第48話 閑話 帰りを待つ間
京たちが森の奥に入った頃、後続の部隊を待つ頼と凛は青年と娘が住む家に招かれていた。
「あ、軍人さん。どうぞ」
「すまんな」
娘が差し出したお茶を頼が口に付けるのだが、
「熱ッ!」
「猫舌なのに無理をするから」
熱がる頼の様子を見て凛は苦笑していた。
そのやり取りを見た娘がふと疑問を口にする、
「もしかして、お二人は付き合っておられているのですか?」
「!」
凛の顔があからさまに赤くなる。頼は逆に平静そのものだったが。
「いや、凛からそういう打診をされたことはあるが、断った」
「えッ!? なんでですか? お似合いだと思うのに!」
頼のそっけない言葉に娘が前のめりになるが、頼はあいかわらず平静を保っている。
「私が目指しているのは軍の士官、そして、左官、最終的には将となること。それが軍人の家に生まれた者の定めだ」
殊更厳しい頼の姿勢は軍人の家に生まれたという矜持からくるものだということだ。
「……」
頼の話を聞いた娘はぽかんとしている。住む世界が違うのだと思わされたからだ。
しかし、理解してくれるものはいるようだ。
「わかります! 僕の一族は優秀な学者を輩出してきましたから。一族に恥じぬ学者になりたいと思い勉学に励んでおります!」
「なるほど、君も己の一族に誇りを持っているのか」
と頼は手を差し出した。
「西洋の挨拶だそうだ。私もフェイ皇帝も気に入っている」
「あ、僕も知っています。握手ですね。お願いします!」
青年も手を差し出し、固い握手を交わす。
「西洋の知識で、この村を再生させたいのです! 生贄など必要なくなるよう!」
「強き軍と熱意ある学者、そして豊かな土地。この国も安泰だな」
青年が熱く語るのと聞いて、頼は珍しく微笑んだ。
「なるほど」
が、それだけではないのは凛はわかっていたようだ。
「そっちの娘さんのためね」
「!?!?」
指摘すると青年がドギマギし始める、当たりのようだ。実に分り易いと凛は笑っている。
「そうなのか?」
「そうなのよ! 本当、あなたは男女の機微に疎いんだから」
頼は朴念仁なのか、青年の想いを完全には理解していなかったようだが。
「なるほど。君の村を助けようとする熱意は理解した。それを後続の部隊に伝えるとしよう」
「部隊……一体どういうお方たちが?」
青年が訝しむ、権力のある人間がくるという事を示しているのは青年も理解したのだが、
「頼りになるお方だ。全幅の信頼を置かれておられる――な」
「……なるほど」
あくまで誰であるかは明かさないようだ。とはいえ、青年は誰か来るのかは察しはついていたようだが。
「隊長たちの帰りを待とう。大丈夫だ、老師様とその弟子もいる。忌まわしい祟り神など始末してくれるさ」
そういった頼の言葉にはには京に苛立ちをぶつけていた感情は見えず、代わりに厚い信頼が芽生えていたのは確かだった。
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