4-2 崩れる想い

 ――こうして、翌日の放課後になった。


 CDのフラゲがそんなに嬉しいのか(でも、気持ちはわかる)、歌恋は妙にウキウキしていた。武蔵は、久々に部室へ向かわなくては、と思いつつも歌恋に話しかけてしまう。


「いくちゃん。今日は林檎ちゃんと帰るんだったか」

「そうですよ。昨日話したじゃないですかー。何だか、お友達と一緒にCDを買いに行けるなんて……。それだけでわくわくしちゃいます。えへへへーい」


 元々上機嫌だった歌恋は、話しかけるとますます笑顔が輝いた。こちらまで微笑ましい気持ちになってしまって、自分が気持ち悪い笑顔をしていないか不安になってしまう。

 とにかく、女子同士の友情を邪魔する訳にはいかない。

 武蔵は理人に目配せをして、教室を出ようとした。


「いくちゃん、帰ろっか」


 のだが、武蔵は動きを止める。

 視線の先には、いつものように歌恋に声をかける奏多の姿があった。歌恋と奏多はだいたい二人で下校している。だからこの光景は、ごくごく普通のもののはずだ。

 なのに武蔵は、胸に引っかかるものを覚えてしまう。


「あっ、今日はちょっと……。ごめんね、奏ちゃん」


 最近はこうして、誘いを断ることがある。と言うか、昨日もこうして断っていた記憶があった。しかし、奏多はだいたい察しが付いているようで、歌恋に用事があるとわかると「また明日ね」と遠慮気味に去っていくことが多かった、のだが。

 今日は何だか、雰囲気が違う。さっきの武蔵と歌恋の会話が聞こえていたのならば、わざわざ「帰ろっか」とは言わないはずだ。それに、


「そうだ、奏ちゃん! 来週なんだけ、ど……」

「…………」


 この、無言の圧力である。

 せっかく遊びに誘おうとした歌恋の言葉も途中で途切れてしまった。

 思わず、理人と顔を見合わせてしまう。理人の表情は、苦笑にすらなっていない程苦い顔をしていた。どうやら、理人も理人で勘付いているらしい。

 歌恋の決意は、もしかしたら少し遅かったかも知れない、ということに。


「ねぇ、話があるんだけど」

「……え?」


 冷たい口調に、鋭い視線。

 普段の明るい奏多からはかけ離れた態度に、歌恋は戸惑いを隠せないように固まる。首を傾げたり、「どうしたの?」と訊ねたりはしないことから、ただただショックを受けているのだとわかった。


「もう良いでしょ」


 歌恋の表情に動揺する素振りも見せず、奏多は腰に手を当てながら投げやりに吐き捨てる。一方的な言葉の連続に、歌恋は声も出ない様子だ。


「話し相手ならもういるみたいだし、あたしがいなくても良いんじゃないの?」


 ――やっぱり、そういうことか。


 武蔵は眉間にしわを寄せる。頭によぎるのは、昨日の歌恋の前向きな表情と、「真実を告げた的井くんや林檎ちゃんと過ごす日々は凄く楽しいんです! だから奏ちゃんにも言えばきっと……もっと楽しくなるはずです!」という言葉。

 でも、間に合わなかった。そう、歌恋も思っているかのように、歌恋は顔を強張らせる。見ていられない程、苦しそうな表情だ。


「な……何言ってるの、奏ちゃん!」

「何言ってるも何も、事実を言ってるだけだけど。呉崎くんと的井くん、あと呉崎くんの妹とも仲良いんでしょ? 全部、知ってるよ」

「そ、それは……そうだけど。でも、私は奏ちゃんのことも大切で……!」


 まっすぐ奏多を見つめる歌恋に、ずっと俯いて言葉を並べる奏多。対照的な二人は、会話をしているようでできていない。と言うか、奏多にはまったく会話をする気がないように見えた。

