第?話 悪夢

「どうして? 何故?」

 女がこちらを見つめていた。道着の上に白衣を身に着けた長身の女だ。

「私は紂王でも仙人なんかでもない!」

 少女は女に向けて怒声を浴びせる。少女は豪奢な衣装を身に纏っている少女だった。

「仙人として私と、一緒に高みを――」

「しつこい! 私はその紂王の代わりじゃないの!」

 少女に追いすがる女を乱暴に振り払った。

「……そんな、私はあなたのために」

 女は項垂れる。

「――様ッ」

 少女を庇うようにして精悍な弁髪の男が前に立つ。

「ヤン将軍!」

 少女が男――ヤンの名前を呼んだ。

ケイ、大丈夫!?」

 もう一人女が来て少女――。道着を身に着け、長髪の女だった。

「錬師範も……!」

 京は錬に飛びついた。

「どうして、私を拒絶する?」

 京の様子を見て、女の表情は絶望に染まっていた。

「妲己。貴様が帝や宦官ども扇動し、西洋の列強と戦争しようとしていたのはわかっておる。この国に無用な戦乱は不要ぞ!」

 ヤンが女――妲己を厳しく糾弾し、妲己に向けて槍を構える。

「ごめんなさい、京。……ずっとついてあげられれば良かったのに」

「うっ、うわぁぁぁ!!!!」

 錬が抱き寄せると、京は泣き出し始めた。

「怖かったでしょ? でも大丈夫」

 錬はポンポンと京の背中をさすり、落ち着かせた。

「厳しくともあなたなりに京の事を見てくれていると思ってたけど、……京をおかしくしようとしただけじゃなく、国を乱そうっていうなら容赦はしない」

 錬は拳を構える。

熊猫拳シュンマオチュアァン!」

「!」

 錬が距離を詰め、妲己に向けて熊猫拳を放つのだが、青い絡繰兵が防ぐ。

 青い絡繰兵は一撃で粉砕されたが、妲己を斃すことは叶わなかった。

「大局を見れぬようだな、この反逆者どもめ!」

 時の帝だった。まだ若くヤンより大柄だ。豪奢な刀を携えている。

「よいだろう、己が選択を悔いて死ぬがよいわッ! いでよ、絡繰兵!」

 帝が刀を掲げると、絡繰兵が帝の周囲に集まってくる。


「ゆくぞ!」


 そして意識は遠のき――。


「……!」

 京が布団から跳ね起きる、そこは誰もいない道場だった。まだ辺りは暗く、月の光が窓から差し込んでいた。

「夢……、か。それにしても昔のことを夢に見るなんて……。やっぱり疲れているのかしらね」

 京が道場にあるひび割れた鏡を見るとやつれているように見えた。


「妲己……。絡繰兵がまだ」動いているって事は、今でも、生きてるのかしらね」

 

 これは、まだこの物語が動き出す前の事だった。

 


  




 

  

 

 



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