アルティナの決意 ユーエン目線


 アルティナはだいきらいだ、話もしたくないと言うと父上と客人の間をすりけて自室に閉じこもってしまった。

 父上はアルティナがはんこうだとなげいていたが、ぼくからすればアルティナはそれだけ司書長が好きで好きで仕方がないのだ。

 見れば、リベリーもラフラも僕と同じようにあまっぱいものを飲み込んだような顔をしていた。

 二人も司書長とアルティナのこんやくを手助けした仲間だから、アルティナのおもいをみにじるわけにはいかないのである。

「父上。アルティナは貴方あなたのオモチャじゃないんですよ」

「そんなことはわかっている!! だから、こうやって幸せにしてくれる相手を見つけてきたんだろうが!」

 アルティナの想いを無視した言い分に、リベリーもラフラもあきがおだ。

「お父様なんて、一生アルティナに無視されればよろしいんじゃなくて」

「お姉様、ぐうね! 私も同じことを考えていたわ!!」

 妹二人は仲良く、ねーっと言って共鳴している。

 そこに僕も交ぜてほしいぐらいだ。

 僕は気をとりなおして客人を見た。

 客人達は何が起きたのか混乱しながらも、アルティナが去った方向を見つめている。

「申し訳ございません、お客様方。アルティナにはすでに婚約者がおりますので今回の話はなかったことにしていただきたい」

 僕が二人に頭を下げると二人はさんくさがおを作った。

 そして、インシオンというこうしやくの次男が口を開いた。

「お兄さん。頭を上げて下さい。……まだ、婚約ですよね? 結婚したわけではないのでしょう?」

「まあ、そうですが……」

「では、まだ我々にもチャンスがあるではないですか! 求婚者は何人いても問題はないでしょう? それとも、この国の人間はりんごくの要人を、来て早々に追い出すおつもりですかな?」

 めんどうくさい! こいつ、ちやちや面倒臭い!!

 父上、あんたこんなヤツをアルティナのはんりよにしようとしているのか?

 信じられん。

 もう一人のダレンというこうしやくの三男はいまだにアルティナが去って行った方を見つめていて、僕の声すら聞こえていないようだし、ろくなヤツらじゃないじゃないか!

 これは司書長に相談しなくては。司書長は自己評価は低いが、アルティナを幸せにするためならきようを許さない男だ。

 話をしておいて損はない。

「ちなみに、アルティナじようはどんなものが好きなのでしょうか?」

 プレゼント作戦ほどアルティナに効かない作戦はないと思う。

「アルティナは本にしか興味がない」

「本ですか」

 インシオンはクスクスと笑った。

「アルティナ嬢は夢見がちな方のようだ」

 夢見がちはお前だ!! と言ってやりたいのをこらえた僕はえらいと思う。

 やっぱり、こいつにはアルティナのことを理解するのは無理そうだ。

「夢見がちかは解りませんが、本が好きですね」

 昨日アルティナが読んでいたのは『経済的観点から導き出す消費者の心理と欲求』という本だった。そんなアルティナが夢見がちとは笑える。

 自分の持つ物差しでしか物事を測れないとは視野のせまい男だ。

 まあ、せいぜいけばいい。

 僕は客人達からはなれると父上に向きなおった。

「父上、客人達は任せます。僕や妹達は司書長以外アルティナの婚約者に相応ふさわしい男はいないと思っていますので、彼らをかんげいできません。そのつもりで」

「ユーエン、私も彼らもここにたいざいするからな」

「……どうぞ、アルティナに害がなければ僕は構いませんよ」

 父上はフンと鼻を鳴らしつぶやいた。

「もっと格上の男がいただろ?」

「父上だって、きっと司書長が気に入りますよ」

 僕はそれだけ告げ、リベリーとラフラを連れてアルティナの部屋に向かったのだった。

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