 困り果てる歌恋に、口を挟んで良いものかと悩む武蔵と理人。

 すると、奏多はまるで独り言のように歌恋を見ないまま、呟いた。


「だいたい、あたしには理解できないんだよねー。オタクって」

「……っ」


 静かに、歌恋の瞳が見開かれた。

 必死に反論していた言葉も途絶え、視線はやがて弱々しく床に落ちる。


 ――知っていたのか。


 と、武蔵も思った。それと同時に、武蔵は察する。二回目のデートの時のように、歌恋がオタクだと悟ってしまう瞬間が多々あったのだろう。


「気付いてないとでも思った? 勉強が趣味なんてありえないと思ってたし、普段の挙動不審な感じを見てたら気付くでしょ、普通」


 相変わらず冷たすぎる奏多の言葉に、武蔵はついつい声を挟みたくなってしまう。でも、苦笑する歌恋に見つめられてしまい、何も言うことができなかった。


「……ごめんね、奏ちゃん。…………今まで、本当のことが言えなくて」


 やっとの思いで零した言葉は、震えを帯びてしまっている。

 歌恋を助けたい気持ちはもちろんある。でも、だからと言って「いくちゃん、もう良いよ」と手を差し伸べることはできなかった。

 きっと今は、頑張らなきゃいけない時だと思うのだ。


「はあ……。もう良いよ」


 と思ったら、何故か奏多に「もう良いよ」と言われてしまった。しかし、武蔵が考えていたものとはニュアンスが違う。大きなため息付きで、突き放すような感覚だ。


「あたしも同じクラスの話し相手が欲しかっただけだし。あたしといくちゃんじゃ、本来は釣り合わなかったんだよ。オタクとかホント、意味わかんなくてさ。気持ち悪いとか思っちゃう……思うから」


 言い放ち、そっぽを向く奏多。

 歌恋が頑張らなきゃいけない時――とは思ったものの、いったい何をどう頑張れば良いというのだろう。一方的に突き放すだけで、歌恋の言葉をまともに聞こうとしない。こんな状態では何をどうすることもできない。

 もう、我慢の限界だった。黙って見ているだけなんてできない。

 武蔵は睨むようにして奏多を見て、口を開こうとする。


「さっきから聞いてれば……ふざけんな!」


 ……と、思ったのだが。どうやら、乱入者が現れたようだ。

 教室内には歌恋と奏多、そして黙って見ているだけだった武蔵と理人しかいなかった。と言うか、他のクラスメイトがいたらこんな話はできないだろう。

 でも、教室の外から耳を澄ませている人物がいたのだ。

 いったいいつから聞いていたのかはわからないが、その女子生徒は顔をリンゴのように真っ赤にさせながらズカズカと教室の中へ入ってくる。


「り、林檎ちゃん……」


 現れた女子生徒――林檎に、歌恋は複雑な表情を向ける。助けを求めているというよりも、情けなさを覚えているような顔に見えた。


「ごめん歌恋、盗み聞きしちゃって。でも、黙ってられなかったから」


 林檎は歌恋に向かって優しく微笑み、すぐに奏多を睨み付ける。


「ああ、呉崎くんの妹……。浮いてるって噂の一年生」

「……はああああっ?」


 するとあろうことか、奏多は嘲笑をしながら林檎を煽ってきた。林檎とはたまにすれ違うくらいで、会話をすること自体が初めてのはずなのに。

 奏多は誰にでも人懐っこくて、よく笑う明るい性格……のはずなのだ。今までクラスメイトとして過ごしてきて、悪態をつく姿なんて見たことがなかった。

 もしかして、こっちの方が本心なのではないか?

