第26話 アイシャ、己の過去を見つめ直す。

 街の奥にある街長の玄関に来たところで勝手口から街長の姿が見えた。

「おやおや」

「こんにちは、ばあちゃん」

 京が頭を下げる。

「いや、ばあちゃんって呼ぶの失礼なんじゃねェの? この人、立派な街長だろ」

「私にはいうんかいッ!」

 アイシャが京に街長に気を使えとするのだが、京は棚に上げるなと突っ込みを返した。

「いや、なんつーかさ。もうこれはお馴染みというかなんというか……」

 アイシャじゃしもどもどろになるのだが、

「ちょっと言ってみただけ~」

「本当、このババアは……」

 おちょくっただけらしく、アイシャは呆れて肩をすくめる、いつも通りのやり取りだった。

 街長はたわいもない二人の様子を見て、街長は微笑んでいた。いい師弟コンビと思っているようだ。

「街長も知っていると思うけどこのちょ~っと生意気な弟子の名前はアイシャね」

「ほほほ、よろしくね。アイシャちゃん」

 街長は相好を崩して頭を撫でると、アイシャは照れてしまい、黙り込んでしまった。

「ばあちゃん」

 そして、京は街長に要件を伝える。


「私たち都に行くから、当分道場は留守するわ」


「都でございますか……。老師様の過去を見つめ直す――、ということですか?」

 都と聞き街長の表情に陰りが見える。街長も京の事情を知っているという事だ。ゆえに表情は重くなる。

「ええ。ホント、昔の私は青かったからね。だから都に戻ろうと思って」

「過去か……」

 アイシャがふと一人ごちる。

「なぜ俺が野盗なんかをやっていたのか、まだ話してなかったな。こんな喋り方なのも」

「……それは」

 京は街長を気にする。そして結局アイシャから過去なにをしていたのか聞かなかったのは重い過去であるからだ。

「老師様、私は大丈夫ですよ。立ち直ろうとしている人を悪く言うなどできませんから」

 街長は最初からアイシャの事は受け入れる心づもりであり、アイシャが街に来ても何も言わなかった。

 錬と京が積み上げた信頼もあったが、なにより街長の人徳のおかげであるのは間違いない。

「そっか、ありがとう。ばあちゃん」

 京は頭を深々と下げる。

「さて、長話になるでしょうから。椅子に座ってお話ししましょうか、ご飯も作りますよ。老師様の料理にはかないませんが」

「確かに美味いんだよな……。どこで覚えたんだって思うけどさ」

 アイシャが溜息を吐く。事実京の作る料理は彩りが良く、山暮らしでありながら退屈せずに済んでいるのは京の料理が大きい。

「錬師範が生きていたころはよく作ってたけど、一人になったらホント面倒くさくなっちゃってさ……」

 不意に昔を思い出してしまい京の眼に涙が零れるのだが、そこには寂しさがあった。

「今は、俺がいるぜ」

 アイシャが慰めるためなのか、京の背中を軽く叩いた。

「こんの弟子、言うようになったわねェ。じゃ、話を聞こうか」

「わかった。じゃあ、部屋借りるぜ。ばあちゃん」

 アイシャの言葉に街長はうんうんと頷くのだった。 

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