第13話 ヤン将軍との面会

「へェ」

 アイシャがじろじろと詰め所の中を見ていた。軍人の兵士が忙しなく働いている。

 ――意外に丈夫に出来てんだな。

 アイシャがざっとみた感想だ。あまり建築物に予算を割けない僻地ゆえに急造であつらえたようだが、大工たちの努力によって材料の割には堅牢なものになったようだ。

「ヤン将軍はこの中にいらっしゃる。失礼のないようにな」

 二人の案内役を買って出た見張りの兵士が釘を刺してきた。

「それは承知しております」

「ならばいい、では自分はここで失礼する。仕事に戻らなければならないからな」

 ケイがかしこまった事を言うと案内役の兵士はそういって詰め所入口へと戻っていった。

「……」

 扉を開けると、白い西洋式の軍服を着た弁髪の老人がそこにいた、おそらくこの老将軍こそがヤン将軍なのだろう。その圧倒的な存在感からして歴戦の強者を思わせるのだが――。


ケイ様ではございませぬか……!」


 京を見るなりヤン将軍は目に涙を湛え、両の手を合わせ一礼した。

「お久しぶりです、ヤン将軍……」

 京もそれに応えるように同じように一礼する。

「そのお姿も変わりないようで」

「まァ、ね……」

 相好を崩すヤンに京は複雑な顔をしていた。京が不老に近い状態あったのは事実だと思わされる。

「おい、ババア。あんた一体……」

 アイシャが疑問を口にした。老いたとはいえ将軍が一介の老師に敬語を使うなどありえないのだから。

「おや、そちらのかわいい娘さんは?」

 と、ヤンがおもむろにアイシャに近づくのだが、


「触ろうとするんじゃねぇッッ!」


「うぐおォォォ!」

 反射的にアイシャはヤンに蹴りを埋め、ヤンは呻き声を上げた。

 しかしヤンもただやられるだけではない、受け身を取り衝撃を和らげている、ただ色ボケしているわけではないと分かる。

「ヤン将軍、なにをやってるんです?」

「いやいや、若い娘を見ると、のう」

 京は手に頭をあててうなだれているると、ヤンはカッカと笑っている。

「いきなり触るかよ普通!」

「確かにいきなり触るのは良くないわねェ……」

「それアンタにも言ってんだからなッ!」

 京はアイシャの言葉に頷くが、アイシャはアホかという風に怒鳴った。京もアイシャに突然セクハラまがいに触ったりしているのだから当然と言えるが。

「ヤン将軍!」

 と、扉が勢いよく開くと、短髪のいかにも堅苦しそうな男が駆けこんできた。

「どうした姜治キョウジや」

 ヤンは蹴りを埋められた部分をさすりながら男の名前を呼ぶ。

「叫び声を聞き参上しました! 賊に襲われたのではないのですか!?」

 姜治は暑苦しさを感じさせる声でヤンの安否を確認するのだがアイシャが怒鳴って割り込んできた、

「このクソ爺に触れらそうになったんだよ!」

「……」

 それを聞いた途端、姜治はヤンを白い目で見た。

「こういった不埒な真似はいい加減やめましょうといったはずですが、将軍」

「相変わらず四面四角しめんしかくな男じゃな。お主は」

 姜治が諫めるとヤンは悪びれもせず、ため息を吐き。

「儂の孫であろう。堅苦しすぎるぞ」

「孫だって? 全然そう見えねェな」

 性格が違いすぎるとアイシャがぼやく。やや軟派に見えるヤンに堅物にしか見えない姜治、確かに似てはいないだろう。

「職務中です、将軍。私情を挟むべきではありません」

「あなたの孫、えらい堅物さんねェ。ヤン将軍」

 京がケラケラと笑うと、ヤンも釣られて笑う。

「はは、帝にお仕えしたいという一心で武芸を磨いていたら、この通りの堅物になってしまいましてな」

「……。賊ではないとすると、この方々は?」

 何者なのかと姜治をヤンに訊ねてきた。

「ふむ、まァ姜治は儂の身内であるし、話しても構わぬか」

 ヤンは姜治に退出を促そうとしたが、止める。


「京様はの、かつて皇族であらせられるお方だったのじゃよ」


「な……ッ!」

 ヤンの口から出た言葉にアイシャと姜治は驚きの声を上げたのだ。 

 

 

 

 

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