1-3 あの日の出来事
正直、歌恋の口から「フードコートのハンバーガー」というワードが飛び出した時、武蔵は心の底からありがたいと思っていた。
園内には展望タワーがあり、最上階にはレストランがある。ランチもやっているようなので、デートならそこへ行くべきなのかも知れない。しかしなんとなく、最上階のレストランなんて高校生にしては背伸びをしすぎな気もする。だから悩んでいたのだが、歌恋の提案は非常に助かった。
「あ、あの……。勢いでフードコートにしちゃったんですけど、もっとデートっぽいところの方が良かったですかね? 例えば、あそことか」
と思ったら、歌恋も武蔵と同じようなことを思っていたらしい。フードコートに辿り着くと、歌恋から恐る恐る訊ねられた。展望タワーを指差しながら苦笑する歌恋に、武蔵は勢いよく首を横に振る。
「い、いや! 俺はこっちの方が安心するって言うか……あっちだとますます緊張する気がする……から」
「あっ、ですよね。良かったぁ。じゃあ、食べましょうか。席は……いくつか空いてますね。えっと、私はハンバーガーにしますけど、的井さんは……」
訊ねられ、武蔵は一瞬頭にクエスチョンマークを浮かべる。
フードコートに来たとはいえ、武蔵も当たり前のようにハンバーガーを食べる気でいた。一応別の店にも目を通すが、やはり気分は変わらない。
とまぁ、色々と考えている振りをしているが。
「いやいや、最初から俺もハンバーガーにするつもりだったから。別々のものを食べるのも何か変な気がする。……と、いうのもあるんだが、育田さんが食べたいって言ってるハンバーガーだから、その、俺も気になるって言うか……」
結局はそういうことなのだ。自分で言っていて恥ずかしくなり、武蔵は目を伏せる。歌恋も歌恋で、「あっ」と小さな声を漏らしてから沈黙をしてしまう。
しばらくしてから気まずそうに「た、食べましょうか?」と訊かれ、ようやく二人はハンバーガー屋に向かう。その時武蔵は思わず、「これじゃまるでラブコメみたいだな」と他人ごとのように思うのであった。
武蔵はチキンバーガー、歌恋はチーズバーガーを注文し、二人がけの席に着く。なんとなく気まずい空気はまだ続いているようで、二人して無言で食べてしまう。
その時、武蔵は逆にチャンスだと思った。ずっと訊きたいと思っていて、訊けなかった言葉。向かい合ってゆっくりと食事をしていて、何か別の話題で盛り上がっている訳でもない。だから、言ってみるなら今なのだ。
「あー……っと。育田さん」
「はっ、はい。何ですか?」
「……何で、俺のことが気になったんですか?」
敬語になりながらも、武蔵は頑張って歌恋の瞳を見つめながら単刀直入に訊ねる。
歌恋は、一瞬だけ驚いたように目を大きくした。しかし、すぐに不思議そうに小首を傾げだす。まるで、「わからないんですか?」とでも言いたげな表情だ。
「的井さん。もしかして……」
呟きながら、歌恋は視線を逸らす。
その横顔はどこか寂しそうに見えて、武蔵は息を呑む。そして、まるで覚悟を決めたように歌恋をじっと見つめた。
「覚えてなかったり、しますか?」
歌恋は自信なさげに、虚空に向かって訊ねる。
その言葉で、武蔵はようやく諦めた。今までずっと、あの出来事だけを思い出さないようにしていた。あれを除いた歌恋との接点をずっと考えていた――のだが、やっぱり無理だったようだ。
「……ああ、覚えてるよ。一年前くらいだったか」
息を吐くように言葉を漏らすと、歌恋ははっとしたように顔を上げる。暖かい日差しの下、ハンバーガーのミートソースを口元に付けている――という無邪気な姿とは真逆と言って良い程の、シリアスな表情。潤んだ瞳。
「育田さん。口元……ソース」
「えっ? あああ、すみません……。色々とこう、あわあわしてしまって」
思わず指摘すると、歌恋は慌てて口元を拭う。「えへへへーい」とわざとらしく漏らして照れ笑いをしてから、じっと武蔵を見つめてくる。少し落ち着いたようだが、瞳は赤らんだままだ。
「懐かしいな。あれがもう一年前か」
「はい。あの、的井さん。お礼が遅くなってすみません。あの時は……本当に、ありがとうございました!」
