毛が落ちる方は外でお待ち下さい
父の手紙で朝から体力も精神も
城に着き馬車を降りると、兄がゆっくりと言った。
「
「では、私はお母様にお手紙を書きますね」
私と兄は同時に大きなため息をつく。
理由は一つ。
父だ。
私の父は
兄も本当は
父の
姉二人は暴走する父から母が
母がいない
いや、きっと無理だ。
父は自分が選んだ相手が世界一私を大事にすると信じて疑いもしないだろう。
私は父に幸せにしてほしいわけではない。
シジャル様の側に幸せがあるのだ。
そんなことを考えているうちに、王立図書館の前まで来ていた。
兄は
「とにかく、司書長にも相談しておいた方がいい。父上が僕達の話を大人しく聞いてくれる確率は
兄の言っていることは、もっともである。
「はい、解りました。シジャル様にも相談してみます」
兄は小さく
私は図書館に入りシジャル様を
早く話しておきたいのに、うまくいかないものだ。
仕方がないので経済学の本を手に取り、席に
シジャル様には
私は思わずそう思い、声もかけずにシジャル様を見つめてしまった。
暫く見ているとシジャル様がチラリと私の方を見て、目が合うとフニャっと笑ってくれた。
その
つられて私も笑顔を返す。
「アルティナ様、おはようございます」
「おはようございます。シジャル様」
父のことをうっかり忘れてしまいそうになった。
私はシジャル様に体ごと向き直ると口を開いた。
「シジャル様にお話があります」
私の言葉にシジャル様は不安そうに
「改まってどうしたのですか?
「それはあり得ません」
私が否定するとシジャル様は安心したように息を
「よかった……では、どういったお話でしょうか?」
「それが……」
どう説明したらいいか解らず
「ゆっくりで
シジャル様の
「実は、海外に出てらしたお父様が帰って来ることになったのです」
シジャル様は暫く黙ると首を
「それはいいことですよね?」
「ですがお父様は、とても
シジャル様はキョトンとした顔をしてからニコッと笑った。
「ここでは何ですから、
「はい」
私はシジャル様に連れられて、司書長用の執務室に向かった。
シジャル様が
私はミルクティーを一口飲んでからシジャル様を見つめて言った。
「お父様はお兄様やお姉様達に輪をかけて、私の話を聞いてくれない人なのですが、そんなお父様が私の婚約者候補を連れて帰って来るという手紙が届いたのです」
シジャル様は手にしていたシンプルな黒いカップを
しかも、カップは
「
「さらりと
シジャル様は小さく
「私とお兄様で、お父様が連れてきた人とは婚約できないと、はっきり伝えますのでご安心下さい」
「はい。ですが、どんな人物が来るのか解らない以上心配ですので、シャルロを護衛代わりにアルティナ様に預けてもよろしいでしょうか?」
「シャルロを護衛に?」
「シャルロならアルティナ様をどんなことがあってもお護りします。なんなら自分とアルティナ様が同時に
シャルロはシジャル様の使い
使い魔とは主人を一番に護るのではないのか?
「そんなことはないと思います。それに、シジャル様が遠出する時にシャルロがいないと困ってしまうのではないでしょうか?」
心配して聞けばシジャル様は私の頭を優しく撫でた。
「大丈夫ですよ。その時はリルを連れてきますから」
「森で会ったフェンリルのリルさんですか? 狼みたいに大きいのに、リルさんも使い魔なのですか?」
「
優しい
まあ、シジャル様がそれでいいならいい?
私もシャルロには何かとお世話になっていて、気心も知れているから安心だ。
「では、シジャル様のご厚意に
こうして、私は暫くの間シャルロを借りることになった。
数日後、図書館の外の中庭で小さな
シジャル様に聞けば、リルさんを小さくさせたのだと教えてくれた。
「あんなに小さくなれるのですね!」
「上級の
シジャル様はそう言ってから左手に巻きついていたシャルロを私の首元に近づける。
シャルロは
「今日からよろしくね! シャルロ」
私の言葉にシャルロは猫が首元を撫でられゴロゴロ鳴くようにクルクルと鳴いてみせる。
シャルロの頭を指で撫でてから、私はシジャル様に向き直った。
「アルティナ様、何かあれば、すぐに相談して下さいね」
「はい……ちなみに、シャルロの好きな食べ物があれば教えてほしいのですが」
「シャルロは果物が好きです。肉も食べますけどね」
私は暫く黙ると、首を傾げて聞いた。
「シジャル様の好きな食べ物は何ですか?」
シジャル様は両手で顔を
「かわい……ぎる」
何を言ったのか教えてほしかったが聞くタイミングを
シジャル様は勢いよく自分の
「ふ~。自分は野菜たっぷりのシチューが好きです。アルティナ様は何が好きですか?」
私は
「私は木の実たっぷりのパウンドケーキが好きです」
「では、
シジャル様の自然なデートの
「約束ですよ」
「勿論、約束です」
その誘いがどれだけ私を幸せにしているかなんてシジャル様は気がついてもいないだろう。
シジャル様と図書館で
だけどもっともっとシジャル様の側にいたい。
私はこんなにも欲深い人間だっただろうか?
「シジャル様」
「はい、何でしょうか?」
「大好きです」
思わず出てしまった言葉にシジャル様は指先まで真っ赤に染まって
「シジャル様!」
慌てて
「可愛すぎる」
今度ははっきりと聞こえた。
あまりにも可愛らしいシジャル様に、私はニヤニヤが止まらないのだった。
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