婚約回避のため、声を出さないと決めました!! 2

soy/ビーズログ文庫

私には愛する婚約者がいます


 私、アルティナ・モニキスには愛するこんやくしやがいる。

 名前をシジャル・ミルグリット様。

 王城の中にある図書館の司書長をしていて、おだやかなしやべり方でいつしよに読書をしている時安心感をあたえてくれる。私が見てきただれよりもうでぷしが強いのにけんきよなところもギャップえだ。

 あまりにもてきすぎて、私にはもつたいないほど素敵な人だと思う。

 思い返せばシジャル様との出会いはぐうぜんだった。

 私はそのころはんこうただなかで、自分の価値観だけを押しつけてくる兄や姉達と話すことが苦痛になり、転んで頭を打ったせいにして声を出すことをやめた。

 そんな私がうっかり声を出してしまったのを聞かれたのがシジャル様との出会い。

 シジャル様は声が出ないという私のうそを何度もフォローしてくれて、まもってももらった。

 そんなことされたら、れてしまうに決まっている。

 そう、私はシジャル様に恋をしたのだ。

 そして私のこいを全面的にバックアップしてくれたのは、一番会話するのがめんどうだと思っていたはずの兄と姉二人であった。

 私はシジャル様のおかげで、家族から愛されていると初めて気づくことができたのだ。

 その後、本当に私の声が出なくなってしまい、シジャル様の計らいで彼のご実家に静養に行ったり、上級せいれい様に会ったりした後、色々あってシジャル様との婚約にこぎつけることができた。

 声も出るようになったが、シジャル様と婚約できたことが何よりうれしかった。

 兄と姉二人とも、きずなが深まったと思う。

 嬉しいことはたくさんあったのだが、なやみごとも少なからずあったりする。

 貴族のけつこんは時間をたっぷりかけてごうな式にすることがつうだ。特にうちがこうしやくであるために婚約報告を山のように手書きして送らなければならない。さらにはウエディングドレスを特注したりと、すぐに結婚できないことにモヤモヤするというぜいたくな悩みをかかえていたのだった。



 そんなある日、私と兄ユーエンはゆうに朝食を食べていた。

「アルティナ、司書長とは仲良くやっているか?」

もちろんです。誕生日パーティーの招待状も、特別にわたしするつもりです」

「そうか」

 兄はそう言ってパンをちぎって口に運んだ。

 最近の朝の日課になりつつある会話だ。

 今日も兄と一緒に城に行き、王立図書館でシジャル様とまったりとした時間を過ごす予定だ。

 そんな優雅な朝食の時間にはめずらしく、しつちようが銀細工のトレーに手紙を一通乗せて運んで来た。

「急ぎの手紙か?」

 うちのゆうしゆうな執事長が食事中に手紙を持ってくるなどめつにないことだ。

 兄は手紙を手に取り差出人の名前を見てつぶやいた。

「あっ……」

 そして、急いで封を開いて中をかくにんすると、私に申し訳なさそうな顔を向けた。

「お兄様、どうされたのですか?」

「それが、その……」

 歯切れの悪い返事に私はハッとした。

「まさか! シジャル様に何かあったのですか?」

 私があわてて聞くと、兄は勢いよく首を振った。

「違う……父上が帰ってくるらしい」

「もう! おどろかさないで下さい」

 私は口をとがらせた。

 私の父は今海外にいる。

 兄がになったお祝いにとくを押しつけ、王弟殿でんの通訳係として海外を飛び回っているのだ。

 ちなみに、母も海外を渡り歩いている。文学研究者という職業がら、海外の書物を集める旅をしているのだ。

 母親が家にいないことでさびしい思いも多少あるが、母は私の本にぼつとうしてしまう性格にも理解があり、自立した女性というところは父以上に尊敬している。

 両親は私にとっては二人ともたまにしか会えない、遠いしんせきのような存在になっていた。

「お前の誕生日を祝うために、帰ってくるらしい」

 私は朝食の後の紅茶をゆっくりと口に運んだ。

「それで、だな……」

 兄はじやつかん目を泳がせた。

「お前の婚約者候補を連れてくると手紙に書かれているんだが……」

「え?」

 私はぜんとして兄の顔を見つめることしかできなかった。

「これはぼくのミスだ。お前と司書長が無事婚約できたことで安心してしまった」

「安心すると、どうしてこんなことになるのですか?」

 私は泣きたい気持ちで呟いた。

じやするつもりはない! ただ……」

 兄はうつむくとうなるように言った。

「両親に報告するということを、すっかり忘れていたのだ!」

 私は天をあおいで返した。

「お兄様、それなら私も同罪です。だって、私も忘れてましたから……」

 その場に長いちんもくが流れたのは、仕方がないことだと思う。

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