急に声のボリュームを大きくしたからか、若干震えた声をしていた。武蔵は首を横に振りながらも、「きっと困ったような顔をしているんだろうな」と内心で思う。
だって、今まで逃げていたことに向き合わなければいけないのだから。
「いや。育田さんが無事で良かった。……と言うか、俺が大袈裟にしただけだから」
――あれは、今からちょうど一年前。高校一年の春のことだ。
放課後、武蔵は一人で帰っていた。武蔵の少し前を同じクラスの歌恋が歩いている。武蔵も歌恋も同じ電車通学だ。時々帰り道で遭遇するため、それは理解していた。でも話しかける程の仲でもないため、微妙な距離感で歩いている。
で、あの出来事が起こってしまう。
何故かはわからないが、歌恋が横断歩道を赤信号で渡ってしまったのだ。その瞬間、武蔵の鼓動は苦しく弾んだ。自分を止めることができなくて、歌恋の元へ駆け出した。歌恋の腕を引っ張るのと同時に、急停車したトラックのクラクションが響き渡る。幸いなことに、トラックは余裕のある距離で停車していた。しかしそんな問題ではなく「危ないだろう!」と運転手の男に吼えられ、トラックは去っていく。その後唖然としたような表情の歌恋と目が合うが、武蔵は逃げるようにして立ち去ってしまった。
あれから歌恋とその話題は、一度もしていない。
「私、あの時悩みながら下校をしてしまっていたんです。友達関係とか、色々……。でも、だからと言って信号無視なんてあってはならないんです。なのに、私は……」
「ああ、本当にヒヤヒヤさせられた。もうあんな経験はしなくない」
「え?」
相変わらず震えた声を漏らす歌恋に、冷たい言葉をぶつけてしまっただろうか。
でも、これは仕方のない話なのだ。
「言いづらいんだけどさ。俺……交通事故で母親を亡くしてるんだ。俺が小六の時に。あれから時間は経ったし寂しさはないと思っていたんだがな。育田さんが危ないってなった時、胸が苦しくてたまらなくなったんだ」
口にしてから、武蔵はやってしまったと思った。
確かに話の流れは一年前の真面目な話になっていた。だけど、物には順序がある。せっかくのデートだというのに、重い話をしてしまった。いくら思い出したくない記憶に触れたからと言って、感情的になりすぎたのだ。どんな顔をしたら良いのかわからないまま、武蔵はついつい視線を逸らしそうになってしまう。
「そうだったんですね」
でも、歌恋の瞳に困った様子は一切なかった。迷いのない視線が武蔵を突き刺し、離さない。まるで優しい光が降り注ぐみたいに、歌恋の言葉が耳に届いた。
「だから今まで……。思い出させてしまって、ごめんなさい。でも、話してくれてありがとうございます。私ずっと、あの時のことがきっかけで嫌われちゃってたらどうしようって思ってました。……へへ、違ってたんですね」
ただただ、困惑されると思っていた。
なのに、今歌恋は嬉しそうな声色を漏らしている。心の底から安心したような表情に、今度は武蔵がはっとなった。
(そうか。ずっと俺が逃げていたせいで、育田さんは俺に嫌われてたらどうしようって思い続けていたのか……)
悪いことをしてしまった。
だから謝らなくてはと思い、武蔵は口を動かそうとする。しかし、歌恋は「もうシリアスな空気は許しませんよ!」と言わんばかりのウキウキ顔だ。
「的井さん!」
「は、はい! な……何だ?」
「あの時のお礼を言うのが今日の目的でした。でも、実はもう一つ目的がありまして……」
言いながら、歌恋のバッグの中から何かを取り出す。それは縦長の箱状のもので、青いリボンで綺麗にラッピングされていた。その瞬間、武蔵は「あっ」と思わず声に出しそうになってしまう。
あれはどう見てもプレゼント用の箱だ。で、今日はデートの日でありASAnASAのライブの日であり――武蔵の誕生日でもある。
すぐに察することはできたが、まさか歌恋からその話題に触れられるとは思わなかった。心の準備ができていなくて、武蔵は再び自分がどんな表情をすれば良いのか迷ってしまう。でも、もちろん迷っている暇なんてない訳で、
「的井さん、お誕生日おめでとうございます!」
と、笑顔でプレゼントを差し出されてしまった。
「お、お、おう。ありがとう!」
