第48話 邂逅

 最悪の事態から逃れた事に湧き上がる村の者から離れた一同、人払いをした倉庫で改めてフェイは京に頭を下げる。

「改めて、お初にお目にかかる。叔母上殿」

「こちらこそ、初めまして。フェイ陛下」

 京は深々と頭を下げた。外見からしてフェイの方がはるかに年上に見えてしまうのだが、フェイの言う通り京の方が年上だ。

 ――何歳かしら……。

 そういう場面ではないが、フェイの年齢が気になってしまっていた。それを知らないフェイは話を続ける。

「妲己が引き起こした戦役の謎の解明に協力してくれたことに感謝している。そちらが弟子のアイシャか?」

「……」

 アイシャが黙りこくっていた。本物の皇帝を目にするとは思っていなかったのだから無理もない。

「屋敷への襲撃があったのはまだ先帝の時代だったそうだな……。私は当時、軍の精鋭の一人だった。絡繰兵の襲撃を許し、民を失わせたことを許せとは言わん」

「……?」

 アイシャが首を傾げる。

「未だにこの国を蝕むこの事件を解決し、無念を晴らす。そのために軍備を強化した。軍の強さは外交の胆でもある、」

「いや、それはわかってるよ。死んだオヤジは上級役人だったからな……。外交の重要性は一応だけど理解してるよ」

 アイシャとてフェイが嘘を言っているとは思っていない。

「さて本題に入ろう。都の近くに妲己を打ち斃した太公望の廟がある。どうやら、妲己に隠れ時の帝とシロアリ共は太公望廟で何かを企んでいたらしい」

「妲己に隠れ……?」

 アイシャがそこを気にした。妲己は時の帝と組んでいたのではなかったかと。

「人造仙人と言ってもいい絡繰兵は確かに強かったのだがな、妲己は彼らを兵器として見なさかった。思想の違いゆえ裏では疎まれていたのだ」

「……フェイ皇帝、やたら時の帝の事に詳しいわね」

 京はフェイが人払いをした理由をうすうすと感じていた。時の帝の性格についてやたら詳しいのだから。

「もしかして龍の子供じゃなくて、時の帝の――」

「その通り。とはいえ、私はあの男の妾の子だが」

 妾――、正室ではないということだ。側室制度は龍の代で廃止されたが、龍は戦役を招いた責任を感じ最後まで妻を娶らなかったという。 

「すでに死んだ罪人などと面識などあるわけがないが、私の父親が何をしていたのか知りたくて軍に入り調べていたのだ」

「それで、兄上の目に止まり――ってところかしら?」

「あァ、その通りだ」

 概ね予測通りだとフェイは頷いた。

「血筋のおかげだけじゃないってのはわかった。で、いくつなんだ?」

 ふと気になったとアイシャが訊ねた。

「まだ二十歳だが、何か問題でもあるのか?」

「……二十歳?」

「若ッ!」

 京とアイシャが固まる。歴戦の強者を思わせる風貌なのだから三十ないし四十代だと思っていたからだ。

「それはよく言われるな。とはいえ、あまり兵に妄信されるのは好きではないが」

 フェイはフッと笑い受け流す。威厳を崩さないのはさすがだと思わされた。

「さて、太公望廟には私も向かおう。陣も連れて行く。太公望廟も恐らく古代文明が遺した遺跡だろうからな」

「……わかったわ。とりあえず補充してから向かいましょう」

 次に京が目指すは太公望廟だ。

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