作戦会議を始めましょう


 自室にげ込んでからしばらくすると兄と姉二人が私の様子を見に来た。

「お兄様、私また子どもみたいなことを言ってしまいました」

 部屋についてから、私は自分の言動を少しだけこうかいしていた。

「いいや、お前はよくやった。あんなわからず屋には、あれぐらい言ってやればいい」

 兄はそう言って私の頭をやさしくでてくれた。

「そうよ~。お父様なんていない者あつかいしていいわ」

 今日のリベリー姉様は少し過激だ。

「もし何かあればすぐに相談するのよ! お兄様でも私達でも、もちろん司書長様でもね!」

 ラフラ姉様は強くこぶしにぎりながら力説してくれた。

「キューキュピー」

 そして、最後に私の首元でネックレスにたいしていたシャルロが私をはげますように鳴く。

 もう、シャルロが可愛かわいくて仕方がない!

 私はシャルロをてのひらに移動させると、頭を撫で撫でしまくった。

 シャルロも、クルクルクルとのどを気持ちよさそうに鳴らす。

「アルティナ、それ、どうしたの!」

 目を大きく見開き、あわてたように聞くラフラ姉様に、私はシャルロにほおずりをしながら言った。

「シジャル様が護衛代わりにシャルロを私に預けてくれたのです」

「使いりゆうをアルティナの護衛にか? 人から聞いた話だから本当かわからないが、確か使い魔とは魔法の使い手のなかでも限られた者しか扱えず、主人と命の共有をしているためおたがいに身を護るのだと」

「いざとなればシャルロが戦ってくれたり、大きくなって背中にのせて飛んで逃げてくれるので安心だからとシジャル様がおっしゃって……私、これまで以上にシャルロを大事にいたします」

「「愛されてるわね~」」

 姉二人はうっとりとした顔でフーっと息をついた。

 なんだかくすぐったい気持ちになる。

「飛竜よ。アルティナをたのむぞ」

 お兄様は胸ポケットから包みを出すと中からクッキーを一枚取り出してシャルロの口に近づけた。

 シャルロはそれをシャクシャク音をさせながら食べ、合間にキュウキュウ鳴いていた。


「お兄様、私にもやらせて下さいませ~」

「お姉様の次は私ね! お兄様代わって!」

 お兄様もお姉様二人もシャルロにクッキーをあげながら口元がゆるんでいる。

 シャルロは可愛いから仕方がない。

 私もシャルロに初めてご飯をあげた時はだらしない顔をしていた自覚がある。

 ネックレスに擬態している時のシャルロは小さな体と小さな口で体に見合った量のご飯を食べる。

 生のお肉と野菜と果物をちょっとずつ食べるのだが、あまいものは別腹なのか、たくさん食べている気がする。

「あまりあげすぎてはシャルロがぽっちゃりになってしまうから、そろそろやめて下さい」

 私が注意すれば兄も姉達もすごくがっかりした顔をしていた。

 私がグラスに水を入れてあげるとシャルロはグラスに頭をっ込んで水を飲んだ。

 いちいち可愛い。

 見ればその場にいた全員がとろけたような顔でシャルロを見つめていた。

 飼っちゃいけません!

 とか言われなくてよかったと、私はひそかに安心してしまった。

「司書長にはいつもおどろかされる。しんけんじゆつほうも得意でアルティナにポンっと大事な使い魔を貸してしまえるなんて、やはり司書長は男のぼくから見ても格好いいな」

「そうなんです! シジャル様は格好いいんです!! 優しくて可愛いところもあって本当にてきなんです!」

 私がそう言えば、兄も姉達も優しく笑ってくれた。

「では、司書長とけつこんできるようにがんるぞ」

 兄に力強く言われ私は強くうなずいた。

「私もラフラもアルティナの味方よ」

「勿論よ!」

 兄姉が仲間だと思うだけでこんなにも心強いのか。

「ありがとうございます」

 頭を下げてお礼を言えばみなからめられた。

 暫く抱き締め合った後、私達は作戦会議を始めることにした。

「アルティナは父上と客人とは話すな」

「えっ?」

 兄は悪い人の顔だ。

「僕はアルティナの声が出なくなった時、ものすごくつらかった。だから父上にも少しぐらい同じ体験をしてもらおうと思う」

「まあ。お兄様ったら」

「お姉様はまさか反対なの? 私は賛成だわ! アルティナがやっとおもびとと結ばれたんだもの! じやするヤツなんかと言葉をわす必要なんてないわ!!」

「あらあらラフラ、私は反対なんて言ってないわ~むしろ……お兄様は優しすぎるぐらいじゃないかしら~私だったらお父様の顔すら見たくないもの。そもそも知らない男性が家にいるなんて不安でしょ~そうだわ、私の家にいらっしゃいな」

 リベリー姉様は優しいこわいろでそう言うと、私の頭を優しく撫でた。

 私は本当に愛されている。

「でも、それではお兄様にめんどうごとを全て押しつけることになってしまいます」

「最悪それでも仕方ないわよ」

 ラフラ姉様は当然だという感じだ。

「アルティナ、もしもの時は二人にたよるんだ……司書長のところに逃げるのもありか?」

「お兄様、じようだんはよして下さい。シジャル様にめいわくをかけるなんて考えられません」

「男は頼られるとうれしいんだぞ」

 そうなのか?

 でも、面倒ごとを持ってくるめんどうくさい女だと思われたくない。

 ただでさえシャルロを借りているというのに。

「とりあえず、お兄様にはご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」

「フー。まあ、いい。妹に頼られるのも悪くないからな」

 前は兄に甘えることなんてできなかったが、今なら多少甘えられる。

 シジャル様に迷惑をかけないためだと思えば容易たやすいことだ。

「客人もアルティナに相手にされないと解れば帰るだろ」

 つうに考えれば兄の言っていることがもっとも簡単な解決策に思えた。

「そうね~。女性から冷たくされたら普通、脈がないってあきらめて下さるわよね~」

「私も姉様も沢山の男性に言い寄られたけど、冷たくあしらえばしつこく追ってくることはなかったわ。だいじようよ! アルティナに冷たくされてえられる男性なんて存在しないわ!」

 姉二人の後押しもあって、私は父と客人を相手にしないことに決めた。

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