とりあえず元気良く返事をしつつ、プレゼントを受け取る。
こういうのはすぐに開けるべきなのだろうか? わからなくて、渡されたものをじっと見つめてしまう。
「二年生になってクラスが変わって、また自己紹介があったじゃないですか。それで今日が誕生日だと知って、それで……そのぉ。決意を、したんです! 思い切ってデートに誘って、あの時のお礼を言ってプレゼントを渡すって!」
歌恋も歌恋で緊張しているのか、それとも武蔵の緊張が伝染したのか。
わかりやすく顔を真っ赤にさせながら、早口でまくし立てている。……と思ったら、大きな瞳をカッと見開いたまま動きを止めてしまった。
もしかしたら、と武蔵は思う。
歌恋も今、武蔵と同じ現象が起こっているのかも知れない。
どうしよう、どうしよう、と。訳もなく頭の中で繰り返してしまう困った現象だ。
「あ……のぅ……」
「……開けても良いか?」
「はっ! ですねですねっ。開けてください!」
悩んだ挙句よくあるセリフを投げかけると、歌恋は勢い良く頷く。
だから武蔵も「よ、よし開けるぞ」と言いながら慎重にラッピングを外していく。家族や友人からのプレゼントだと気にせずビリビリと破いてしまうのに、不思議なものだ。
「おぅ、これは……」
歌恋のプレゼントしてくれたものは、シンプルな黒いボールペンだった。異性からのプレゼントだとアクセサリーとかだろうか、と勝手に考えていたためなんとなく安心してしまう。普段はアクセサリーなんて付けないし、ボールペンなら学校で使うこともできる。素直に嬉しいと感じるプレゼントだった。
「早速学校で使うよ。ありがとうな」
「は、はい。それで、実は……ですね」
すると、歌恋は妙にそわそわしながらバッグの中を探る。出てきたのは赤いボールペンで、武蔵にプレゼントしたものと色違いのものだった。
「お揃いのボールペンなんて、あざといですかね?」
言ってから、歌恋は誤魔化すように小さく「えへへ、へーい」と漏らす。
まるでこちらの様子を窺っているように、上目遣いになりながら。歌恋は、じっと武蔵を見つめていた。
武蔵は咄嗟に、「確かにあざとい」と思ってしまう。
しかしこの瞬間、武蔵の心は大きく動いていた。
真面目なところとか、優しいところとか、動物を見ている時の無邪気な笑顔とか、照れると焦ってしまうところとか。……いやまぁ、照れると焦るのは武蔵も似たようなものだが。
とにかくこの数時間でたくさんのことを知れた。でも、まだまだ知らない部分も多い訳で、これから知っていけたら良いなと思う。
だから。――だからこそ。
この人には嘘を吐きたくないな、と思った。
「育田さん」
「えっ、あ……やっぱりお揃いなんて図々しかったですよね。ごめんなさい……」
「あー、そうじゃなくて」
歌恋を不安にさせてしまう程、真剣な表情――と言うか真顔になってしまっているだろうか。でもこれは仕方のないことなのだ。
こればっかりは、発言するのに勇気がいる。
「育田さんさえ良ければなんだが……。またこうやって会ってくれないか?」
勇気がいる、はずだったのに。
意外にもあっさりと言葉が零れ落ちていた。
でもこれは、今の武蔵の本心だ。もちろん歌恋のことをもっと知りたいというのもある。でもそれ以上に、ちゃんと向き合わなきゃいけないと思った。
オタクやイベンターに対して、歌恋がどう思っているかはわからない。拒否反応を示されたらどうしようという気持ちはある。でも隠したままでは前へ進めない。
だから、打ち明けるのだ。
今ではなく次のデートで、というところがヘタレているかも知れないが。
「あ、あの……的井さん」
歌恋は戸惑ったような様子だ。目を合わせては逸らし、合わせては逸らしの繰り返しで、見ているこっちが恥ずかしい。
「う……う、うう、嬉しい、です。ありがとうございます。まさか的井さんからそんなことを言ってくださるとは思わなくて」
「いや、その、ただの本心……と言うか。俺は恋愛とか特に興味なかったんだが、でも……今日育田さんと過ごしてみて、興味ないで済ませちゃいけないな、と思った」
――おうおうおうおう、これじゃあまるで本当の本当にラブコメみたいじゃねぇか!
