとしてハトの怒りを買ったんでしょう?」
「ギクッ!」
ええ……襲われてたのってそれが原因なの……
とりあえずそれは置いておいて俺は聞きなれないもう一つの言葉について尋ねた。
「ところで『ぽんぬるぶか・げーむ』って?さっきも聞いたけどなんなんですかそれ?」
「……あ!説明してなかった!」
アイモア様が「テヘッ」という顔をする。マイモアさんは深くため息を吐いている。
……早くも様付けで呼びたくなくなってきた。
「そんなんだから姉として見られないんですよ。……説明しよう、『ぽンヌるぶカ・げーむ』とは『変能』を持つもの同士の試合のことです。シーズンの優勝者には、賞金10万円と副賞に電動自転車が与えられます。参加しますか?」
「しまぁす!」
10万円と電動自転車と聞いて即答してしまった。デスゲームものの報酬と比べるとショボくね?と思うが、高校生の身からするととっても魅力的な金額である。ところで戦いと聞いたが安全なものなのだろうか。
「それでは」
マイモアがパチンっと指を鳴らす。
すると、何もない所からいきなり女の人が現れた。茶髪で髪を伸ばしている。格好から見ると大学生くらいだろうか、両手の袋には大量のカップ麺が詰められていた。買い物帰りなのだろうか。
「その子が『ぽンヌるぶカ・げーむ』初参加の子?色々教えてあげるのはいいけど、私の『変能』だとチュートリアルにならずに終わっちゃうかもよ?」
「いいのいいの!この子は素質あるから!」
「ちょっ!」
勝手に決められてしまった。マイモアが何もないところから人を呼び出したところをみると彼女も常人ならざる力を持っているようだ。
そして俺の目の前に立つ女性も。
「名前」
「え?」
「名前、なんていうの?私は大和田花香、名前知らないと互いに困るでしょ?」
「あっ、俺は武田翔太郎って言います」
ダウナーな感じの女性だ。大和田さんって呼べばいいのだろうか。
「それじゃあ翔ちゃん」
いきなり距離を詰めてきた。え、何?俺も花ちゃんって呼んだ方がいいのか?
「覚悟はできてる?」
花香さんのその言葉とともに、世界が歪んだ。
「な……!?」
気が付くと辺り一面が白色の景色へと変わってしまっていた。さっきまで公園にいたはずなのに。様々な通路や階段が入り組んだ空間でさながら迷路のようだ。
「今回のステージは
花香さんはすでに見知っているようで動揺していない。
「こ、これは……?」
「これが『ぽンヌるぶカ・げーむ』だよ。今私たちは『
花香さんはそう言うと、いそいそと持っていたレジ袋からカップ麺を手に取り、蓋をあけて中の"かやく"を取り出した。
「そして……戦いはすでに始まっているんだよ。翔ちゃん」
花香さんはかやくを手に取ると、俺に向けて振りかぶって投げてきた。
そして──
かやくが目の前で爆発した。
この『ぽンヌるぶカ・げーむ』に、これまでの常識は通用しない。
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