第17話 決意、そして――

「……確かに過去から逃げてばかりでは、どうにもならぬ」

 ヤンは腕組みして思案している。歴史書で伝えられるところによれば紂王チュウオウのようにケイを殺害していれば当面は避けられたのかもしれないが、それは情でできなかった。

 いい加減、対応策を考えねばならない時が来ているのはヤンも感じていた。

「多分、俺の家族や使用人を皆殺しにしたポンコツ共もババアを探してたんだろ?」

「……それは」

 京は顔を背けた。自分が妲己から逃げた事でアイシャが結果的に襲われたことを自覚させられたから。

 周辺の絡繰兵が人を襲うのは戦役の名残からだと思われるが、そうではない絡繰兵の個体もいるからだ。

 先日、遭遇した赤い個体は明確な自我を持っているようだった。

「ババアや将軍の爺さんを責めても仕方ねェだろ」

「そう……でも、ごめん。絡繰兵に襲われてなければ野盗なんかやってなかったんだから」

 京は顔を曇らせ、だんだん雰囲気が重苦しいものになるのだが、アイシャは京の肩に手を置き、


「アンタがいなかったら俺はとっ捕まって首を斬られたたかもしれねェんだ。アンタはきちんと老師やってるんだよ」


「ありがと……。老師が弟子に教えてもらってごめんね、ホント、ごめん……」

 京はアイシャに泣きついていた。

「いや、ババア、こんなトコで泣くなって……。なんか俺が脅かして泣かせたみたいだろ」

 そしてしばらく泣いた後、京は涙を拭う。

「でも、妲己の居場所は将軍たちも掴んでいないのよね……」

「なら簡単だろ」

 京が難しいというとアイシャはヘッと笑い。

「その日がくるまで功夫の技を鍛えればいいんだよ。妲己なら絶対にババアのところに来る」

「なるほど、歴史書と違い妲己は存外、分り易い性格の女のようですからな。手の打ちようはある」

 姜治が手をポンと叩いた。

「うむ、赤い絡繰兵以外にも別の個体が来る可能性があるからの。……増援の兵を都に要請せねばな。伝令をこれに!」

 と、ヤンは立ち上がり、伝令の兵士を呼ぶ。

「はッ!」

 ヤンの前に来た伝令が敬礼をする。

「至急都に増援を要請するよう伝えてくれ」

「はッ、了解ッ! それでは失礼いたしますッ!」

 伝令は大声でそう叫ぶと急いで部屋を出て行った。

「威勢がいいねェ」

「当然だ、士気は高くなければな」

 アイシャがククッと笑うと、姜治はフッと笑った。

「と、そういえば気になってたんだが。ババアの師匠はどうなったんだ? まさか……」

 気まずいとは思っていたが、気になっていた。京は今は一人で暮らしているのだから。

レン師範は絡繰兵に殺されたわけではないわ。人食い虎でもない。」

 アイシャの質問に京は首を横に振る。

「……? それ以外に、厄介な奴がいるのか?」

 

「キョンシー」


 京が口にしたのは、道術により蘇った死者が冠する名前だった。

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