第49話 道化仙人と絡繰人形は今
「……」
自身が道化でしかなかったことを思い知らされ、逃亡した妲己とズーハン。
――皆、やられてしまった。
妲己は悔しさから唇を噛む。護衛の絡繰兵はアーサーが追っ手として放った黒い道着を着たオートマトンにすべて潰されたのだった。
ズーハンを元にして作られただけあり絡繰兵よりも精巧で、洗練された技を放ってくる。ただ、人間に近いだけあり脆かったのは幸いだったというべきか。
「……」
ズーハンも疲弊していた。絡繰人形はより人に近い絡繰兵として設計されている。
普通の人間のように疲労も空腹も感じてしまうのが難点ではあるが、実のところこの絡繰人形は肉体の代替品という設計思想があり、銀の水などによる延命の延長線にあるものだった。
「申し訳ございません、私は空腹を感じています」
「私もだ、情けない事だが」
思わず愚痴をこぼしてしまった。
仙人は不老であって不死ではない、腹も減れば疲労もする。妲己が拠点として使っていた古代遺跡なら全て揃っているのだが今は逃亡中の身だ、ないものねだりでしかない。
「……追手はすべて潰したか」
妲己が気配を探るが、それらしい気配は感じられない。ただ人はいる、近くに集落があるようだ。
「あんたら……!」
妲己とズーハンに気づいたらしい女が近づいてくる。
「どうした?」
「悪い事は言いません、あの村には近づかない方がよろしいですよ……」
怪訝な顔をする妲己に女性は近づくなと警告をする。
「……労働をして食料を得ようと思ったのだが。この村で何かあったのか?」
理由を尋ねるのだが、その内容は妲己も驚かされるものだった。
「京とかいう老師が村を牛耳っているのです!」
「――ッ!?」
妲己が咳き込む。かつての教え子であり、不幸にも敵対してしまった女の名前が出たのだから当然だが。
「ど、どうかしましたか? もしかして、具合が悪いのですか!?」
「あ、いや。確かに腹は減っているが……」
返答に詰まった妲己は髪をかきあげつつお茶を濁したようなことを言う。
「もしかしてその恰好、学者様ですか?」
「あ、いや、これはただの趣味だ……。西洋のファッションというやつでな。ちなみに私は功夫の師範をしている」
チャイナドレスに白衣を羽織った姿でそう思われたようだが、無論そうではない。
「まさか……あなたたちも?」
「違います。理由なき略奪などに加担するなどあってはならないことです」
ズーハンがきっちり否定した。ズーハンは唯一といってもいいほど妲己の思想を理解している。
「そ、そうですよね……。功夫の老師がすべて悪人である訳がないですからね」
「そもそも京はそのような非道を行う女ではない。ただの偽物だ」
妲己はそう言い切った。長らく会っておらずズーハンから聞いた印象でしかなかったのだが、妲己は今でも京の事を信じている。
「まさか……」
女が怪訝な顔をする。
――拙かったか?
京と妲己の事を知っている者がいるとは思えなかったが、迂闊だったかと妲己は気まずい顔をしたのだが、
「あなたが本物の京老師なのですか!?」
斜め上の返答が女から返ってきたのだった。
「は……?」
「えーッ!?」
流石の妲己も思考が止まり、ズーハンは盛大にすっ転んだ。
これは行商人が京に語った人助けをする京の偽物が誕生した時の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます