第94話

 フェイたちの部隊が濃霧の原因とされる功夫絡繰兵哪吒を撃破した時、上空ではというと――。


「……派手にやってくれるな、太公望」

 妲己が感嘆の吐息を漏らす。それほど、太公望の戦果は異常だった。

「なんだあの人間は……!」

「ドラゴンよりよほど厄介ではないか!」

 圧倒的に空戦で有利だったはずの天使や悪魔は、打神鞭を操り空中戦を挑む太公望の面食らっていたからだ。

龍昇脚ロンシィジャオッ!」

「ぐはッ……!」

 太公望の空中からの踵落としが悪魔の脳天をカチ割った。

 力を籠めるための地面もない空中であるのに功夫の威力が保証されているのは、もはや太公望の技量に他ならない。空中戦だけでいえば妲己以上ではないかと思わせる程だ。

「ヒトごときが舐めた真似を!」

指銃弾ヂージョタン!」

 天使と悪魔は太公望ではなくスープーとスープーに乗る功夫遣いを狙うも、メイズの指銃弾の狙いはかなり正確で、迂闊に接近戦が挑めずにいた。

「これでも私は麒麟ですからね! 空中戦が得意な仙人もいましたし!」

 聖獣だからとスープーはいうのだが。無論それは麒麟だからというわけではなく、かなり空中戦に慣れていると思わされた。

「こざかしい!」

「ッ!」

 天使の槍が京を襲う、弾くものの槍の歯が掠めた。

熊猫拳シュンマオチュアンッ!」

 空中とは違い踏み込める地面があるのだから、熊猫拳の威力は保証される。

「ちッ、小癪な!」

 京の功夫を喰らうも天使は消滅には至らない。予測通り陽の存在である天使は陽の《氣》では打ち消しにくいのだ。

岩砕刀イェイスンダオ……ッ!」

 すかさずズーハンが京と天使に割り込み陰の《氣》を纏った手刀を天使に放つ。

「ぐッ、身体が保てん――」

 ズーハンの功夫をくらった天使が消滅した。やはり陽には陰をぶつけるのが一番のようだ。

「ありがとう!」

「えっと……」

 京が礼を言うとズーハンはやや照れてしまう。どうやら礼を言われるのに慣れていないようだ。

「死ね!」

 悪魔が槍を捨て、捨て身の突撃してきた。天使や悪魔は現世から消滅するだけであり死ぬというリスクがない。だからこそ取れる戦術だった。

「あぶねェ!」

 アイシャが京とズーハンの危機に走るが――。


「嘘……ッ!?」


 悪魔の突撃をもろに受け、京はスープーから落とされたのだった。 

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