 そう考えてしまう程、今の奏多は壊れていると感じてしまう。


「ビジュアル的に目立つ割に一人で過ごしたがるし、演劇部も出たり出なかったりなんでしょ? あなた、今日は部活行かなくて良いの?」


 放課後のチャイムが鳴ってから、奏多はずっと刺々しい。むしろ、「いつもの京堂さんってどういう感じだったっけ?」と思ってしまう程、奏多の口調はブレなかった。


「それは、今日は歌恋との約束があったし……。ってゆーか、あたしの話は別に良いでしょ! だいたい、あんただってビジュアル的に目立ってんじゃん。ハーフツインなんてしちゃってさ。どーせ男子にちやほやされたいだけなんでしょ?」


 林檎も林檎で怒りモードが収まらないようだ。相手は一応先輩なのだが、気にする素振りなんてまったくなく、奏多を睨み付けている。


「へえぇ……。あたし、先輩なんだけどなー。あなたって度胸がある子なんだねぇ」


 ――と言うか、やばい。


 サイドテールとハーフツインテールの喧嘩が勃発してしまった。林檎の味方をしてあげたいとは思ったものの、正直「どっちもどっちだろ」という気持ちが芽生えてしまった。もちろん口には出さないが。

 結局、武蔵には割り込むどころか見ていることすらできず、二人から視線を逸らしてしまった。だいたい、この話に終着点は存在するのだろうか? ぐちゃぐちゃしてきて訳がわからなくなり、武蔵は心の中で頭を抱えてしまう。


「……ま、的井くん」


 すると、不意に歌恋と目が合った。


「大丈夫か?」


 ひっそりと、歌恋に訊ねてみる。林檎のことも気がかりだが、今は歌恋の心情が一番の心配事だった。歌恋は弱々しく頷いて、奏多と林檎を見据える。


「林檎ちゃん」

「え、あ……。うん……」


 歌恋は林檎に力なく微笑みかけ、奏多と対峙する。


「わからないよ。奏ちゃんが一方的すぎて、私の気持ち全然聞いくれないんだもん。だからどうしたら良いかわからない。……でもね」


 歌恋はじっと奏多を見つめる。

 翡翠色の瞳は、ブレずに奏多の姿を捉えていた。


「友達を悪く言うのはやめて」

「…………ああ、そう」


 歌恋の言葉は、こんな状況でもはっきりと言える程に本心だった。だからこそ、ようやく奏多の心に刺さったのかも知れない。

 俯き、力のない声を漏らす奏多は見ているだけで痛々しかった。もっとこう、上手くできないものかともどかしく思ってしまう。

 そんな顔をするくらいなら、もっとゆっくり話をすれば良かったのに。――なんて言葉は、理人とちゃんと衝突したことがないから言えることなのだろうか。

 どっちにしろ、今はもう足掻けないな、と思った。


「育田さん」

「…………何、奏ちゃん?」

「次会う時は、ただのクラスメイトだから」


 歌恋を「育田さん」と他人行儀な呼び方をしたかと思えば、そんな捨て台詞を言い放つ。奏多の瞳は揺らぐことなく、歌恋を捉えていた。

 まるで決別のような言葉だ。だからこそ、そこは揺らいで欲しかったという気持ちになってしまう。の、だが。


「奏ちゃ……っ」


 歌恋が呼び止める間もなく、奏多は駆け足で教室を出ていってしまった。歌恋が口を開いた途端に動き出した奏多に、武蔵は「逃げているみたいだな」ともやもやを感じてしまう。揺らいだ訳ではないが、中途半端な態度だ。結局のところ、奏多に心残りがあるのかないのか、よくわからないままだった。