と、武蔵は思わず心の中で叫んでいた。
自分の発言なのに、自分の発言とは思えない。自分はただのオタクでイベンターだ。だからある意味では充実しているが、一般的な「リア充」とはかけ離れた毎日を送っていたはず、なのに。自分自身に突っ込みを入れなゃやってられないくらい、恥ずかしいセリフが止まらないのだ。
「……い、いくちゃん」
「ふぇぃっ?」
突然あだ名で呼んだ武蔵に、歌恋は両手を広げて驚いた。
オーバーリアクションのようにも見えるが、仕方のない話だろう。武蔵は「そういう意味じゃないんだ」と言わんばかりに言葉を続ける。
「と、いつか呼べるような仲になれたら……と思う。いきなり付き合うとかそういうの、よくわからないから、さ」
言ってから、武蔵は目に留まった食べかけのハンバーガーを手に取り、慌てて頬張る。会話に必死で食べるのを忘れていた。というのもあるが、これ以上の恥ずかしい会話はダメージが大き過ぎる。だから食べて誤魔化したのだ。
歌恋も「冷めちゃいましたね」と笑いながらハンバーガーを食べ始める。
二人が食べ終わるまで、沈黙が続いた。
とりあえず席を立って続きのルートを巡ろう。このまま気まずい時間が流れるよりもそっちの方が良いだろう。うん、そうしようそれが良い。
と思ったその時、歌恋がそっと口を開く。
「私も、家族以外の男の人と出かけるの自体、初めてで……。だからゆっくり、よろしくお願いしますね」
言ってから、歌恋は深めのお辞儀をした。丁寧で純粋な歌恋の言葉に、武蔵の表情は自然と強張ってしまう。「もしかして、わかりやすい反応をしちゃったか?」と思った時にはもう、歌恋はジト目でこちらを見つめていた。
「もしかして的井さん……。今までの反応で勘違いをしていましたけど、デートの経験があるんです……か?」
「いや、ない! ないぞ!」
思い切り動揺しながら、武蔵は必死に弁解する。
実際問題デートは今日が初めてだ。ただ、たまにライブで連番をする女友達がいる。ただそれだけであって、あくまでイベンター仲間だ。恋愛感情はない。だから堂々とすべき、なのに。焦る気持ちが止まらない。
「異性の友達がいるってだけで、デートとかそんなのは全然!」
「異性の、友達?」
疑問符に溢れた歌恋の声色。武蔵には、「異性の友情なんて成立するの?」とでも言いたいように思えてしまう。
もう、言葉なんて選んでられないな、と思った。
「実は俺、ライブに行くのが趣味なんだよ。だからまぁ、友達って言うよりライブ仲間って言うか……!」
「え? ライブ……ですか?」
「そうそう、そうなんだよ。実は、言いづらいんだが今日もこのあとライブに参加する予定なんだ。同じクラスに呉崎理人っているだろ? そいつと一緒に」
早口で告げる武蔵に、歌恋は唖然としたように目をぱちくりさせる。
そして、何か思い悩んでいるように眉間にしわを寄せた。やはり、デートの日にライブに行くなんて非常識だっただろうか。
いくら焦ったとはいえ正直に言い過ぎた。でも言ってしまったものは仕方ない。武蔵は正直に頭を下げる。
「……悪い。こんな日にライブに行くなんて。育田さんにデートの話をされた時、舞い上がってしまった……と言うか。日にちを特に気にせずに頷いてしまったんだ」
本当だったら、この事実は隠し通すつもりだった。
