第12話 軍の詰所へ

 麓の街の近くに軍が居を構える砦があり、いつものように軍人たちが忙しなく詰めていた。

 僻地ではあるが、絡繰兵からくりへいや人食い虎がかなり出没する地域だけあり、時の帝の要請によりわざわざ将軍が出向き前線の指揮を取っている。

「失礼します。ヤン将軍に取り次いでもらいたいのですが」

 ヤン――、ここら一帯を取り仕切る老将だ。絡繰戦役の際に最前線に立っていた将軍でもある。

 片手で並み居る絡繰兵を握りつぶしただの、敵将を選ばれし精鋭のみで討ち取っただのと誇張されて伝わっていたりもするが、帝が信を置く忠臣の一人であるのは間違いないところだ。

「は? ……ババア?」

 アイシャもヤンの存在は知っていたが、それよりケイの普段の物言いから出ななそうな言葉に驚き、怪訝な顔をする。

「……アイシャ、今すんごく失礼な事、思わなかった?」

 京に睨まれるとアイシャは目をそらし口笛を吹き始める、どう考えても図星なのだが、追及はしなかった。

「将軍に何の用がある?」

「さきほど、紅い絡繰兵を斃したのですが……」

 緑の洋式の軍服を着た軍人が会話する京とアイシャに西洋の銃を突き付けるのだが、兵士は京の一言で青ざめた。

「何ッ!? しぶとい奴ではあったから俄かに信じがたいが……」

「あいつら、やたら自爆したがるからねェ……」

 兵士やアイシャの言う通り、絡繰兵は機密保持のためなのか自爆するように作られているようで、斃した証拠が残りづらい、この時代には映像を記録するものがないのだから余計にだ。

「報告!」

 と、別の兵士が慌てて見張りの兵士に報告に来たようだ。

「紅い絡繰兵撃破の報告! 斃したのは、道着を着た女二人でありますッ!」

「……」

 報告を聞き見張りの兵はアイシャと京を見る。道着を着た女二人、確かに報告通りではある。

 見張りの兵は、二人を見てしばし考えた後、

「わかった、話は本当のようだな。ヤン将軍に会えるよう取り計らおう」

「お願いします」

 京は頭を下げると、見張りの兵士は建物の中へと入っていく。

「ババアって、頭軽そうな事しか言わないと思ってたぜ。アンタは老師だったんだなって」

 誉めたつもりだったのだが、いわゆるそれは地雷だったようだ。

「失礼ね。私だって、公私の区別ぐらいつけるけど?」

「これでもちゃんと褒めてんたぞ?」

 アイシャがぼやきながら肩を竦めた。

「頭軽いってのが余計なんだけど……」

「実際、威厳なさそうだろ?」

「……」

 アイシャに普段の言動の軽さを指摘されると京は一瞬言葉に詰まるのだが、フッと笑い。

「今日はアイシャに老師らしく威厳のあるところを見せてあげようではないか」

「まァ、ババアの過去は気になるからな……。で、ヤン将軍と何の関係があるんだ?」

 赤い絡繰兵撃破の報告だけではない、謎の多い師の過去を聞くのが主だ。

 そこに帝の信厚き将軍であるヤンが何の関係があるのか、気になるところではある。

「そこも含めて話すつもりだから。まァ……、楽しい話ではないから覚悟はしてね」

「……そこはわかってる」

 京の言葉のトーンが重苦しいものに変わったのを聞き、アイシャも気を使って大人しくなった。

「面会の許可が下りたぞ、ヤン将軍は奥の部屋にいらっしゃる。失礼のないようにな」

 見張り兵士が許可が下りた事を告げる。 

「ありがとう」

 今日は再び頭を下げた後、アイシャと共に中へと入っていった。

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