 ただ一つ言えることは、


「……奏ちゃん……」


 全身の力が抜けたようにしゃがみ込んでしまった歌恋は、心残りがありまくっているということだ。


「いくちゃん、大丈夫……か?」


 武蔵は手を差し伸べながら、恐る恐る声をかける。歌恋もまた、恐る恐るといった様子で武蔵を見て、林檎を見て、理人を見て、まったく笑顔になっていない笑みを見せる。


「皆さん、ごめんなさい……。これは、私と奏ちゃんの問題で…………。皆さんを巻き込んでしまいました。……本当に、ごめんなさい」


 ゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げる歌恋。

 すると、林檎が不服そうに歌恋を睨んだ。


「それは……他人行儀な言い方だと思うんだけど。そんな顔するくらいなら、謝るより先にあたし達に頼って欲しかったって言うか……」


 林檎の目つきがだんだんと弱々しいものへと変わっていく。仲良くなったとはいえまだまだ遠慮があるのか、林檎の視線は宙へと浮いていった。


「でもこれは、私が悪いんです。だから皆さんを頼ったり甘えたりっていうのは、駄目だって思ってしまって」

「そ、そう……言われても」


 頑なな歌恋の態度に、林檎は困惑するように眉根を寄せてしまう。そして、助けを求めるように武蔵を見つめてきた。

 苦笑しながらも、武蔵は答える。


「俺はいくちゃんの力になりたい。また、いくちゃんと京堂さんが笑い合えるように。……駄目か?」


 言ってしまってから、「ちょっと恥ずかしいセリフだったか?」と後悔する。しかし歯の浮くようなセリフだと感じたのは武蔵だけじゃなかったらしく、林檎がぼそりと「そういうことをさらりと言えちゃうところなんだよなぁ」と呟いていた。更には理人が隣で「なるほどなー」とわかりやすく頷いていて、武蔵の顔は険しくなる。


(聞かなかったことにしよう)


 今はスルーするに限る。そんなことよりも今は、歌恋のことだ。


「駄目じゃないです、全然! ……ありがとうございます。大好きです」


 歌恋はようやく首を横に振ってくれた。潤んだ瞳を、まっすぐ武蔵に向けてくる。


「え」

「はぁ?」

「……ほほう」


 とにかく武蔵は、歌恋のことが心配で心配で仕方が……なかった、のだが。

 唐突に歌恋の口から飛び出した「大好きです」に、何もかもが吹き飛びそうになってしまった。と言うか、実際問題シリアスモードが薄れてしまった気がする。林檎は目を剥き、理人は興味深げに口元をつり上げている。武蔵はきっと、アホ面をしていることだろう。それくらい、呆気に取られてしまった。


「ちょっ、ちょっと歌恋! こんな弱ってるタイミングでその発言は……!」


 当然のように、林檎が焦りを露わにする。

 歌恋も歌恋で、林檎の言葉でようやくはっとしたようで、


「え? あ、いや、違いますよっ? 優しくしてくださっている皆さんが大好きってことで! 決して告白したつもりはっ」


 と、林檎以上にあたふたし始めてしまった。


「みなまで言うな! ……あーもうホント恐ろしい子だわ育田歌恋……」


 ついさっきとは違った意味で困惑した様子の林檎は、「ほんっとうに、もう!」と頭を掻きむしる。そして武蔵も林檎の気持ちがわかってしまうのだからタチが悪い。確かに深い意味はないとはいえさっきの「大好きです」にはグッときてしまった。力になりたいという気持ちに溢れていた今だからこそ、心に突き刺さってきたのだろう。

 本当に、林檎の言う通り歌恋は恐ろしい子だと思った。


「ほ、本当に違うんですよ? 計算とか全然してない……と言うか、心にそんな余裕なんてないんですよぉ! わかってください!」

「ふぅーん。何か必死すぎて怪しいなぁ」

「林檎ちゃんっ」


 困り顔の歌恋を楽しむように、林檎はニヤリと微笑む。さっきから怒ったり、心配したり、嫉妬(?)したり、からかったり。表情がこんなにもコロコロ変わる林檎を見るのは初めてな気がした。その相手は自分や理人じゃなくて「友達」の歌恋だと思うと、こっちまで何故かニヤニヤとした微笑ましい笑みを零してしまう。


「……くそ兄貴に変な目で見られてる気がする」

「あれ、おかしいな。武蔵も同じような顔をしてると思うんだけど?」

「的井先輩は良いの。どんな顔も林檎は大好きだから!」


 へへーんと威張りながら、張り合うように「大好き」を強調する林檎。しかし武蔵は心の中で謝った。林檎は結構な頻度で「大好き」と言ってきている。だから今更新鮮な反応はできず、


「はは……」


 と、微妙な笑みを漏らすことしかできなかったのだ。


「……歌恋との反応の差がえぐい……」


 林檎は心底残念そうに深いため息を吐く。そのまま教室の端っこで体育座りでもしてしまいそうな勢いだ。

 しかし、今はそんな状況ではないと気が付いたのだろう。


「歌恋。CD買いに行こっか」


 ――いや、そんな状況でもないだろう。


 思いもよらぬ林檎の発言に、歌恋のみならず武蔵と理人も首を傾げた。しかし林檎は真面目なようで、歌恋の翡翠色の瞳を見つめ続ける。


「……あたしは喧嘩するような友達なんていなかったから、よくわからない。でも、ここで悩み続けてても仕方ないと思う、から」


 言葉を探しながら、林檎はゆっくりと歌恋に伝える。


「あ……。確かに、そうですね。こんな時こそ、輝夜さんの曲に元気をもらいたいです。……だけど」


 歌恋は頷きながらも眉間にしわを寄せた。


「何だか……現実逃避をしているみたいで、その……」

「まぁ、そうだよな。いくちゃん的には一刻も早く解決させたいよな」

「……です、ね」


 武蔵の言葉に、歌恋は小さく頷く。

 歌恋の気持ちはもちろんわかる。あんな捨て台詞を言われて落ち着いていられるはずがない。でも、林檎の言う通りここで悩み続けても答えが出るかはわからないと思った。沈む心がますます沈んでしまう未来しか見えないのだ。


「とりあえず、林檎と育田さんはアニメショップに行ってきたらどうかな? どっちにしろ、一回気分を切り替えた方が良いと思うんだ」


 すると、さっきから顎に手を当てて悩んでいた理人がそんな提案をしてきた。確かに、理人の言う通りだ。早く解決させたい気持ちもあるが、一度頭をリフレッシュさせる必要がある。


「だったら、そのあとで集まるか。いくちゃん、理人と林檎ちゃんも。このあとの予定とか大丈夫か?」


 武蔵の問いかけに、歌恋と理人はすぐに頷いた。林檎も、「どうせ部活休んじゃったしー」と捻くれながらも了承する。武蔵も密かに「結局部活を休んじまうことになったな……」と心の中で苦笑した。


「ま、そういうことだ。いくちゃん、またあとでな」

「……はい」

「あー、ええっと……そうだな。これはいくちゃんのためだけじゃない。いくちゃんと京堂さんのために協力するんだ。……こう言えば、少しは気が楽になるか?」


 元気のない歌恋を見ていると、気が気じゃなくなってしまう。だからこうして、言葉を探して歌恋を安心させようとするのは、ある意味自分のためでもあるのだ。


「ああ、もう……心配かけてばっかりで、情けないですね。でも、ありがとうございます。私、頑張ります。奏ちゃんのためにも、諦めたくないですから!」


 両手をぎゅっと握り締めて、歌恋は気合いを入れるポーズをする。笑顔はまだ弱々しくて、無理をしているように見えてしまう。それでも武蔵は、歌恋が少しでも前を向いてくれたような気がした。


「行きましょう、林檎ちゃん」

「あっ、うん。……的井先輩、兄貴、またあとで」


 林檎は歌恋に制服の袖を引っ張られながら、教室を去っていく。武蔵は小さく手を振り、静かになった教室で理人と顔を見合わせる。


「何か、あれだな。理人も巻き込んじまって、悪いな」

「何言ってるの武蔵。林檎の友達の一大事なんだから、そりゃあ僕も協力するに決まってるでしょ?」

「……はは、相変わらずのシスコンだ」


 へらへらと笑っておどけてみせる理人に、武蔵は密かに安心感を覚える。冷静な振りをして、本当は不安が疼いているのだ。歌恋と奏多がああなってしまった理由はわかるけれど、あんな態度を取られてどう解決したら良いのか。

 武蔵にはわからなくて、頭を抱えてしまうのであった。

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