なのに正直にポロポロと。初デートは上手くいかないものなんだな、と痛感してしまう。歌恋の渋い表情からして、嫌われてしまっただろうか。
せっかく人生初のラブコメみたいな展開になっていたのに。「何だこれ何だこれ!」と浮かれていた先程の自分が馬鹿みいだ。
「気にしないでください。私もあの時……まぁ、今もですけど。緊張していたので。ちゃんと確認しなかったのが悪いんです」
「いや、そんな」
武蔵は首を振ることしかできない。
そんな自分が情けない。なんて思っていると、何故か歌恋はニヤリと笑った。
「でもごめんなさい、的井さん。今はもうデート中なんです。……時間がありません、さあ、行きましょう!」
歌恋は立ち上がり、急かすようにして武蔵のパーカーの袖を引っ張る。
正直、想定外の行動だった。
もっとこう……誰のライブに行くんですか? とか、異性の友達ってどんな方なんですか? とか、根掘り葉掘り訊いてくるのかと思っていたからだ。
ここで自分がイベンターであることを明かす覚悟も、心のどこかではしていたのに。
「色々気になることはありますけど、でも……またこうやって会えるんですよね?」
「あ、ああ」
「だったらお話はそろそろ切り上げましょう! まだまだ見ていない動物がいるんですから。その……行かなきゃいけない時間ギリギリまでは、付き合ってくれるんですよね?」
歌恋は袖をぎゅっと掴んだまま、武蔵をじっと見つめてくる。
薄卵色の頬はほんのりと赤く、翡翠色の瞳には呆けた表情の自分が映し出されていた。色んな意味で恥ずかしくなる。
「……ああ、もちろんだ!」
ただ、返事だけは力強くした。
素直な気持ちをぶつけてきてくれる歌恋に心から感謝しつつ、武蔵は歌恋と並んで歩き始める。ここから歌恋と別れるまでは、細かいことを気にしないようにしよう。そう考えたら心が楽になった。
そこから先はあっという間に時が流れた。
今思えば、昼食での会話が一番長く感じた気がする。でもあの会話は必要なものだった。たくさん冷や汗を掻いたし緊張が止まらなかったけれど、これから歌恋と向き合っていくことを考えると重要なことだったのだ。
「的井さん、今日は本当にありがとうございました! その……凄く楽しかったです。えへへへ……へーい」
動物園の最寄り駅まで戻ってきた二人は、別れの挨拶を交わす。
へーいを付け加える歌恋には相変わらず慣れず、ついつい武蔵は半笑になってしまう。
「へーい。そ、そうか、なら良かった」
「ちょっと的井さん。いちいち突っ込まないでくださいよ。ただの口癖なんですからぁ」
「いやでもやっぱり違和感ありありだと思うぞ」
そんな会話も、気付けば自然とできるようになっていた。「一日で凄い進歩だな!」と思わず自分で自分を褒めてしまう。
「もう……。それじゃあ的井さん、ライブに間に合わなくなったら困りますよね? また今度……あっ、それより先に学校ですよね。また、学校で! です!」
「ああ、そうだな。また学校で。……あっ、あと」
今度の予定は、俺が立ててみるから!
……と、何とか勇気を出してそう付け加えてから、武蔵は歌恋と手を振り合う。歌恋が名残惜しそうに改札を抜けていくのを見送ってから、武蔵は歩き出すのであった。
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