第67話 奥義継承

「くッ、不完全なまま奥義を撃ってしまったのか! ならば――ッ!」

 太公望は拳を構え、呼吸を整える。最大級の奥義を放つための構えだ。


「極陽拳奥義――、陽龍・天地雷鳴ヤンロン・ティェンディレイミン――ッ!」


 太公望の陽の《氣》は光り輝く龍の形を成し、それを身に纏う。

「もう無用な争いは止めるんだッ!」

 光の龍を纏った太公望が黒い龍にぶつける。

「おおおおおおおおおおお――ッ!」

 城中に響き渡るほどの絶叫。

 最初は黒い龍が競り勝っていたが、徐々に太公望の勢いが増してきた。


 そして――。


「ふーッ、ふーッ……」

 紂王が放った黒い龍は完全に消滅してしまった。大きな氣の本流のぶつかり合いに打ち勝ったのは太公望だった。

「え、嘘でしょ……。力が、抜ける……?」

 完全に限界を迎えたのだろう、紂王はその場に崩れ落ちる。

「季子!? 季子!?」

 妲己が駆け寄る、もはやなりふりなど構っていられなかった。

「ごめんね……、お師匠様。私ね、お師匠様に感謝してるんだ……」

 そして妲己を紂王を抱き上げる。心なしか軽い気がした。

「……あのね、お師匠様が私の病気を治して、功夫を教えてくれたから。頑張って王様になろうって思ったんだ」

「喋るなッ! 今すぐ医者に診せるから!」

 妲己が悲痛な叫びをあげながら紂王の身体をゆするが、その願いはむなしく紂王の言葉は徐々に弱弱しいものになっていく。

「あれは、違うの……。私は季子を利用するつもりだった。手駒にして私を化け物だって迫害した仙人たちに復讐しようって……」

「そうだったの……。でも、国中が私を女だって馬鹿にしていたのに一生懸命私を見てくれたじゃない……? それだけで――」

 紂王の目から徐々に光が失われていく。


「じゅうぶん……、あり……が……」


 この言葉を最後に紂王から力が抜けていくのを妲己は感じていた。

「季子、これは嘘よね……? 嘘だって、嘘嘘嘘……」

 妲己は同じ言葉を繰り返してしまっている。

「妲己……。僕の力不足で」

「嘘、嘘、嘘……」

 いたたまれなくなった太公望が妲己に声を掛けると、妲己はふらりと立ち上がり、

「妲己、すまない……。紂王をみすみす殺してしまった」

「……季子、季子、季子」

 太公望は死を目のあたりにしてショックを受けつつも、謝罪の言葉を口にするが、妲己の目には何も映しておらず、何も聞こえなかった。

 そして妲己は紂王の幼名をうわ言の様に呟き、どこかへと消えていった。


 そして――。


「ババアッ、危ねェッ!」

 

 アイシャの声が響き、京は意識を戻される。

「……なるほどね」

 すでに太公望が迫ってきていたが、京は驚くほど冷静だった。

熊剛体シィォンガンディッ!」

「ちッ、このタイミングで熊剛体とはな!」

 弾かれた太公望が毒づく、ここで大きな隙が出来た、京は呼吸を整え体中に陽の《氣》を巡らせる。

「……」

 そして最大限に陽の氣を練り上げ、龍の像を作り上げる。


「極陽拳奥義――、陽龍・天地雷鳴ヤンロン・ティェンディレイミン――ッ!」


 京は龍の形をした《氣》を身にまとい太公望に突貫し――。

「ぐうッ……!」

 京の氣をぶつけられるも、太公望はどうにか受け身を取り、持ちこたえる。


「ここまで!」


 危険だとスープーが二人の間に割って入った、これで決着だ――。

 


 

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