第25話 市場にて
「おお、老師様。弟子ちゃんと一緒かい」
街の市場に着くなり、二人は声を掛けられる。
声を掛けたのは前に京に金属製の護符をくれた装備品専門の露天商だ。
「おや、露店の兄ちゃんじゃない。前も言ったけど武器はいらないわよ~?」
「ハハハ。流石は老師様、冗談が巧いなァ。もちろん、分ってますよ」
京が冗談めかして言うと、露天商は愉快だと笑う。
「また食料の買い出しですか。蓄えが乏しくなってるとか?」
「ちょっと都まで行くから、馬をね」
露天商が訊ねると、京は都に行くと答える。
「都かァ、最近危ないんだよ」
「何かあるのかよ?」
露天商が眉を顰めるのを見て、気にしたアイシャが訊ねた。
「いや、行商してる時に耳にしたんだが、幽霊が出るとか、人を喰う妖怪とかいるらしいぞ、気を付けた方がいい」
「幽霊……、か」
それを聞いた京が思案顔をしていると、アイシャとケラケラと笑った。
「なんだよババア、幽霊が怖いのか?」
「えェ……」
京は周囲をゾッとさせるような真顔で答える。
「《霊》は陰の要素を持つものをぶつけないと消滅させられなくてね。斬っても殴っても、銃ですらダメ」
「? どういうことなんだ?」
露天商は困惑していた。
「
京が妲己をとある人と呼んだのは妲己が戦役の当事者であるのは国中が知るところだからだ、無駄な諍いは避けたかった。
「ほほう……。西洋の科学って奴かい?」
「間違いないわね」
《霊》は電子で構成されておりマイナスの電荷をぶつけることで消滅させるという科学的な理屈だった。妲己はどこで知ったかは知らないが科学的な事象に明るいようで、京たちに説明していたこともある。
「金属……!」
そして金属というなら思い当たるところがアイシャにはある。
――極陰拳……か。
口には出さなかったが、ズーハンや妲己が修めている功夫を思い出した。
極陰拳の技が無機物の名前を冠しているのは伊達ではない証明だった。極陽拳にも鉄肘のように無機物の名を冠した技がないわけではないが、大半は生物、自然物を冠している。
極陽拳は《霊》が好む陽の電子を放つ技だという事を暗に示しているという事だ。
――俺らの流派じゃ《霊》に対処できないって事か。
つまり二人の功夫が通用しないという事だ。
「《霊》って想像以上にヤバイんだな……」
京の話を聞いた露天商はすっかり怯えていたのだが、
「露天商さんには武器があるじゃない」
京は真剣な面持ちから、笑顔に変え、並べられている商品を指さす、大半は鉄の武器だ。
「おお、そうか、こいつらは鉄だ」
「つまりヤバイ時は《霊》を追い払うことは出来るって事よ」
露天商はホッと胸をなでおろすと、京も笑った。
「おおっと、忘れてた。話の礼ってわけじゃないが……」
と、男は服の胸につけている
「おお……、お揃いね」
前に京に渡した金属製の護符と同じ無骨で飾らないデザインだ。
「老師様に弟子ができたって街長様から聞いててよ、渡そうと思ってたんだ」
「……俺のためにか?」
アイシャの言葉に涙声が混じる。
「アンタも山に降りて老師様と人食い虎とか絡繰連中を退治してくれてるだろ? 街のみんなの感謝の気持ちって奴だよ」
「……そっか」
「ほい、これでお揃いね」
涙を流すアイシャに京は護符を渡す。
「都に行くなら気を付けろよ。あ、あと街長の婆さんのところにもよっていきな、ちょっとの間とはいえ留守にするんだし」
「そりゃもちろんよ」
事実、京がこうして山奥で生活できているのも街長のおかげであり、街長の家に向かう心づもりでいた。
「それじゃ、また」
「おうさ」
京とアイシャは、露天商の感謝の声を背に受けて街長の家に向かうのだった。
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