第14話 絡繰戦役とは

「うーん……。突然すぎていまいち信じられねェが、ババアが帝の血筋であるのと何の関係があるんだ?」

「確かに、直接の関係はなく、それを知っておるのは儂や京様自身を含め僅かな者のみじゃなからな。それを証明するものもあまり残しておらぬ」

 アイシャが指摘するとヤンも、もっともだと頷いた。話の本題はここではないと。

「絡繰戦役は知っておるかな?」

「暴君と化し、絡繰兵の導入を強引に推し進めた時の帝を、その弟君とその臣下が討ったと聞いておりますが……」

 話を聞いていた姜治が説明をする。時の帝はかつて賢君であったが、治世が続くにつれつ堕落したというよくある話ではあった。

「そういえば、なぜ時の帝が暴君と化したのか、いまだに明かされておりませんな」

 姜治が想い出したとポンと手を叩いた。

「それは、ある邪仙が絡んでおったのじゃよ」

「邪仙……、ってまさか」

 邪仙――名前の通り邪悪な仙人の事ではあるが、この大陸において歴史に残るような邪悪な仙人は恐らく一人しかいない。


妲己だっきか……」

「妲己でございますか?」


 アイシャと姜治が揃えてその名を口にした。

 妲己だっき――、古代中国の殷王朝を滅ぼしたとされるきっかけを作り出した紂王の妃とされる人物である。

 この妲己の邪悪な所業は様々な書物で語られているが、名君であったはずの紂王を堕落させたという点では一致している。

「待ってくれよ、確か妲己も紂王も、周を興した連中と太公望とかいう仙人が共闘して討ったんだろ?」

「ほう、よく知っているな」

 姜治が感心したような目でアイシャを見た。野盗であったのは聞いていたので、いい印象は持っていないようだ。

「なんだよ?」

 アイシャが睨むも、ヤンがとがめる。

「姜治」

「すみませんでした」

 さすがに姜治は渋々という風に頭を下げた。

「話を戻すかの。その妲己が時の帝に近づいてきたのじゃよ」

「妲己は死んだんだろ?」

 アイシャの疑問ももっともだ、死んだ人間が復活するという事自体がありえないはずだった。

「仙人だからね、生きてたみたいなのよ」

「で、妲己とババアと何の関係があるんだ?」

 アイシャが恐る恐る訊ねる。師である京が心底嫌そうな顔を見せたからだ。

 訊ねるのも憚れたが、訊ねないわけにもいかなかった。


「妲己の狙いが私だった――、そういうことよ」


「は……?」

「そんな馬鹿な!?」

 京が妲己の狙いを口にした瞬間、場の空気が凍り付いた。

  

 

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